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タイ揚水発電>住民リーダーの死

メコン河開発メールニュース 2004年5月6日

タイのラムタコン揚水式発電所建設に伴う健康被害の問題を追い続けてきたメコン・ウォッチの木口由香からの悲しい報告です。

非常に残念で心の痛むお知らせをしなくてはなりません。

日本のODAと世界銀行の融資で行われたタイのラムタコン揚水発電所建設、その工事が原因とみられる健康被害を訴え続けてきた住民のリーダー、メサニ・ガーサンさんが3月5日、48歳で永眠されました。

メサニさんは、ラムタコン揚水式発電所の上部池の建設時に大量の粉塵を浴び、健康を害していました。粉塵には様々な化学物質が含まれていた可能性があります。工事中、彼女はお父さんと甥も亡くしています。彼女は自分の体にもかまわず、村人のため奔走していました。2003年3月には来日もし、この問題を日本の市民の前で訴えました。融資を行った国際協力銀行(JBIC)とも話し合いを持ちましたが、JBICからは誠意ある回答は引き出せず帰国されました。

その後、頬に皮膚がんを発症し自宅で療養を続けていました。2004年1月以降、ほとんど起き上がれない状態でしたが、現地を訪問したメコン・ウォッチのスタッフに「私のことを知っている人たちによろしく伝えてください。神様が許せばまだここにいますが、そうでなければ行かなくてはなりません」と伝言していました。彼女は敬虔なイスラム教徒でした。

彼女は亡くなる間際、被害状況を記録するために現地を訪れたタイのNGOスタッフに、自分の写真やビデオを撮らせています。元気な頃の彼女から比べると、全く変わってしまった容姿をあえて記録するように伝えたのです。後の人たちのため被害を記録し、自分の死を無駄にしないように、というご遺志でした。最後まで勇気のある方でした。

3月、現地に弔問に訪れたメコン・ウォッチのスタッフに対して、ずっと一緒に闘ってきたBさんは墓地の横でこのように語ってくれました。

「僕たちはずっと苦労を共にしてきました。抗議のため座り込みをして雨に打たれるのも、路上で生活しなくてはならないときも、ずっと一緒だったのです。今日、3回目のお参りでやっと、涙を流さずに彼女の墓の前に立てました。彼女はもう平安な場所にいるのでしょう。これからは彼女が背負っていた重荷を、残った者で肩代わりしていかないといけません」。

私たちはこれからも、この問題を追い続けます。

メサニさんのご冥福と、ご家族と友人たちの心の平安をお祈り申し上げます。

事業の概要とその問題点

ラムタコン揚水式発電所(タイ、ナコンラチャシマ県)は500MWの発電能力を備えた揚水式発電所である。国際協力機構(JICA)が1991年に事前の開発調査を、また1994年にJBICが世界銀行と協調融資を行い上部貯水池、水路、発電所などが建設されている(JBIC:182億4200万円、世銀:1億ドル)。

この上部池やトンネル工事を行う際、近くにあった2ヶ村、オヤイティアン6区と10区に、工事由来の粉塵が2年7ヶ月もの間降り注いだ。粉塵のため、農作物・家畜だけでなく住民の健康被害までも引き起こしている。住民は住民組織のネットワーク、貧民連合(Assembly of the poor)に加わり、政府と交渉を重ねていた。

その結果、3年前に中立的な調査を行うための作業部会が設置された。だが、環境と住民の健康についての被害状況を調査する部会は、事業主体であるタイ発電公社(EGAT)が調査予算を拠出しなかったために、長らく調査を実施できないでいた。2003年末になり、ようやく環境の調査チームは調査を開始したが、健康への健康被害の有無については、担当医師の人選を巡ってEGATが難色を示したため、いまだに実施されていない。その間にも、影響住民の間には肺や気管支の病気を抱える人が増加し、医療費の負担に生活は困窮を極めている。

この問題については、以下のサイトをご覧下さい。

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