ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ベトナム>原子力発電事業を再開、日本の関与は?
メコン河開発メールニュース 2025年3月6日
ベトナムが、2016年に白紙撤回していたニントゥアン省での原子力発電所事業を再開します。撤回していた計画2か所のうち一つは、日本が国策として原発輸出に臨んでいたものの、ベトナム側の撤回で頓挫した事業でした。
再開というベトナムの今回の方針転換に関しては、2024年12月のベトナム商工大臣との会合後の共同声明で、日本の経済産業相が歓迎の意向を示し「ニントゥアン原子力発電所建設プロジェクトに関して、導入計画を再開する際には日本を引き続き優先的パートナーとすること、サイトを保全すること等についてプロジェクト停止時に合意済みであることを再確認した。ベトナムのニーズ及びプロジェクトのスケジュール等を踏まえ、緊密に連携の上、検討を行うことを前提として、日本として、日本の技術を活用した原子炉の将来的な導入に向けた実現可能性調査を進めていく用意がある旨を表明。両大臣は、プロジェクトの実施における緊密な協力及び検討の重要性を再確認した」と発表しています。
「第7回日ベトナム産業・貿易・エネルギー協力委員会における共同閣僚声明」(仮訳)
https://www.meti.go.jp/press/2024/12/20241220004/20241220004-2.pdf
現地報道によると、ベトナムの第15期国会第8回会議で、ニントゥアン原子力発電所プロジェクトの投資政策を引き続き実施する、という内容が含まれた原子力法の改正を含む決議第174/2024/QH15号が可決されています。これに加え、今年2月5日にブイ・タン・ソン副首相が、2050年までのビジョンを盛り込んだ2030年までの原子力開発・応用計画を承認した、決定第245/QD-TTg号にも署名しています[※1]。
その後、2011年の東日本大震災に端を発した福島第一原子力発電所の事故により、福島県を中心とした広い地域で甚大な被害が起きたにも関わらず、日本政府は変わらずベトナムへの原発輸出に固執していました。
過去の経緯などはこちらをご覧ください。
ベトナムの原発開発計画と日本の原発輸出
http://www.mekongwatch.org/report/vietnam/npp.html
当時のベトナムの国会は、原発建設計画を中止するという政府提案を2016年11月に可決しました。この際の中止の理由としては、福島第一原発事故を受けた原発発電単価の上昇により、原発に経済競争力がなくなったこと、ベトナムの対外債務の深刻化、核廃棄物の処理問題、住民の環境意識の高まりなどが挙げられていました。
こちらのFoE Japanの声明に詳しい情報があります。
緊急声明「ベトナムの原発計画白紙撤回を受けて:現実を見据えた冷静な判断に敬意 日本政府は無責任な原発輸出政策をやめるべき
https://www.foejapan.org/energy/export/161122.html
ところが2024年11月、電力供給の安定を理由に共産党中央執行委員会が原発計画再開に合意し、ファム・ミン・チン首相が今年2月4日、ニントゥアン省内の2か所に建設する原発の事業主として、国営企業のベトナム電力総公社(EVN)とペトロベトナムを任命。2030年内の完成を目指す考えを示し、正式に再開に向けて動き出しました。総発電容量は4800メガワットです[※2]。
日本政府は、頓挫した原発輸出に経済産業省の補助金(「低炭素発電産業国際展開調査事業」)や委託事業で、合計約28億円を日本原子力発電(原電)に流し、実施可能性調査を実施しました。ここには、福島県を含む東北地方の東日本大震災からの復興のために集められた復興予算も流用されました[※3]。
原電は、原子力発電所しか所有していない専業企業で、2011年の原発事故以降、一基も発電所を稼働できていないにもかかわらず、電力5社から支援を受け存続しています。その資金の総額は13年間で1兆4000億円規模になっていると日本経済新聞が報道しています。(「原電、電力5社が資金負担 震災後に再稼働準備1.4兆円 敦賀「不合格」へ 契約見直しも」. 日本経済新聞 2024/8/3報道)。また、毎日新聞の報道によれば、東電から年間550億円の基本料金の支払いを受けています (「なぜ料金前払い?東電が「発電ゼロの原電」に1400億円」. 毎日新聞 2024/8/20報道)。東電などの支払い原資は、私たちの払う電気料金です。このような経営状況の原電に対し、前回のように日本政府がベトナム「支援」に関与させ、公的資金を供与することにならないでしょうか。
今や原発の建設費は天井知らずとも言え、最近建設されたものも当初予算の数倍を費やしています[※4]。脱炭素という面でも原発がこれに貢献しないことは、既に多くの市民団体が指摘しているところです[※5]。
様々な環境・社会面の問題を抜きにしても、原子力発電所の新規建設は経済的に難しいのが現状ではないでしょうか。そんな中、ベトナムの原子力発電所の建設計画に対し、調査や技術支援の名目で再び日本から多額の公的資金が提供されることを強く懸念します。
注:
※1 ベトナム情報通信省.「主要な原子力プロジェクトに備え、制度を整備(2025/2/8)」
https://www.vietnam.vn/ja/hoan-thien-the-che-san-sang-cho-cac-du-an-hat-nhan-trong-diem
※2JETRO. 「ビジネス短信 国内初の原発計画が再始動、電力政策全般に進展」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/02/ff7d54dd2e64cb7f.html
※3 FoE Japan. 緊急声明「ベトナムの原発計画白紙撤回を受けて:現実を見据えた冷静な判断に敬意罪
https://www.foejapan.org/energy/export/161122.html
※4 FoE Japan.「最近稼働した原発の建設コストは?…今や数兆円は当たり前、当初予算の数倍に膨張も」
https://foejapan.org/issue/staffblog/2024/10/10/staffblog-20704/
※5 「【共同プレスリリース】原発は気候変動対策にならない」等
https://kikonet.org/content/32645
(文責 メコン・ウォッチ)