世界銀行が支援を検討しているラオスのナムトゥン2ダムから電力を買う予定のタイ。この国にはかつて世界銀行のプロジェクトで被害を受けた住民たちが大勢います。そうしたタイの世銀プロジェクト被害住民が、バンコクでナムトゥン2ダムに抗議する街頭行動を行いました。以下、メコン・ウォッチの土井利幸(バンコク)の報告と翻訳です。
ラオスの人々の生計手段を奪い、環境破壊を進めるプロジェクトに、世界銀行やアジア開発銀行の資金が使われないよう、皆さんの力を貸してください!
今月14日(月曜日)、東北タイ各県から貧民連合のメンバー約150名が首都バンコクに集まり、世界銀行バンコク事務所の前で抗議の街頭行動を行いました。中心となったのは世界銀行などが融資して、大きな環境・社会影響を引き起こしているパクムンダム(ウボンラチャタニ県)とラムタコンダム(ナコンラチャシマ県、日本の国際協力銀行(JBIC)も協調融資)の被害住民です。住民たちを街頭行動に駆り立てたのは、自分たちが受けた被害にきちんと対応することもなく、再び隣国ラオスでの巨大ダム建設に融資をしようとしている世界銀行に対する怒りと、圧制のもとで声をあげたくてもあげられないラオスの農民たちに対する共感です。
街頭行動の模様は、テレビや新聞をはじめとする多くのタイ・メディアで報道されました。以下では、ラジオ・フリー・アジア(RFA)の記事を日本語訳で紹介します。ところが、こうした声を無視して、世界銀行は、翌々16日に、「建設計画の査定を終え、融資審査に必要な書類を理事会に送付した」と発表しました。
RFAの記事が言及する野生動物の生態把握をはじめとして、各方面から投げかけられた課題に十分対応しないまま、世界銀行は理事会に対して判断を仰ごうとしています。
世界銀行の理事会は、3月31日(米国東部時間)に予定されており、数日後には、同じく融資を検討しているアジア開発銀行(ADB)も理事会を開催する見込みです。世界銀行では第二位、ADBにおいては第一位の出資国として、理事会での決定に大きな影響力を持つ日本政府・財務省は、こうした拙速な判断をよしとしてしまうのでしょうか。
ラジオ・フリー・アジア(RFA)
2005年3月14日
〜3月14日、タイ・バンコクの世界銀行(世銀)事務所前でタイの農民グループが、ジェームズ・ウォルフェンソン世銀総裁の人形を燃やす街頭抗議行動を行った〜
【バンコク発】環境問題に取組む100人あまりの村民と支援者たちは、タイの首都バンコクでジェームズ・ウォルフェンソン世銀総裁の人形を燃やし、隣国ラオスで論議を巻き起こしている水力発電所計画の中止を要求した。
「私たちは、世銀が再び巨大なダムに対して深く関与しようとしていることに深い懸念を抱いている。もしナムトゥン2が建設されれば、ラオスやタイへの被害は計り知れない」。過去に世銀が融資し、批判の対象となったタイのダム建設地周辺からやってきた農民グループは、声明の中でこう述べた。ラオスに隣接する東北タイで世銀が融資したパクムン水力発電所とラムタコン灌漑計画の二つのダムは、豊かな淡水漁業に壊滅的な打撃を与え、何千もの家族を路頭に迷わせた、と農民たちは指摘した。「私たちは経験から知っている。世銀は金だけ出してお
いて、自分たちが引き起こした環境問題については知らぬふりをする」。米国に在住し環境NGO国際河川ネットワーク(IRN)で活動するアビバ・インホフ(Aviva Imhof)さんも、ナムトゥン2が「人々を苦しめる以外のなにものでもない」と非難した。
〜野生生物への被害〜
10年にもわたる論議と準備の期間を経て、世銀は今年いわゆる「ナムトゥン2」への査定を開始した。タイの環境団体は、世銀がダム建設現場にあたるナカイ高原集水域の野生動物の生態を十全に把握していない点、環境保全基金を建設計画の見返りとしている点を痛烈に批判している。ダムは、ラオス政府とナムトゥン2電力会社の共同事業で、後者にはフランス国営電力公社の国際部門(EDFI、35%の株を所有)なども参加している。「社会・環境影響は、幅広く調査してきた」と、世銀のイランゴヴァン・パチャムトゥ(Illangovan Patchamuthu)環境部門調整役は語った。
〜建設開始は間近〜
パチャムトゥ調整役は、そうした調査の中には、被害住民の福利厚生を増進する計画もあるとした。ナムトゥン2の建設は、来月に世銀の理事会が承認し次第、開始される運びとなっている。反対派は、移転を余儀なくされるラオスの村人約6000人の暮らしがだいなしになると主張した。ナムトゥン2は大量の発電を行うが、そのうち95%はタイに輸出され、25年間にわたって毎年2億米ドル(約220億円)の収入をラオスにもたらすと予想されている。
〜決定は遅くとも5月〜
ラオス政府は、ラオスが貧困から脱却するために現金収入が必要だと言う。世銀は1月に、(近々)計画の査定段階に入ると発表した。出資企業などは、すでに4000万米ドル(約44億円)を投資したと主張している。「現時点では、よほど予想外のことでもなければ、計画が頓挫することはない」と世銀のピーター・スティーブンス(Peter StePhens)東アジア太平洋主席報道官はRFAに語った。遅くとも5月までには決定が下されるというのが大方の予想であるが、スティーブンス主席報道官は、査定には必要なだけ時間をかけると述べた。NGOの調査によれば、ナムトゥン2は6200人もの先住民族を移転し、(ダム下流の)セバンファイ川に依存して生活する10万人以上もの人びとに被害をもたらすことになる。
英語原文は、下記のURLで閲覧可能です。
httP://www.rfa.org/english/news/business/2005/03/14/thailand_laos_dam/
パクムンダムについては、下記のURLをご覧下さい。
http://www.mekongwatch.org/env/thailand/pakmun/index.html
ラムタコンダム(揚水発電所)については、下記のURLをご覧下さい。
httP://www.mekongwatch.org/env/thailand/ramu/index.html
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ラオスのナムトゥン2ダム計画は、日本が第2の出資国となっている世界銀行が支援をするかどうかで、国際的に最も論議を呼んでいる大規模インフラ事業です。
約6000人の立ち退き住民を含め10万人を超える農村住民に被害をもたらし、アジア象など貴重な野生動物の生息地を破壊します。総事業費は、ラオスのGDPの70パーセントに相当する12億ドルで、そのうち70パーセント以上を海外からの借金でまかなうことになります。計画の実現は資金が集まるかどうかにかかっており、そのカギを握っているのが世界銀行の支援です。もし世界銀行が協力を約束すれば、それが「お墨付き」となって民間銀行団の金利の高い融資が、重債務貧困国のラオスに流れ込むでしょう。経済的にもリスクが高いプロジェクトなのです。
ナムトゥン2ダムが地域住民の生活やそれを支える生態系に及ぼす影響に懸念を抱いてきた私たちメコン・ウォッチは、世界銀行とADBに巨額の資金を提供している日本の市民社会に向けて、この事業の概要や懸念される問題について情報を共有し、公的国際金融機関の融資を阻止するべく、このキャンペーンを始めました。是非、世界銀行、ADB、財務省国際局に対してナムトゥン2ダムへの資金協力を行わないよう働きかけにご協力下さい。
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