ホーム > 資料・出版物 > タイ汚水処理>ODAを出したJBICに審査責任はないのか?
以下は、日本が円借款ODAを出している問題案件のタイのサムットプラカン汚水処理プロジェクトに関するバンコクの土井利幸(メコン・ウォッチ、マヒドン大学大学院)からの報告です。これだけ大きな問題になっているのに、JBICとADBはあくまで責任をタイ政府だけに押し付け、融資を審査した側の責任など全くないという態度です。
本案件の問題点やこれまでの経緯につきましては、以下を参照下さい。
サムットプラカン汚水処理施設建設問題に関する最新報道(バンコク・ポスト2003年4月28日)です。
報道内容は、要するに「建設が中止になってもタイ政府がアジア開発銀行(ADB)と国際協力銀行(JBIC)からの融資を全額返済しなければならない」、という点に尽きるかと思います。これだけの問題プロジェクトを、これまで地元住民側から発せられた再三の意見・申し立てにも関わらず今まで放置しておいて、「貸した金はきちんと返せ」と「警告」するだけだとすれば、ADBもJBICもあまりに無責任だ、という批判はまぬがれないでしょう。
また気になりますのは、こうした報道が「汚水処理施設は必要なんだし、せっかくそのために金を借りたんだから完成させてしまえ」、はては「ADBやJBICが施設の完成を望んでいる」といった印象を読み手に与えかねず、世論誘導になりかねない点です(今のところタイ字紙での同様の報道は確認できませんが)。
なお、文中にもありますように、この汚水処理施設は重金属処理が十分にできず、したがってタイ湾の汚染を悪化させこそすれ歯止めにはならない点、運転には電力購入などに莫大なコストがかかり施設を運転・維持することでかえって政府予算を圧迫する点は、これまでも現地住民たちが一貫して主張しています。サムットプラカン県の環境保全の必要性についてはクロンダンの人々も全く同意見で、だからこそこのような役にも立たず負担ばかりが増すプロジェクトは早く中止にすべきだ、というのが住民たちの意見です。
バンコク・ポスト2003年4月28日
Wichit Chantanusornsiri記者署名記事
アジア開発銀行(ADB)と日本の国際協力銀行(JBIC)は230億バーツ(約690億円)を投入したクロンダン汚水処理施設の建設が中止となった場合は100億バーツ(約300億円)以上にのぼる融資と利子を全額返済しなければならないと警告した。
タイ政府財務省関係者によると、本プロジェクトに貸付を行なった両機関はタイ政府の政策決定者がプロジェクト中止を決断した場合でも返済条件は全てそのままである、と言い張った。
サムットプラカン県のクロンダン汚水処理施設は環境保護団体と地元住民リーダーたちから、計画立案過程が不透明性であったことと操業した際に重金属を除去できないことなどで、きびしい批判の対象となっている。
政府関係者が施設の建設地を変更して土地売買から利益を得ようとした汚職・共謀疑惑も浮上しプロジェクトが問題化している。
タイ財務省は科学技術省が建設するこの施設への資金として100億バーツ(約300億円)以上を借り入れた。そのうち引き出されていないのはわずかに4〜5億バーツ(約12〜15億円)である。
ADBとJBICはともにタイ財務省に対して、プロジェクトの今後が明確になるまでの間借入金からのあらたな支払いを行なわないように要請した。
プロジェクトに対する貸付は1996年に始まり、その中にはADBからの2億3000万米ドル(約276億円)とJBICからの3900万米ドル(約46億8000万円)が含まれている。貸付期間は20年で、このうち5年は返済猶予期間。利率は5%である。
タイ財務省関係者は両融資機関に対して、汚職調査が行なわれるまで建設を止めるよう内閣が命令を出して以降施設は凍結状態である、と説明した。現時点で施設の95%以上が完成している。
汚水処理施設建設にかかる総費用は229億5000万バーツ(約690億円)と見られ、海外からの融資に加え残りの100億バーツ(約300億円)の資金は政府予算から支出されている。
「もしプロジェクトが中止になれば残念なことだ。プロジェクトの透明性や計画段階の汚職の可能性を問うことは正当だが、現実問題としてタイ湾の汚染に歯止めをかけるには処理施設が必要だ」とある財務省関係者は語った。