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ラオス・社会活動家誘拐>事件から3年、ソムバット氏の掲げていた理想とは

メコン河開発メールニュース2015年12月16日

ラオスにおける貧困削減や次世代の教育への貢献が評価され、アジアのノーベル賞とも呼ばれるラモン・マグサイサイ賞を受賞したソムバット・ソムポーン氏が失踪してから、昨日(2015年12月15日)で丸3年になりました。防犯カメラの映像から誘拐の状況は明らかになっていますが、未だにラオス当局からは「捜査中」以上の情報は出て来ていません。

「政治的強制失踪」と呼ばれるこの事件について、詳しくはこちら。
http://www.mekongwatch.org/report/laos/laos_disappearance.html

この事件の背景には何があったのでしょうか? 昨日発信したメールニュース「ラオス・社会活動家誘拐>ラオス政府は事件の風化を待ち望んでいる」の中でPhil Robertson氏が触れているように、ラオスで深刻化している土地収奪の問題と、そこに注目が集まりつつある中で開かれた「アジア欧州市民フォーラム(AEPF)」が重要な意味を持っていたとみられています。これについては、『フォーラムMekong』でもお伝えしています。
http://www.mekongwatch.org/PDF/FM-PDF-3.pdf

ソムバット氏はこのフォーラムに運営委員として関わり、開会式で基調講演を行いました。誘拐の2か月前のことです。以下はその基調講演の和訳です。少し長いですが、氏が貧困削減と、より安定した未来の構築のために持っていたビジョンをお伝えするため、ご紹介いたします。

貧困の削減と持続する開発の課題〜ラオスの視点[注1]


ソムバット・ソムポーン
PADETC(参加型開発トレーニングセンター)創設者/顧問

第9回アジア欧州市民フォーラム(AEPF9)[注2]
2012年10月16〜19日
ラオス・ビエンチャン

 

トンルン・シースリット・ラオス人民民主共和国副首相閣下/博士、ラオス・アジア・ヨーロッパから参加した敬愛すべき友人・仲間たち、紳士・淑女のみなさん

みなさんをこうしてラオスにお迎えすることができて、これ以上の名誉と喜びはありません。ラオスの国土は狭く、つつましやかな国柄ですが、ラオス人は広い心の持ち主です。私は、このアジア欧州市民フォーラムの場で、ラオスを代表してみなさんにお話しできることをたいへん光栄に感じています。本日は、私たち自身と子どもたちのために、いかにして貧困を減らし、より安定した未来を築く目的で協力できるのか、私の考えを聞いていただきたいと思います。

出身が小国であろうと大国であろうと、アジアであろうとヨーロッパであろうと、私たちは人間として、同じ母なる地球でともに生をいただいています。だからこそ、アジアとヨーロッパの住人として、そして人類という仲間として、協調と絆の精神で協力してゆこうではありませんか。貧しき人びとが日々直面する政治・社会・経済・精神上の危機を乗りきることができるように、学び合い、分かち合い、行動をおこすべく、知と情と技を総動員しようではありませんか。

二十世紀、人類は科学と技術の分野で飛躍的な進歩を遂げました。目を見はるような社会基盤や通信手段を整備し、砂漠に水を引き、月面への有人飛行を実現し、医療技術を向上させ、その気になれば、地球を破滅できるだけの大量破壊兵器までも開発しました。その過程で私たちの暮しは、とりわけ物質面で、間違いなくどんどん快適に、そして便利になりました。実のところ、ヨーロッパの先進工業国に住む多数の人びとや、途上国でも富裕層に属する人びとの生活は、便利で快適に過ぎると思えるほどです。一方で、進歩の恩恵は貧しい人びと、持たざる人びとの手元には届いていません。食物の生産を例にとりましょう。食物の生産量は世界中で向上しています。ところが、不公正な経済の仕組みや不均衡な配分方法が障害となって、富裕層は必要以上の食物を消費して肥満に悩み、他方で600万人もの人びとが空腹をかかえながら日々を終えるのです。あるいは、最先端の医療技術を使って寿命を延ばす人びとがいるかと思えば、貧困層の人びとには、安価で使い勝手のよい最低限の医療ですら手が届かないのです。教育についても同じことが言えます。

精神や感情面に目を向ければ、状況はいっそう惨憺たるものです。アジアやヨーロッパのあちらこちらで、肥大した欲望・腐敗・衝動・執着・暴力がうずまいています。物質文明のもたらした快適さが、精神を堕落させてしまったのです。他者を思いやる慈悲の心がうすれ、自己を中心に考えるようになったのです。知性と知恵に導かれるより、感情にまかせて行動し、欲望や目先の快楽に負けて、自分や家族・社会の幸福にとってなにが真に大切かが見えなくなっているのです。これは、かつての人間の姿とまったく違ってしまっています。以前は、暮らしが今ほど楽でなくとも、人びとの行動の根底に、幸福を分かち合い、自然を敬い、互いに倫理的にふるまうといった前提を強く感じさせるものがありました。

なぜこうなってしまったのか?

私は、貧相な教育制度と誤った開発モデルがこうした状況の元凶だと考えています。近代の教育制度、と言うか学校制度は、おおむね西洋を模倣していて、現実からかけ離れたものになっています。細分化・差別化し、枝葉末節に重点をおき、批判の精神や分析する技術を鍛えるのに適していません。教師にとっては、子どもたちがカリキュラムを終えて試験に合格することが大切で、思考をめぐらせたり、分析を試みたり、社会や文化や自然とかかわるのに必要な技術を習得させる指導は二の次になっています。その結果、今の教育制度で学んだ若者たちは膨大な知識を獲得し、ソーシャルメディアを使うことに長けてはいても、多くの者が非常に狭く、閉ざされた世界観しか持っていません。生産と消費のみを知る、まるでロボットのような存在になりつつあります。本来の教育は、人間の知力を最大限に活用する術(すべ)をみがく手段であり、社会に共感と寛容をつちかう方法であるべきです。共感と寛容こそが心の平安や尊厳の感覚、自分への信頼をもたらし、強迫観念・不安・怒り・憎悪を取りのぞくことができるのです。

同様に、現在主流の開発モデルは、均衡・調和・包摂を欠いています。経済成長ばかりに目を奪われて、社会・環境・精神面での副作用を無視しています。均衡を欠いた開発モデルが主因となって、不平等・不公正・金融危機・地球温暖化/気候変動・生物多様性の破壊が発生し、崇高な精神や人間性すら失われていきつつあるのです。地球の温暖化や生物多様性の破壊が取り返しのつかない速度で進行し、そのうち、苦労して達成した進歩をだいなしにしかねないことが誰の目にも明らかなのに、国際社会は、二酸化炭素の排出抑制を義務化する解決策すらまとめられません。これは、明らかに人類の知恵と精神の危機を示しています。私たちは金銭の力に目がくらみ、企業が世界を制覇し、政府さえもねじ伏せる状況を放置しているのです。市井の人びとは、こうした状況に対してほとんどものを申すことができません。そうした人びとの声が政府や企業の耳には届かないのです。1992年、リオ・デ・ジャネイロの地球環境サミットで、16才になる少女が各国の首脳に向かって、「どうやって直せばいいか分からないのなら、地球をこわすのをやめてください」と呼びかけました。あれから二十年、各国の首脳が地球を直そうとする兆しは見えてきません。それでいて、こわす行為をやめようともしていません。人間は、今、地球の再生産能力の1.5倍以上にあたるものを消費しています。地球を一個半消費しているのです。これが持続可能でしょうか? 未来の世代に、なにを残せるというのでしょうか? 地球はひとつしかありません。私たちの行為は、今のうちに手に入れられるだけ手に入れておいて、後始末は子どもたちに任そう、と云っているに等しいのです!

この状況を打開するには?

「おまえのせいだ」と名指しするばかりでは、協力は実現できません。地球を三個から五個も消費している先進工業国の人びとに向かって、思いやりや分かち合いを説いてみてもせんのないことです。長い間の生活様式に感覚が麻痺しているのですから、簡単に改めようと思うわけがありません。先進工業国の生活様式を追い求めている途上国の人びとに掛けあってみても無駄でしょう。長い間、高嶺の花だった便利や快適を手に入れられる機会を逃したくないからです。

この危機的で出口なしの状況を切り抜けるには、三つの大変革が必要です。第一の変革は、権力構造を変えることです。これが最優先の課題です。大企業が政府に対して、どんな投資活動をすべきかを命じる状況をこれ以上放置してはいけません。同時に、政府が市井の人びとの声を無視して金銭の力になびく状況をこれ以上看過してはいけません。政府・企業・市民の三者はお互いを尊重しつつ、対等の立場で力を合わせて、均衡の取れた開発を先導していかなければなりません。私たちの生活拠点がラオスであろうと、アジア・ヨーロッパ、あるいは他の大陸であろうと、これを実現しなければなりません。

地域社会で、国境を越えて、あるいは世界中に、市民団体を通して仲間を作っていくことから始めようではありませんか。政府と企業の中で、権力や金銭に目もくれず、目先の選挙や予算にかまけることもない、長期的な視野で社会にとっての善に関心を持つ誠実な人びとと仲間になろうではありませんか。

第二の変革は、発想をあらためて、新しい開発モデルを掲げることです。新しい開発モデルでは、経済・社会・自然・統治の四本の柱がお互いに支え合い、均衡を保つことが重要です。どれか一本の柱が強くなって、残りの三本に損失をもたらしてはいけません。かりに損失が生じた場合は、その損失を余分の費用として加算しなければなりません。

第三の変革は、市井の人びと、とりわけ若者たちに活躍の場を提供し、変革を担っていけるようにすることです。政治家でも、金持ちでも、企業の最高責任者でもない、ふつうの人びとこそが社会の構成員の大多数を占めるわけですから、社会の発展を考える際には、ふつうの人びとの望みを念頭におくべきです。若い人びとの意見に耳を傾けることは、とくに大切です。若い人びとは自分の力を使って、社会への帰属を深める術(すべ)を追い求めています。若者が持続可能な開発というものに対して抱く発想や情熱を、敬意のまなざしで受けとめるべきです。未来の形は若者たちが決めるのです。未来の形を決めるのに、若い人びとは現在の計画に加わりつつ、過去の成功と失敗について大人たちから学ぶ必要があるのです。

ラオスから聞こえる声

私たちラオス人は、こうした方向に一歩を踏み出しました。このフォーラムを開催する準備の一環として、ラオス国内で、貧困をなくし安定した開発を目指す人びとの輪を広げようと、市民団体が、政府関係者や大衆組織と合同チームを組んで、各県で協議会を開催したのです。現場でともに活動したことで、市民団体と大衆組織との間には強い信頼感が芽生え、市民団体と政府関係者との間では壁を取りのぞきました。貧困とは複雑な課題で、持続的な開発とは一般のラオス人が考えているのとはかなり違った概念であることも学びました。そして、協議会の運営に創意工夫をこらす中で、貧困や持続的開発といった用語は、誰にでも分かるように、ラオス文化の文脈に沿ったことばで説明すべきだと認識しました。ラオスにおいては、貧困と持続する開発は表裏一体で、切っても切れない関係にあります。さらに言うなら、ラオス人は貧困をかなり包括的に、すなわち、物理・社会・精神的な側面をあわせ持つものとしてとらえます。ラオス語には、こうしたことをまとめてうまく表現することばがあります。「クワム・トゥック」ということばで、あらゆる形態の悩み・苦しみを表します。この反対が「クワム・スック」で、幸福・満足感を差します。ラオス人は幸福や満足を、持続する開発や持続する生計手段だと考えるのです。そして、持続する開発とは、経済・社会・自然・統治からなる「開発の四本柱」の均衡がとれてはじめて実現する状態のことなのです。

各県での協議会を通して、人びとの思いがはっきりしました。経済・社会・自然・統治の各柱について、ラオス人が注目したいと願ったのは、以下のことがらです。

  経済の柱:安定した現金収入、雇用の創出、自給的な経済の強化を中心にすえた家計と地元経済の活性化。経済を発展させることで債務を蓄積してはならない。債務は貧困の大きな原因である。経済を発展させ、投資を促進することで人びとの土地の所有権を脅かしてはならない。土地の権利は、食糧の確保や家計・地域経済の安定の要(かなめ)である。

  社会の柱:社会の安定や発展をうながすには、保健衛生の充実、教育の質の向上、人間関係の強化に焦点をあてなければならない。若者に蔓延しがちな薬物乱用・賭博・HIV/AIDS感染などの危険につながる道徳感や家族の崩壊といった社会問題への取り組みを強化しなければならない。

  自然の柱:森林の劣化を抑え、水資源を守り、野放図な都市・産業開発による土地・水・空気への危険化学物質の流出を防ぐことで、ラオスの環境や自然資源を保護・保全しなければならない。

  統治の柱:統治の力と法の順守を強化するために、人びとの法規則や人権に対する認識を高めなければならない。これは、法の乱用や無視を避けるための法の執行の強化と二人三脚で進めなければならない。また、すべての利害関係者が、開発をめぐる意思決定に参加し、監視活動に携わり、必要な情報を受け取ることで、平和を守り、社会の透明性が確保されるように努めなければならない。

人びとの声に耳を傾けることは、権力構造を変革するための第一歩です。私たちは、市民団体・大衆組織・政府関係者の間の協力関係を強めてきました。若者をはじめとする市井の人びとの声をしっかりと聴いてきたのです。

問題は、こうした声をどのように行動に移してゆくかです。私たちがラオスで成しとげたことが、このフォーラムでの話し合いの糧や刺激になればと思っています。これから数日間、私たちは、アジア・ヨーロッパから集まった仲間であるみなさんと意見を交わし、互いの経験から学びあいながら、みなさんとともに、貧困を減らし、持続する世界を築く目標に向かって協力する機会を生み出してゆくのです。

ご清聴をありがとうございました。ラオスでの日々をどうかお楽しみください。

 

[注1]原題は、”Challenges for Poverty Reduction and Sustainable Development - A View from Laos”。講演は英語で行われた。
[注2]「アジア欧州会合(ASEM)」で2年に一度、首脳会合が開かれるのに合わせ、アジアとヨーロッパのNGO主導で開催されているフォーラム。

(文責・翻訳 メコン・ウォッチ)

 

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