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ラムタコン揚水式水力発電所

プロジェクト名
ラムタコン揚水式水力発電所(Lam Ta Khong Pump Storage Project)
所在地
タイ・ナコンラチャシマ県
実施機関
タイ電力公社(EGAT)。旧国際協力事業団(現国際協力機構、JICA)が事前調査を行い、電源開発株式会社が工事の施工管理を担当した。
資金供与
旧海外経済協力基金(現国際協力銀行、JBIC)が円借款(ODA)として182億円、世界銀行が1億ドルを融資。
状況
建設は2001年12月に完了したが、爆破作業による健康問題が依然として続いている。

ラムタコン揚水式水力発電所建設事業

この揚水発電所は、ムン川(メコン支流)の支流、ラムタコン川に作られた。タイ発電公社が事業主、国際協力事業団(JICA)が調査、海外経済協力基金(現国際協力銀行)が18242百万の融資を実施、フランス、ポルトガルなど、各国の企業が参加した中で日本の電源開発の施工監理で工事が行われた。揚水発電のための下部池は既設のラムタコン貯水池を利用しており、この事業では上部貯水池、水路、発電所などを建設している。

発電所は丘陵地に作られた上部池と下部池の370mの落差を利用して1000MWの発電を行う設計である。1991年の国際協力事業団の調査最終報告書によると、同事業は増えつづけるタイの電力需要とピーク負荷に対応するために事業化されている。その後、タイの経済危機以降、タイ発電公社が多大な余剰電力を抱えていることは新聞報道などから周知の事実であろう。2002年2月現在、発電は開始されておらず、上部貯水池の改修が行われていた。

計画地点はタイ政府により環境上の開発規制区域に指定されており、環境や美観に配慮して水路や発電所は地下に敷設された。上部池だけが地上に出ている形だが、この上部池建設が地域の生活に多大な影響を及ぼしたという。住民の話によると上部池建設のために2年7ヶ月のもの間、ほぼ毎日爆破作業が行われ、工事による粉塵がシーキゥ郡カオヤイティアン6区と10区の二つの村に降り注ぎ、そのことに対して何ら効果的な対策が取られなかったというのである。最終報告では住民移転問題がなく、環境面からもフィージブル(注1)、とされているにも関わらずである。

このレポートは公の報告には載っていない住民の訴えを元に構成する。人々の訴えの中には事実に反するものもあるかもしれない。だが、開発する側が「影響を受けた」と訴える人の声に耳をかたむける姿勢がなければ、現在盛んに言われている住民参加やステイクホルダーへの説明責任を実現できないと考えるからである。

調査対象に無い影響

「毎日、この車で病人を下の町に運びました。人によっては他人が自分の車上で死ぬのを嫌がりますが、仕方なかった。次々と病人が出てピストン輸送した日もあります」。住民の一人Aさんは自家用のピックアップトラックを見ながら当時の状況をそう話していた。呼吸困難になった村人を山の中腹の村から平地の町に運ぶ役目を担っていた彼は、村落のほぼ全世帯で健康に異常のある人が出ていると訴えている。その症状は以下の通りである。

また、この地域は井戸水や天水を飲料水として利用していた。乾期には雨水を飲料とする世帯も少なくない。天水は屋根に集まった水を樋で集めていたので、屋根に積もった粉塵も水がめの中に入ったと見られている。その水を飲むと、時には腹痛などの症状も出たという。

住民は工事期間中に何度もタイ発電公社と話し合いを持っているというが、「工事が終わるまで待って欲しい」と説得され、解熱剤の配布などを受けて我慢をしたというのである。工事現場で働く人が少なくなかったこと、工事後の対策を約束されて納得した、などの事由により工事に対する反対や妨害は発生しなかった。

JICAによる事前調査書には粉塵や保健衛生の対策をとる必要がある、と明記せれているが具体案は記されていない。

工事中の村の状況

住民の話によると、上部池の爆破作業は午前11時半と午後6時の1日2回行われていた。粉塵は黄色などの色がついて見えるときもあり、空高く舞い上がった後、風向きによってはそのまま村の上に降り注いだ。周りが見えなくなるほどの日もあったという。

住民の訴える被害は主に、粉塵と爆発時の騒音によるものであった。

粉塵
果樹が実を結ばなくなった。
バナナ、パパイヤが枯れてしまった。
野菜の芽が出なくなった。
家畜へ影響(注2)。
騒音
牛は騒音に弱いので、毎日の爆音に怯えて乳を出さなくなった。音の影響は乳牛だけではなかった。アヒルも驚くとパニックになって踏みつけあって、何匹も一度に死ぬときもあった。人間も影響を受けた。子どもの中には怯えて精神的に不安定になるものもあった。大人も同様でイライラから喧嘩が絶えなかった。

同地区はほぼ全世帯が農家である。上記のような影響を受けた結果、農業収入は激減したという。また、喘息のような症状があり、きつい仕事は出来なくなったと訴える人が少なくなかった。体調が悪く日雇いの仕事が出来ず収入がほとんど無くなったので、兄弟から送金してもらって生活したという人もいる。住民の話では、EGATのスタッフは良く村にやって来たが、問題を解決してはくれなかった、ということである。医者を連れてきて薬を配ったが、解熱剤、かゆみ止め、など対症療法の薬が配られただけだった。この医師の診断では、粉塵は健康に何の影響も及ぼしていないということだった。解熱剤を飲みすぎてむくみなどの症状を起こす人まで出た。それでも飲まずにはいられないほど体調が悪かった、と住民は説明する。現在17歳の女性のケースでは、小児喘息が治った後、工事を経て再び体調が悪化、高校1年生のとき中退をして家で養生しているという。機会があれば復学したいと言っているが、父親も喘息のような症状を抱えており、収入が不安定だということであった。

また、工事期間に誕生した子どもたちの多くに、何らかの障害があるとの発言もあった。例えば、7歳になっても学校に通えない子、4歳になるがほとんど話すことが出来ない子など、工事との因果関係は別として明らかに障害があることが見て取れる子どもが小さな村数人見られる。

発電公社による生活支援事業

補償を求めている住民は、発電公社が行った事業について以下のようなケースを上げている。

住民は従来、箒(ほうき)作りや茅葺状の屋根パーツの販売で現金収入を得ていた。体調を崩した人の多くがこの作業に生計を依存しているという。このように住民が自主的に行っている経済活動であれば、市場は既にあるか、住民自信が開拓できる。これらは生ものではないので、遠隔地にも販売できる。しかし、外から持ち込まれた事業のマーケット開拓を住民自身が担えるだろうか。その上、初期投資は住民がEGATから融資を受けて行っているのである。リスクは住民が背負うようになっている。自己責任、という言葉があるが、住民の側は「援助」という言葉に振り回されたようである。実際は融資であるのに、マーケットまで探してくれる、というような説明を受け、借金をした意識は薄かった模様だ。

住民の要求

「この事業のおかげで道路はよくなりましたが道路は食べられない。健康の問題もあります。私たちは事業に反対をしたこともなく、今まで協力を惜しみませんでした。でもなぜ助けてもらえないのでしょう?」

住民は生活用水にも問題を抱えている。今まで地下水を利用してきたが、貯水池を作った影響下、一部の井戸が涸れたので、EGATの作った生活用水の貯水池に依存している。しかし、「浴びると全身に発疹がでる」と訴え、上半身を見せてくれた住民が何人もいた。実際、貯水池の水はコーヒー牛乳のような色をしており、浄化施設が作られたとはいえ、十分に清潔な水が供給されているようには見えなかった。

住民は現在、清潔な水の供給と健康被害の事実関係を調査し適切な治療を受けたいと望んでいる。現状では治療費は自費であり、多くの世帯で家計を圧迫しているという話であった。また、EGATの職業訓練事業などで発生した負債の帳消しも求めている。

まず、事実関係の調査を早急に行うべきであるが、その際、地域住民の声が正確に反映されたものでなければならないのは言うまでも無い。住民リーダーの話によると、補償を求めるためにデータを集めようと思いカルテや処方箋のコピーを病院に要請したところ、先回りした何者かがカルテを押さえてしまった、という話があった。事実かどうか確認することは出来なかったが、今後、もし調査などが入る場合は事業の利害関係から離れた組織が調査を担うべきであろう。住民の健康についての長期的な調査も必要なはずである。この工事の施工監理に携わった人物のインタビュー記事をインターネット上で閲覧したが、その中に工事を担当したイタリアのゼネコンについて「工程管理や安全・衛生面に関することは日本のゼネコンの足元にも及ばない」「2年5ヶ月の間に4件もの死亡事故が発生してしまった」(注3)とのコメントがある。住民の話によると4件のうち、3名の方は雇われた地元の人だそうだ。一方の住民側は、「工事が終わったら対策をとる」という言葉を信じて、粉塵被害の物的証拠や細かい記録をつけていなかった。

証拠がないからといって、私たちは工事に対して責任を持たなくて良いのか。住民の言うとおり、地域の子どもたちに重大な障害を負わせていた場合、いったい誰が責任を取るのだろうか。

  1. 国際協力事業団「タイ王国 ラムタコン揚水発電開発計画調査最終報告書」 1991年11月

  2. 同地区は涼しい気候を利用して酪農が行われている。粉塵が家畜の飲み水に入り、死亡した牛、流産した牛なども多いという。鶏や豚なども不衛生な水の影響をうけた。

  3. 土木学会ジャーナル(ISCE Vol. 85 Dec 2000) 「海外に羽ばたく 第2回 海外と張り合う 」

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