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パクムンダムの永久水門開放をめぐる攻防は、クリスマスイブのタクシン首相の現地訪問に移ります。
パクムンダムの影響住民との対話で、世論の支持を受けているタクシン首相は、同じ日、タイ・マレーシア・ガスパイプライン計画に抗議する住民に警官隊が暴力を行使し、流血事態になったことを容認しています。
反対住民と警官隊の衝突・流血事態になっているガスパイプラインをめぐる問題については、
Bangkok PostやThe Nationをご覧いただければと思います。
また、CAINなどのNGOでは緊急アクションを行っています。以下の連絡先にコンタクトしてください。
にコンタクトして下さい。緊急アクションを行っています。
パクムンダムとガスパイプライン、2つの大きな社会問題をめぐるタクシン首相の対応について、現地の英字新聞報道をもとに、バンコクの土井利幸(メコン・ウォッチ)の報告です。
12月20日(金曜日)のタクシン‐パクムンダム反対住民会談について、興味深い数字が報道されていましたので、お知らせしておきます。
Suan Dusit世論調査を基にしたこの報道(12月22日ネイション紙)によりますと、調査対象となったバンコク首都圏の視聴者1053名のうち、75%が「会談は問題解決のための有効な手段であった」という点に賛同しています。
会談におけるタクシン首相への評価は10点満点で8.75。「おだやか、真剣、真摯」な態度が好意的に受け止められています。また、TV中継を見た後でタクシンへの評価を高めた回答者は67%にのぼっています。
30名の住民代表への評価は7.21。「心境を率直に語っている」姿が感銘を受けたようです。一方、大学関係者や関係省庁への評価が6.32と最も低く、その理由は「複雑な数字を使って説明した」ことと「自分の意見をはっきり言わなかった」ことだそうです。
調査の全貌は分かりませんが、この数字を見る限り、視聴者はおおむねパクムンダム問題を政府と現地住民とのコンフリクトととらえているようで、国家の電力・エネルギー政策や環境資源保全の課題とリンクさせて考えているふしは見当たりません(そもそも調査の設定、報道の姿勢自体がすでにそうであるとも言えます)。他方、メディア王として今日の地位を築いたタクシン首相がTV放映で高得点をマークするあたりは、うなずかざるをえないものがあります。
さて、この会談が行なわれた日の夜、南タイではマレーシア・タイ・ガス・パイプライン建設に反対する住民の抗議行動に対して警官隊が暴力を行使した規制を行い、住民リーダー12人を逮捕。住民100名が負傷し、警官隊側にも負傷者が出た模様です。
20日の夜のテレビ・ニュースは、両脇に座ったパクムンダム反対住民と歓談するタクシン首相の笑顔の後に、警防を振りかざした警官隊がガス・パイプライン反対住民に襲いかかる混乱と衝突の映像が映し出されるといった奇妙な取り合わせになってしまいました。ある新聞は、パクムン住民との話し合いが「歴史的会談」であるならば、ガス・パイプラインをめぐる警官隊の行動は「歴史的事件」であるとしています。
この対応の格差については、市民社会から「タクシンの本性だ」、「分断統治だ」という当然の反発が高まる一方で、ナンバー2の側近が「衝突回避の工作を誤った」と告白する記事が掲載されるなど、いろいろな見方が出ています。
タクシン首相自身は、ガス・パイプラインの件について土曜日の定例ラジオ会見で「警官隊の行動を全面的に支持する」と断言した模様で、先のパクムン住民との会談でも「自分は圧力は嫌いでむしろ反発する」と明言しており、強権的な側面をちらつかせています。
また会談で「海外から資金を受けて反政府活動を行なうNGOがいる」との政府報告が紹介されたり、パクムン住民が座り込みを続ける首相府前でも警官隊が支援のNGO関係者の所在をかぎまわったり、南部ガス・パイプ・ラインをめぐる12名の逮捕者も多くはNGO関係者であるとの報告もあります。さらにビルマ関係の活動を行なう団体の事務所があらたに強制閉鎖させられたという未確認情報も入ってきています。
パクムンダムの水門が開くか閉じるかはこうしたタイ社会の様々な問題と連関しているわけで、そう考えるとあの分厚い鋼鉄製の八枚の水門が未来に通じる扉にも見えてきて、24日(火曜日)のタクシン現地再訪に向けていやがおうにも緊張感が高まります。
土井利幸@バンコク