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ラオス・社会活動家誘拐>アセアン首脳会談でラオスの人権状況の改善を

メコン河開発メールニュース2016年9月7日

報道でもご存知の通り、ラオスでは、昨日(9月6日)から東南アジア諸国連合(アセアン)関連の首脳会談が開催されています。

豊かな自然や穏やかな国民性に惹かれ、ラオスを訪れる日本人も増えてきました。しかし、ラオスでは、自由や人権が著しく制限されている陰の側面があります。とりわけ、2012年暮、農村開発のリーダーであるソムバット・ソムポーン氏が政府の関与が疑われる形で何者かに拉致されて以来、ラオスの人びとは政府批判をいっそう控えるようになりました。今年3月には、海外からインターネット上に政府批判を投稿したことで3名のラオス人が逮捕され、現在も拘留中です。

このような状況を懸念し、ソムバット事件の解決や人権侵害の停止の緊急性を訴えるために複数のNGOが、首脳会談に訪れる世界の指導者たちに向けて声明を発表しました。また、各国のメディアにラオスの人権状況への理解を深めてもらうために、ソムバット事件をはじめ、ラオス政府による民主主義と人権の制限、表現の自由への介入、人権擁護義務の不履行、海外からの開発援助や投資の影響といったテーマで「ブリーフィング・ペーパー」を作成し、公表しました。

ラオスの人びとが豊かな自然環境の恵みや開発の成果を享受するには、情報の公開や表現・集会の自由といった政治上の権利が前提となった住民・市民参加が不可欠です。特に、日本政府および日本政府が影響力を保持するアジア開発銀行(ADB)や世界銀行は、長年にわたってラオスに多額の開発援助をつぎ込んできました。ラオスへの援助が本来の効果をもたらし、人権侵害を助長・看過することのないよう注視する必要があります。そうした理由から、メコン・ウォッチも今回の声明に名前を連ね、ブリーフィング・ペーパーでは「対ラオス開発援助」の項を担当しました。

以下では、NGOの声明を日本語訳で紹介します。この声明は、8月31日、タイの外国人記者クラブ(FCCT)で発表されました。声明の原文とブリーフィング・ペーパー(ともに英文)は、以下のサイトでご覧いただけます。http://www.sombath.org/en/2016/08/tackle-human-rights-abuses-in-laos/

 

ラオスの人権問題に取り組みを
アセアン首脳会談で、社会活動家ソムバット氏の失踪事件や自由のはく奪問題を焦点に


(2016年8月31日、バンコク発) 東南アジア諸国連合(アセアン)がラオス人民民主共和国の首都ビエンチャンで年次首脳会談を開催するに先立ち、人権団体をはじめ複数のNGOは、ラオス政府に対して、国内で多発する強制失踪や不当逮捕などの人権問題に真剣に取り組むよう呼びかけた。9月6日から8日、ビエンチャンで開催されるアセアン首脳会談は、世界の指導者たちが公式の場で人権問題への関心を表明する絶好の機会である。世界の指導者たちは、権利の尊重、報道の自由、民主主義、信教の自由、財政の透明性といった人権・開発指標で常に下位にランクされるラオスに対して、その元凶である人権侵害を根絶するよう働きかけるべきである。

8月31日、バンコクのタイ外国人記者クラブで主催した会見の席で、ソムバット・イニシアティブのメンバーは、社会活動家ソムバット・ソムポーン氏の強制失踪事件をはじめ、ラオスにおける民主主義と人権の制限、表現の自由への介入、人権擁護義務の不履行、海外からの開発援助や投資の影響をまとめたブリーフィング・ペーパーを公表した。

ソムバット氏の妻でソムバット・イニシアティブの理事を務めるShui Meng Ng氏は、「夫がビエンチャン市内の検問所から車で連れ去られて3年半以上が経過するが、ラオス政府はいまだに夫の身に何が起こったか、はっきりとした答えを寄こしてこない」と語った。「オバマ大統領、国際連合、アセアン、アセアンのパートナー国政府は、ソムバット誘拐事件を今すぐ解決し、夫を無事な姿で私や家族のもとに帰すよう、ラオス政府に働きかけてほしい。そして、強制失踪を一掃し、ラオスの人びとが政府を恐れるのではなく尊敬できるよう、ラオス政府に要請してほしい」。

2012年12月15日、ラオスをはじめ東南アジア地域で農村開発の旗手として活躍していたソムバット氏が誘拐されて以来、ラオス政府は事件の真相究明に向けた努力を怠っている。ラオス政府は氏の安否や行方について情報を公開せず、これはラオス政府も批准/加入した「市民的及び政治的権利に関する国際規約」や「拷問等禁止条約」といった国際条約が定める人権擁護規定に違反している。ソムバット氏が誘拐されたのは、2012年10月、ラオス国家組織委員会の共同議長として、ラオス政府や市民団体がビエンチャンで「アジア欧州民衆フォーラム」を共催する際に協力した直後のことだった。アジア欧州民衆フォーラムでは、土地収奪や人権侵害といった政治的な問題が議論となり、このことが政府内の一部の不評をかったと見られている。

International Commission of Jurists(ICJ)で上級国際法律顧問を務めるKingsley Abbott氏は、「ラオス政府が最後に捜査の進展を詳しく公表したのは3年以上も前のことで、国際法が定める義務にのっとって事件の究明にきちんと努力してこなかったことは明白だ」と指摘した。「ラオス政府は国際社会に対して『捜査を続けている』と言っているが、それだけでは不十分である。信頼性がおけ、効果のある捜査を行い、配偶者であるShui Mengさんに対してはもとより、捜査の進捗状況を定期的に公表することこそが国際法の定める義務だ」。

ラオス政府は、市民の基本的な政治的権利を一貫して規制しており、日常生活はおろか、最近ではインターネット上で政府批判を行った場合も、即座に逮捕の対象となる。今年3月、ラオス警察は、タイでの就労中にインターネット上に政府批判を投稿したとして3名のラオス人移住労働者を逮捕し、不当な拘留が続いている。昨年9月には、ラオス裁判所が、フェイスブックに批判的なコメントを投稿したとして、活動家Bounthanh Khammavong氏に4年9か月の禁固刑を言いわたした。

ラオス政府は、集会の自由もきびしく取り締まっており、これは国家による人権擁護義務に違反している。非営利組織(NPA)をはじめ市民団体の活動も厳格な登録制度の下で規制し、登録を許可する場合は活動計画と予算を入念に監視する。かりに無登録で団体を結成・運営した場合は逮捕や起訴の対象となる。労働者には「ラオス労働組合連盟」への加入を義務付け、連盟外で労働組合を結成することは違法行為と見なされる。村落では多くの場合、政権を掌握する「ラオス人民革命党」の支配下にある民衆組織のみが活動を許される。政府は街頭での無許可集会や抗議行動を禁止しており、発覚した場合は警察や公安部局が即座に弾圧する。

フィリピンの元国会議員でもあるWalden Belloアセアン人権議連(APHR)副代表は、「ラオス政府は市民社会を敵視しており、国連の人権担当も『住民組織やNGOがこれほど恐怖や脅迫を体験している国は世界でもまれだ』と言っている」と語った。「ラオスは今やアセアンでも最悪の人権侵害国家となった。世界の指導者たちは見て見ぬふりをやめ、ラオス政府に市民社会への弾圧を停止させるべきだ」。

ラオス政府は、2020年までに「後発開発途上国(LDC)/最貧国」の汚名を返上しようと、急速な経済成長を目指し、海外からの資本流入に門戸を開いている。しかし、積極的な海外投資受け入れ政策によって、国内のいたるところで社会・環境・経済上のひずみが兆し、とりわけ「経済土地譲渡契約(ELC)」や水力発電所といった大規模プロジェクトでは多くの人びとが立退きを余儀なくされている。こうした国家戦略は、経済・社会・文化の各方面にわたって人権問題の発生につながる恐れがある。

Focus on the Global SouthのShalmali Guttal代表理事は、「これまで20年以上にわたって多額の開発援助や海外投資がラオスになだれ込んだにもかかわらず、教育・健康・水資源・衛生・効果的な法制度といった国内の公共サービスで見るべきものはほとんどない」と指摘した。「投資プロジェクトは、ラオスの農村の人びとの食糧や生計の基盤である自然環境を破壊している。食糧供給が不安定になり、汚職・格差・(農民の)移動が増し、一般の人びとにとって生活は非常にきびしくなってきている」。

メコン・ウォッチのDoi Toshiyuki上級顧問も、「日本、アジア開発銀行(ADB)、世界銀行といった政府や国際機関が、ラオスに対して多額の融資や無償資金を提供しつづけているが、そうした援助がもたらす効果や、一般のラオス人におよぼす環境・社会・人権上の影響がきちんと検証されていない」と述べた。

2005年以降、アセアン首脳会談の議長国では、会議と並行して「アセアン民衆フォーラム/アセアン市民会合(APF/ACSC)」が開催されてきたが、今年はラオスでの開催を断念せざるをえなくなった。ラオス政府がラオス市民の参加を弾圧しないと保障しなかったためである。APF/ACSCの主催者側も、強制失踪、先住民族の権利、LGBTIの人権、メコン河などの河川での大規模水力発電所建設といった話題をめぐる論争をラオス政府が禁じることを拒否した。

Human Rights WatchのPhil Robertsonアジア担当副課長は、「ラオス政府のやり方を認めれば、今回のアセアン首脳会談に集う人びとに、市民の声や人権侵害への懸念を伝えることができなくなる。会期中、公式・非公式の場で人権問題に踏みこむことで、会談に緊張感をもたせられるかどうかは、オバマ大統領をはじめ世界の指導者たち次第だ」と語った。「世界の指導者たちは、ラオス政府に対して、対ラオス関係の将来が国内の人権状況の改善にかかっており、その第一歩として、ソムバット強制失踪事件の解決があることをきっぱりと伝えるべきである。一方、ラオス政府も、海外投資を国際人権法の定める義務にのっとって実施することを公約すべきだ」。

問い合わせ先(省略)

(文責・翻訳 土井利幸/メコン・ウォッチ)

 

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