ホーム > 資料・出版物 > タイ汚水処理 > 契約違反で大臣が工事中止を指示
日本の国際協力銀行とアジア開発銀行(ADB)の支援で建設が進んでいるタイのサムットプラカン汚水処理プロジェクトの最新ニュースです。
95パーセント終了している現地の工事が中止となりそうです。理由は、政府の実施機関と工事を請け負ったジョイントベンチャー企業が結んだ契約に、企業側が違反していることが明らかになったためです。
以下は、タイ字新聞の報道を、メコン・ウォッチの木口由香(バンコク)が翻訳したものです。また、記事の中に企業名が出てわかりにくいかもしれませんので、訳文の後に、木口由香による解説がありますので、合わせてお読み下さい。3年間、大きな社会問題となり、ADBのインスペクション政策に基づく独立調査で政策違反が指摘されたにも関わらず、国際協力銀行もADBも何ら適切な対応をとってきません。
工事は完成直前の土壇場で中断されそうですが、プロジェクトは中止となってはいません。住民運動のリーダーの1人のダワンさんは、木口由香に対して、「うれしいといわれれば、うれしい。4年間闘ってきてやっと工事中断となったから。しかし、プロジェクトを政府がどうするのかはまだ明らかではなく、予断を許さない」と話していました。彼女たち影響住民は、引き続き、処理場の立地変更と建設中の施設を水産試験場に転換するよう訴えていくということです。
以下、木口由香の翻訳及びジョイントベンチャー企業に関するミニ解説です。
2003年2月24日
マネージャー紙オンライン(速報)
プラパット・パンヤーチャートラック環境・天然資源省大臣は、サムットプラカン県汚染監理センターの汚水処理場建設の契約を調査した委員会の勧告を受け入れることを明らかにした。勧告では、ジョイントベンチャー企業による工事・工事への支払い及び関連する全ての事業の停止が盛り込まれている。
理由は、ジョイントベンチャー企業が、建設期間に専門的な技能を持った企業−この場合NWWI社であるが−を雇わなかったのに90%以上の支払いを受け建設を続けていたことが、同意していた契約に違反しているためである。
工事の停止に対してジョイントベンチャー企業側が要求する60億バーツ以上の賠償金には、省は一切の支払いに応じない。大臣は、官僚または政治家がこれに関わった(汚職があった)とされる件についてはまだ公表しないが、例外は設けないと強調した。
2003年2月24日
マネージャー紙オンライン
天然資源・環境省大臣は、クロンダン汚水処理場建設で契約違反があったことを認めた。政府は企業側に責任を取らせるため、工事とその支払いを停止すると強調した。一方で、企業が求める60億バーツもの賠償金を支払う責任は全くないと主張した。大臣は、これ以上の損害を出さないために技術面をサポートする特別委員会を設置することを明らかにした。契約者との交渉は、政府の規定に従うという。
本日(2月24日)、プラパット・パンヤーチャートラック天然資源・環境省大臣は、サムットプラカン県(クロンダン区)公害管理地区の汚水処理場の建設契約についての調査結果を発表した。「汚水処理プロジェクトには、反対や要望、そして公害管理局(PCD)と民間の間の契約とその運用が国家に損害、あるいは不利な条件をもたらすとの批判にさらされた上、地域住民からの安全と環境への影響に対する懸念が常に付きまとっている。天然資源・環境省は広く一般に理解してもらうために以下のことを公表する。
このプロジェクトは、PCDと、契約者であるNVPSKGジョイントベンチャー+NWWI社の間で、1997年にターンキー(完成品引渡し方式)契約が交わされた。水質を管理し汚水を安全な水に変えるために、契約では設計と管理について、建築と様々な管理施設からその運転にいたるまで技能を持った者が必要とされている。このプロジェクトを含むさまざまな事業に対して反対や要求があり、調査が行われている。
プラパット大臣は、委員会の調査、契約に対する運用方法の勧告そして、汚職があったという指摘に関する事実関係調査で、以下のような重要な点が明らかになったと述べた。その一つは、契約者の名前からジョイントベンチャー企業の一つであるNWWIが抜けていた点である。だが、ジョイントベンチャー企業は受注額の90%以上の金額の支払いを既に受けている。
重大な違反は、事業の運用担当として契約時から参加していたNWWIが抜けていたことで、この点がターンキー方式の条項に違反している。これは、はっきりと文書によって証拠付けられている。国益を守るため政府はこの点を指摘し、建築とそれに対する支払い、そしてあらゆる事業を停止させた。合意ができていないとされる60億バーツ以上の違約金であるが、政府はこれに対しいかなる責任も持たない。しかし、公平を期すためにジョイントベンチャーを呼び、証拠の提出と意見聴取をする。また、政府の規定に従って国益を重視した上で交渉を行う。
天然資源・環境省では、この件に責任のある公務員と民間人を対象に、真偽と証拠を調査するという。
プラパット大臣はまた、プロジェクト技術面で真に中立な委員会を設置し、被害を起こさないための道を模索するという。土地の取得に関し汚職があるという指摘については、今後も検討を続ける。また、首相も国の将来にとって重要な住民生活と環境に対し、一番懸念を示しているという。企業との交渉はこれまでの契約ではなく、政府の規定に従って行われる。これは、契約企業が契約を最初から守っていなかったためである。しかし、NWWI社が抜けていたにも拘らず、すでに56回の支払いが行われている。
ノプドン・ソムブーンサップPCD局長は、汚水処理場の建設の経験は、タイにとって汚水処理事業が新しいものであるために非常に重要であるという。一般には汚水の発生源と処理場は近くに作られ、水が低いほうに流れるという自然の原理を利用して汚水は運ばれる。しかし、クロンダンの汚水処理場では発生源が非常に離れているため最初から専門家が必要とされた。そして、家庭廃水と工場廃水をどのように混ぜたら良いか、運転費用はいくらになるか、といった点で一つの分野だけではなく様々な専門家に頼ったのである。この後の進捗状況については、おりおりメディアと国民にお知らせしていく、と局長は話している。
NWWIとはノース・ウエスト・ウォーター・インターナショナル社のことです。この企業が完成後の3年間試験運転を行った後、タイ政府に引渡しを行うことになっていました。しかし、この企業は途中で撤退。残ったJV企業には汚水処理場の運転ノウハウはありませんでした。1年ほどたってから、JVの5社がOPCOという企業を別に立ち上げ、NWWIの代わりに契約者に加えました。おかしなことに、もともとノウハウがないのでNWWIと組んだ企業群が、自分たちで処理場を運転する会社を作ったわけです。NWWIには、建設されている処理場が要求する仕様にあったものかチェックする役割もあったので、建設中の少なくとも1年間はこうしたチェックがなされなかったことになります。この一連の事態が、完成品引渡しであるターンキー方式の契約に違反する、という解釈となるそうです。