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タイ>「行方不明」の電力開発計画(2)計画内容とプロセスに関し市民がキャンペーン

メコン河開発メールニュース2025年10月23日

前回は、タイの電力開発と日本の関係、最新だったPDP2024草案についてお伝えしました。
http://www.mekongwatch.org/resource/news/20251022_01.html

タイの市民プラットフォームJustPowは、エネルギー、知識、コミュニケーション分野で活動する組織や、様々なセクターのネットワーク、計13組織の集まりで、今年7月、「電力開発計画(PDP)が行方不明になり1年」というハッシュタグを立ち上げ、電力開発の影響を受けてきた住民グループ、研究者、NGOのメンバーとPDPに関してオンライン上のアクションを行いました。以下のページでその様子が発信されています(タイ語)。
https://justpow.co/news-public-demand-pdp/

2024年、エネルギー省エネルギー政策計画局(EPPO)は、電力開発計画2024-2037(PDP2024)草案を策定しました。草案に対するパブリックコメントは2024年6月19-23日で実施されましたが、市民はオンラインやFacebookのメッセージ、EPPOのウェブサイトを通じて意見を表明することしかできず、公開された資料もPDP2024草案のスライドのみでした。

JustPowは、PDP2018策定時のプロセスより市民参加が後退したと批判、PDP2024草案に関する公開フォーラムを全国で開催し、市民側の意見をまとめ、PDP2024案の検討期間延長の可能性を求める要望書をエネルギー省に提出していました。

JustPowは、経済面の問題も指摘しています。PDP策定の遅れで多くの民間部門と産業部門が投資において不確実性と信頼の欠如に直面し、タイは将来の産業を誘致する機会を失い、特に国際的な環境対策に不可欠なクリーンエネルギー競争において国の長期的な競争力を低下させている、と批判。また、低炭素エネルギーへの移行が明確でなく、旧PDPは、エネルギー分野で急速に変化する技術・環境と整合性がない、とも述べています。更に策定の遅れにより、投資家はクリーンエネルギーへの投資をためらい、国のネットゼロ目標と矛盾した状態を生んでいると指摘しました。

その後、タイ政府はPDP2024草案に関して沈黙し、2025年を迎えました。

8月になり、タイのエネルギー大臣は、PDP2024草案を撤回し、エネルギー省元事務次官を委員長とするPDP予測・準備委員会の委員を任命しました。この委員会は、新PDPにおける国の電力政策と電力需要の計画と策定のための基礎情報となる、国の長期電力需要予測の作成を担うとされています。任命された委員は、官僚と研究者、ビジネスセクターからのメンバーで、市民の代表は入っていないとJustPowは主張しています。JustPowは、この委員会に市民の代表が参加しない限り、新しいPDPが真に市民の声を反映し、意味のある市民参加を促進した計画であるとは言えない、と批判しています。

9月、JustPowとNGOグリンピース・タイは下院エネルギー委員会に対し、市民社会の要求の仲介役になるよう要請しました。要請では、電力消費者の声を真に反映させるため、新PDP起草委員会に市民社会の代表者を任命するだけでなく、エネルギー政策が公正かつ透明性のある形で策定されることを担保するため、計画案作成の進捗状況を分かりやすい形式で一般に提示し、関係者へのフィードバックのための新たなチャンネルを提供することなどを求めています。

実は8月、タイでは首相のペートンタン・チナワット氏が憲法裁判所に倫理規定違反を問われ失職し、政党の異なるアヌティン・チャーンウィラクーン氏が9月に首相に就任、エネルギー大臣も国営タイ石油公社(PTT)のCEOであったアッタポーン・ラークピブーン氏に代わっています。今後のPDP策定が見直されるのか等は、まだわかりません。そんな中、この9月にPDP2018改訂版に基づいて契約されたブラパーパワー・ガス発電所の計画が進んでいることが明らかとなりました。気候変動が進む中、新しいPDPもなく、過剰な発電能力があるという現状で化石燃料を使った発電所の建設が進むことに、JustPowに参加する市民グループなどは強い懸念を示しています。同発電所の契約上の発電規模は540メガワット、2027年に運転開始とされています。

現在のところ、タイで最後に建設されたガス火力(ガスタービン複合サイクル)発電所は、2024年に商業運転を開始したヒンコン発電所です。同発電所には三菱重工がガスタービンを納品し[1]、事業の融資団には、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行(現地子会社のクルンシーアユタヤ銀行)、三井住友信託銀行が参画しています[2]。ブラパーパワー・ガス発電所について現地では、これまでの日本の銀行の投資傾向や、ブラパーがヒンコン発電所を運営するガルフ・エナジー・デベロップメント社の発電所であることから、日本企業が再び関与するのではないかという懸念が上がっています。

前回も触れたように、タイでは太陽光発電のポテンシャルが非常に高いにも関わらず、化石燃料を使う発電が更に増えることになります。気候危機が顕在化する中、誰もが被害者であり、これ以上の温室効果ガス排出は抑えなければならないはずです。実は、経済的に見ても、タイでは既に太陽光発電が新規火力発電よりも安く、しかも太陽光発電に蓄電機能を付けたとしても安価であるという分析も出ています。次回は、その分析を行ったブルームバーグのリサーチ部門であるブルームバーグNEF(BNEF)の報告書をご紹介します。


[1] タイIPPの140万kW天然ガス焚きGTCC発電所が全面完成
ヒンコンパワー社が進めるプロジェクトで最終となる2号機が運転を開始(2025.01.21)
https://www.mhi.com/jp/news/250121.html
[2] 【声明】 邦銀4行はヒンコンガス火力発電事業(タイ)への融資契約を撤回すべき(2022.04.01)
https://sekitan.jp/jbic/2022/04/01/5494

PDP策定に関しては以下を参考:
JustPow.「電力開発計画2024-2037(PDP2024)草案はキャンセルに。国家エネルギー政策評議会(NEPC)は新たな電力開発計画(PDP)案を策定するための委員会を市民抜きで設置(2025.8.21)」(タイ語)
https://justpow.co/pdp2024-draft-cancelled/
JustPow. 「国民の声を欠く新しいPDPを懸念し、PDP起草委員会に市民社会の代表者を任命することを提案(2025.9.25)」(タイ語)
https://justpow.co/news-pdp-demand-public-participation/

(文責:木口由香/メコン・ウォッチ)

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