ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > 【ナムトゥン2ダム・キャンペーン】第4号 東京ワークショップでも疑問と批判が相次ぐ −世界銀行「融資は決めていない」の偽善−
(特活)メコン・ウォッチ 2004年9月6日
ラオスの人々の生計手段を奪い、環境破壊を進めるプロジェクトに、世界銀行やアジア開発銀行の資金が使われないよう、皆さんの力を貸してください!
9月3日(金)、東京の国連大学でナムトゥン2ダムをめぐるテクニカル・ワークショップが開催された。プレゼンター及びパネリストとしてラオス政府、ナムトゥン2電力会社(NTPC)、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)の関係者が来日した。
参加者は合わせて100名ほどで、多くは電力会社、開発コンサルタント、政府関係者であった。
ワークショップでは、NGOから疑問や批判が相次いで出された。しかし、ラオス政府は、過去のダムが引き起こしてきた問題やナムトゥン2ダム計画のこれまでのプロセスの問題には目を瞑って、「ラオスは貧しく、他に選択肢はない」と繰り返した。一方、世界銀行はプロジェクトへの関与の正当性を問う質問に対して回答をはぐらかし続けた。
例えば、ナカイ高原の森林減少の原因はダム建設を前提として軍所有の企業が93-96年に激しく行った伐採にあったという指摘がNGOの参加者から出た。これに対し、ラオス政府は80年代にはナカイ高原の森林はすでに荒廃していたと説明したが、90年代の伐採の写真が見せられると、「過去の問題を持ち出して何の意味があるのかわからない」と開き直り、「伐採は97年以降行っていない」「今まではモニタリングの費用がなかったから問題が起きていたが、ダムによる歳入を違法伐採のモニタリングに使える。過去にあったような違法伐採を今後は阻止することができる」とこじつけの反論を行った。ダムのために行われた伐採で劣化した森林を保全するために、ダムを作るしかないというのは奇妙な話である。
世銀に対しては、この違法な伐採の後に行われた環境アセスメントの正当性への疑問や、95年末に行われた住民移転が同年のエイド・メモワールに違反していることが指摘されたが、なぜかラオス政府が「世界銀行は97年から関わりを始めた」という的外れな発言をし、世界銀行は明確な回答を行わなかった。
日本の財務省の参加者からは、「単にダムの売電収入を貧困削減のための予算に割り当てるだけでは不十分で、ラオスの財政・金融制度や実施能力全体の向上が必要だ。ナムトゥン2ダムの準備にそれは間に合うのか」という質問が挙げられたが、世銀からは明確な回答は得られなかった。
これ以外にも、世銀の審査前に住民移転が行われた問題、被影響住民が商品作物栽培に転換するリスク、過去のダムが引き起こした問題への不十分な対応、ラオス政府のガバナンス、電力売買合意(PPA)の公開の必要性、ダム準備の伐採で生活手段を失わせてからの合意形成、などについて疑問や批判が出された。その一方で、このプロジェクトを積極的に支持する声は皆無だった。
今回のワークショップで顕著であったのは、議事進行が極端にプロジェクト推進側に偏っていたことである。モデレーターは、農林水産省で建設畑にいたあと、メコン河委員会(MRC)の初代事務局長を務めた的場泰信氏であった。農水省時代はダムを推進する立場にあり、MRCの事務局長当時も市民社会との対話に消極的だった人物である。
まず、冒頭でNGOがこのワークショップの位置付けを確認しようとしたところ、議事次第にないことを理由に強引に却下した。的場氏はNGOの参加者に対し、「参加者はプログラムを見て参加している。あなた方の一方的な意見など聞きたくない参加者も大勢いる」と述べた。議事次第に沿ったプレゼンテーションに関する意見と質問しか受け付けないことが「国際ルール」というのが彼の認識のようだ。
さらに、ラオス政府の見解に対し直接関係する質問をしようとしたNGOの参加者を、「ここは相互のやりとりをする場ではない」と制し、別の参加者からの関係ない質問を優先した。一方で、ラオス政府関係者の発言が制限時間を超えても注意を促すことはなかった。最後までNGOを制し、プロジェクトの推進者側を優遇するという役割を演じ続けた。本来はプロジェクトの推進者にも反対者にも公平な議事を進めるべきモデレーターに不適切な人物を選んだ世界銀行の基準に大きな疑問が残った。
「融資を決めていない」と主張する世界銀行が、ナムトゥン2ダムを進めたいラオス政府やNTPCを支援する形でワークショップを開催することには疑問がある。また、十分な事前の情報公開もなく、周知期間が短かった上、議題設定など議事進行の柔軟性のない今回のワークショップを「公聴会(public consultation)」と位置づけることはできない。そう考えた日本のNGO4団体=FoE Japan、「環境・持続社会」研究センター、グリーンピース・ジャパン、メコン・ウォッチ=は、ワークショップで声明文(日本語・英語)を提出した。
これに対して世界銀行は、国際ステークホルダーとの協議は環境社会配慮に関する政策では求められていないとして、このテクニカル・ワークショップは「公聴会」ではないことを認め、義務付けられている「公聴会」は今後行うし、引き続き対話の場を作っていくことを確認した。その上で、ワークショップ開催はプロジェクトの推進者を支援しているというNGOの批判には、ワークショップの目的はあくまでも様々なステークホルダーの意見を聞くことであると強調した。
世界銀行は東京ワークショップのまとめをホームページに掲載した。この中では、NTPCとラオス政府の言い分が全体の3分の1以上を占め、ワークショップを埋め尽くしていたNGOからの批判について触れられた部分は1割にも満たない。ワークショップの目的は様々なステークホルダーの意見を聞く場だったはずであるのに、そのまとめは、ナムトゥン2ダム推進側の言い分を宣伝するものとなっている。
今回のワークショップの目的はステークホルダーとの意見交換だと言いながら、その結果を伝えるホームページでは、出された意見ではなく、推進者側の言い分を書き並べる以上は、「プロジェクトありき」で開催したと批判されても文句は言えまい。ワークショップでは「融資については理事会が決めることで私たちは何の決定もしていない」と強調したが、世界銀行が徹底的にナムトゥン2ダムを推進する立場であることは間違いない。これはあまりに偽善的な姿勢である。このワークショップを通じて、世界銀行やアジア開発銀行のナムトゥン2ダムへの融資に対するNGOの懸念はいっそう深いものになった。
ラオスのナムトゥン2ダム計画は、日本が第2の出資国となっている世界銀行が支援をするかどうかで、国際的に最も論議を呼んでいる大規模インフラ事業です。約6000人の立ち退き住民を含め10万人を超える農村住民に被害をもたらし、アジア象など貴重な野生動物の生息地を破壊します。総事業費は、ラオスのGDPの70パーセントに相当する12億ドルで、そのうち70パーセント以上を海外からの借金でまかなうことになります。計画の実現は資金が集まるかどうかにかかっており、そのカギを握っているのが世界銀行の支援です。もし世界銀行が協力を約束すれば、それが「お墨付き」となって民間銀行団の金利の高い融資が、重債務貧困国のラオスに流れ込むでしょう。経済的にもリスクが高いプロジェクトなのです。
ナムトゥン2ダムが地域住民の生活やそれを支える生態系に及ぼす影響に懸念を抱いてきた私たちメコン・ウォッチは、世界銀行とADBに巨額の資金を提供している日本の市民社会に向けて、この事業の概要や懸念される問題について情報を共有し、公的国際金融機関の融資を阻止するべく、このキャンペーンを始めました。是非、世界銀行、ADB、財務省国際局に対してナムトゥン2ダムへの資金協力を行わないよう働きかけにご協力下さい。
http://www.mekongwatch.org/issues/namthuen2.html#SEC1
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