ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >ラオス>社会活動家誘拐>ラオス政府は事件の風化を待ち望んでいる
メコン河開発メールニュース2015年12月15日
記者会見で発言する四名。右端がAngkhana氏
ラオスの社会活動家ソムバット・ソムポーン氏の失踪/拉致事件発生から、12月15日で丸三年が経過します。これを機に、今年も数か所でイベントが開催されますが、昨日(14日)にはバンコクの外国人記者クラブで、来日経験もあるアンカナー・ニーラパイチット(Angkhana Neelapaijit)氏ら四名が会見を行いました。
あらたな証拠映像の紹介、拉致被害者家族の沈痛な思い、国連による働きかけ、ラオス国内の人権状況の悪化など、四名がそれぞれのテーマで発言しましたが、全員が口をそろえて、ラオス政府が本件の解決にいかにうしろ向きで、非協力的かという点を強調しました。ラオス政府は事件が忘れ去られる日を待ち望んでいるようです。しかし、市民社会からの働きかけは今後も続くでしょう。
ソンバット氏の失踪/拉致事件や事件発生三周年のイベントについては、Sombath Initiativeのサイトをご覧ください(英文)
http://www.sombath.org/en/
以下では、記者クラブでの四名の発言の要旨を紹介します。
あらたな編集映像を説明するICJのSam氏
Sam Zarifi氏(International Commission for Jurists=ICJ)
ICJでは、昨年、事件捜査の専門家に依頼して、ラオス政府が行うべき捜査の具体的な方法まで提案した[1]。ところが、ラオス政府からは対応の気配がいっこうに見られない。ソムバット氏が拉致されたのは、ビエンチャン市内から郊外に向かう大通りで、各国の大使館や日本の大使公邸などもあるため、複数の監視カメラが設置されている。ソムバット氏の家族があらたに入手した映像を見ると、何者かが運転した氏のジープは、まず南下し、その後Uターンしてビエンチャン市内に向かったことがはっきり見てとれる[2]。ラオス政府は、こうした証拠を入手する努力すらせず、事件を解決する意思のないことがよく分かる。事件は依然として解決可能だ。ラオス政府は、国内・国際法が定める義務を遂行すべきである。
Angkhana Neelapaijit氏(タイ国家人権委員/Sombath Initiative)
私が外国人記者クラブではじめて発言したのは、夫であるSomchai弁護士が拉致された件についての記者会見だった。事件から11年9か月が経過し、間もなくタイ最高裁が判決を下そうとしている。最高裁が正義を行使するかどうかを見守っている。今回は、ソムバット氏の家族をはじめ、強制失踪の犠牲者となった人びとの家族を代表して発言したい。ソムバット氏の理想は、貧しい者たちにとっての持続可能な開発だった。氏の理想に感化された若者たちが、今もラオスで農村開発の支援活動を続けている。女性たちは有機農業を実践するかたわらで織物や民芸品を製作・販売し、自分たちの力で現金収入を得られるようになった。ソムバット氏の志(こころざし)を継いで、実現しようとする人びとがあらわれていることを心強く感じる。ソムバット夫人のシュイメン氏からは、三年目を迎えて「日々、苦悶している」とのメッセージを受け取った。強制失踪の犠牲者の家族もまた生身の人間であり、感情を持っていることをどうか理解してほしい。
Laurent Meillan氏(国連人権高等弁務官事務所)
国連としても、この件をたいへん懸念している。ソムバット氏は、ラオスという制約の多い国で、たくさんの若者たちを啓発した。しかし、氏の誘拐をきっかけとして、市民の間で恐怖がまん延している。国連はラオス政府と定期的に対話を続け、何度も書簡を送るなど、働きかけを行ってきた。しかし、ラオス政府の回答は、「警察の捜査では結論が出ず、さらに捜査中」と言うばかりである。国連が送った書簡に回答がないこともしばしばだ。今年1月、ラオスの人権状況をめぐる「普遍的定期審査(UPR)」で、氏の誘拐事件の捜査が提言に盛り込まれ、ラオス政府もこれに同意した。しかし、その後もなんの進展も見られない。今後もあらゆる手段を使って働きかけを継続する。国際社会にも働きかけを呼びかけたい。
Phil Robertson氏(Human Rights Watch/International Federation for Human Rights)
事件直前の2012年11月、ソムバット氏は、ラオスの市民団体がラオス政府・外務省と共催したアジア欧州市民フォーラムで共同議長の役割を担った。フォーラムの席では、土地問題、ダム建設、汚職といった、ラオス政府にとって不都合なテーマが話題となり、その結果、ラオス政府は、市民団体/NGOを敵視するようになった。ソムバット氏の拉致にも治安当局の関与が疑われている。2016年、ラオスはASEANの議長国になるが、インターネットに対する規制や集会・結社の自由の侵害など、国内の人権状況はますます悪化している。氏の拉致によって、だれが、いつなんどき同じような目に遭うかわからなくなった。政府の捜査は、茶番としか思えない。この10年、ASEAN首脳会議が開催されるたびに、議長国で民衆フォーラムが同時開催されてきた。しかし、来年に向けては、ラオス政府や政府の息のかかった「市民団体」が、民衆フォーラムでソンバット事件はもちろん、ダム、土地・森林、先住民族、LGBTといった問題を取り上げさせないように画策してきた。各国のNGOからは、来年のASEAN民衆フォーラムをボイコットする声もあがっていた。結局、ラオス政府が資金難を口実に開催を取りやめてしまった。ラオス政府は、ソムバット氏の事件が忘れ去られるのをひたすら待ちつづける戦法に出ている。私たちは、それを許さないために、根気強く働きかけを続けていかなければならない。
注
[1]報告書(英文)Missed Opportunities:Recommendations for Investigating the Disappearance of Sombath Somphone(2014年12月11日)は、以下で閲覧可能
http://www.icj.org/lao-pdr-properly-investigate-sombaths-disappearance-icj-report-says/
[2]あらたなビデオ映像は、以下で閲覧可能(英語)
Press conference marks three years of Lao government complacency on investigation
http://www.sombath.org/en/2015/12/press-conference-marks-three-years-of-lao-government-complacency-on-investigation/
(文責 メコン・ウォッチ)