ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >タイ>「行方不明」の電力開発計画(1)計画策定の動向
メコン河開発メールニュース2025年10月22日
タイは日本の製造業、特に自動車関連企業が多く進出し、日本との経済的な関係が深い国の一つです。また、タイの電力開発分野においては、古くは政府開発援助(ODA)による水力発電開発や送電網整備、1990年代に発電事業が自由化されてからは、独立系発電事業者(IPP)として日本企業が開発に参入できるよう公的資金で企業を支援するなど、日本は官民でタイの電力開発に深く関与してきました。
IPPの中では日本のJ-Powerがガス火力発電で大きなシェアを保持している他、日本が関与してきたタイの隣国ミャンマーのイェタグン・ガス田からのガスが、20年以上日本企業の運転するガス火力発電所に送られていた等、日本企業はさまざまな形でタイの発電事業に関与しています。タイは世界の温室効果ガス排出では1%に満たない国ではありますが、その排出分に関係する日本企業は少なくないということです。
日本でも猛暑が続いていますが近年、地球温暖化の影響は世界中で深刻度を増しています。タイ政府も、記録的な暑さ、豪雨による洪水、地滑りなどに見舞われ、人々の暮らしや経済活動に甚大な被害をもたらしている、と認識しています[1]。タイ政府は2022年に「長期低排出発展戦略(LT-LEDS)」を発表するなど、温室効果ガス排出削減の取り組みに意欲は見せています。
THAILAND’S LONG-TERM LOW GREENHOUSE GAS EMISSION DEVELOPMENT STRATEGY (REVISED VERSION)
https://unfccc.int/sites/default/files/resource/Thailand%20LT-LEDS%20%28Revised%20Version%29_08Nov2022.pdf
一方で、タイは太陽光発電のポテンシャルが高い国とも言われながら、再生可能エネルギーの導入率は低いままです。タイ・エネルギー省の統計によると水力を除くバイオマス発電などを含む再生可能エネルギーの割合は2024年時点で10%程度しかありません。各国の政策とパリ協定1.5度目標との整合を検証するクライメート・アクション・トラッカーによると、タイの政策は「極めて不十分」との評価になっています。
https://climateactiontracker.org/countries/thailand/policies-action/
更に、タイの電力開発においては過剰な電力需要予測が不要な開発を招き、電力料金を引き上げてきた、という市民や研究者からの批判が2000年代から現在まで続いています。特に、電力開発計画(Power Development Plan :PDP)は議論の的となってきました。PDPはかつて5年ごとに見直されていましたが、近年、そのサイクルは崩れています。2020年10月に承認された「2018年改訂版」の後は、新たな計画策定に向けた作業が行われていたようですが、進捗は一般に公開されていませんでした。ようやく2024年に草案のスライドが開示されたものの、その内容には多くの課題が指摘され、議論を呼びました。
メコン・ウォッチでは、2024年12月にセミナー「タイのエネルギー開発計画の問題点とは?」を開催しました。
http://www.mekongwatch.org/events/lecture01/20241204.html
その中で、民間シンクタンク「クライメート・ファイナンス・ネットワーク・タイ(CFNT)」から、調査報告をもとにした「タイ電力開発計画(PDP2024)草案:評価と提案」を発表していただきました。また、東部チャチュンサオ県で太陽光発電の普及に取り組む市民グループ、チャチュンサオ・リ・パワーのメンバーからタイでの公正なエネルギー移行についてお話しいただいています。
セミナーでは、タイの電力分野は設備過剰のままであること、PDP2024草案では排出削減を水素、小型原発、二酸化炭素回収・貯留(CCS)などの未立証で高価な技術に頼っており、それらの影響で電力価格の上昇を招く懸念等が紹介されました。また、太陽光発電が政府のサポート不足で十分成長できていない点も指摘されました。詳細は資料と当日の録画をご覧ください。
「タイ電力開発計画(PDP2024)草案:評価と提案」資料
http://www.mekongwatch.org/PDF/Seminar20241204_Rapeepat.pdf
「チャチュンサオ県とタイにおける「公正なエネルギー移行」運動について」資料
http://www.mekongwatch.org/PDF/Seminar20241204_Gunn.pdf
セミナー録画(YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=hYHZcjlXzho
今年8月、PDP2024草案は承認されることなくキャンセルされ、新しい草案が作られることが政府から発表されました。これに、市民参加の余地が全くなかったことから、市民からの批判が起きています。次回は、その新PDP策定に関する最近の市民側の動きを紹介します。
[1] JETRO. 「タイ、COP29で新たなGHG排出削減目標を設定」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/11/c5a957c5fb839153.html
参考:
フォーラムMekong 「タイ・電力開発の行方〜電力開発計画(PDP2015)を振り返る〜」
http://www.mekongwatch.org/PDF/FM-PDF-10.pdf
(文責:木口由香/メコン・ウォッチ)