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中国輸出入銀行>カンボジア・カムチャイダムの交渉最終段階

メコン河開発メールニュース2005年12月26日

中国がメコン河流域国のダム計画に次々と投資しています。

以下は、カンボジアのカムチャイダムをめぐるカンボジアの英字新聞のニュースです。この取材に協力した、メコン・ウォッチの中国担当の大澤香織(雲南・昆明)が、注釈をつけて翻訳したものです。

カンポートの巨大ダム構想を復活させる中国

プノンペンポスト、2005年11月4-18日号

Sam Rith記者

建設準備が進行中のこのダムは、カンボジアの「三峡ダム」と呼ばれてきた。カンボジア政府は、カムチャイ川に建設予定のダムについて中国の国有企業、シノハイドロ【注1】との交渉が最終段階に入ったと発表した。ダムは高さ145メートルでカンポート州のBokor国立公園、2600ヘクタールを水に沈める予定だ。

産業鉱業エネルギー省(MIME)エネルギー総局のBun Narith次長は、この2億8000万ドルの水力発電プロジェクトは、中国からカンボジアへの単体として最大の投資であり、シノハイドロは2010年のダム完成以後30年間、発電所を管理することになる、と述べる。

カンポートの北15キロメートルにあるカムチャイ川地区は、1960年代初めから水力発電候補地として注目されてきた。カムチャイダムの建設予定地は美しい風景で地元の人々や観光客をひきつけるTek Chhu滝からわずか3キロメートル上流のカンポート地方Mak Prangコミューンにある。

ここに巨大ダムを建設するには莫大な資金が必要だが、同時に潜在的利益も大きい。

Pomerleau International、Hydro-Quebec、Expercoなどのカナダ企業によって10年前に行われた調査では、カムチャイの水力発電所は年間469ギガワット/時を発電し、売電により年間5500万ドルを稼ぐという。

しかし初期におけるこのプロジェクト推進の試みは、1990年代半ばにカナダ国際開発庁(CIDA)がHydro-QuebecとPomerleauに対するFS調査への資金提供から手を引いたことにより頓挫した。伝えられるところによればCIDAはプロジェクトの資金を彼らがFSへの資金を実行する前に確保するよう要求した――FS調査なしでは見込みのない投資、そしてプロジェクト凍結のための「優雅な」方法。当時プノンペンポスト紙はPomerleauからの話として、以上のように報道した。

しかし10年後、産業鉱業エネルギー省(MIME)の政府水力発電部門最高責任者は中国の支持でプロジェクトが進められることに自信をみせる。

「交渉をほぼ終え、今では9割方カムチャイダムが建設されると考えている」とNarith次長は述べる。「中国企業は12月か1月には建設を始めるだろう」。

巨大プロジェクトは数ヶ月以内に開始されると予定されているにも関わらず、MIMEは環境社会影響評価を含むカムチャイの詳細の公開を拒んでいる。

Narith次長によればFS調査は2002年、日本の機関によって完了しているという【注2】。

「われわれは2002年初めに人々にFS調査について説明するためワークショップを開いた。報告書のコピーを配るだけでは、英語で書いてあるので人々は内容を理解しないだろうと考えたからだ」。

Narith次長は「秘密」文書だと言い、プノンペンポスト紙に対して調査公開を拒んだ。

Bokor国立公園のChey Utheareth所長は、中国企業がダム建設事業を落札したという話を聞いたことはあったが、それがいつ始まるのかは知らなかったと言う。

Utheareth 所長は、国立公園内に計画されている貯水湖はトラを含むいくつかの国際的絶滅危惧種の生息地だと確認した。

「(FS)調査報告書を見たことがないので、どのような影響が出るかは全くわからない」と彼は言う。「当時(おそらく3、4年前)あるカナダ企業が(ダムの)FS調査をするためにやってきたが、彼らはただ来ることを伝えただけで、私を参加のために招いたりはしなかった」。

「彼らは警察と兵士、それに産業鉱物エネルギー省の役人を調査に参加させただけだった」と Utheareth 所長は言う。そして、彼はカムチャイダム建設については政府の政策に従うとつけ加えた。

ダムによる移転住民は皆無だと言われているが、しかし竹や藤に生計を頼っている人々への影響がある。

Chun Chounさん、37歳はこれまで20年間、毎日O’Touchにある彼の家から森へ竹を切りに行くため出かけていた。彼の村は計画されている水力発電プロジェクト建設サイトの下流にあるため、とても心配していると話す。

Chounさんは「カンボジアも、TVの番組で見かけたようなダムの決壊により下流の多くの人々が家を失い、命を落とすような国になってしまうことを恐れている」と言う。

彼は、調査会社も政府も現地の人々にダムを支持するかどうかについて尋ねたことはない、という。

現地でのコンサルテーションの欠如は忘れられるかも知れないが、しかし地域に巨大建設プロジェクトが現れたことにより、膨大な雇用機会と経済的便益の機会があらわれている。

Narith次長は「建設は5年間続き、多くの労働者が必要となる。これはカンボジア最大のプロジェクトだ」と述べる。「政府のかわりにわれわれは中国政府に対して労働者に適切な対価を支払うよう話すつもりだ」。

安定した仕事は、一部の労働者にとって歓迎すべきニュースだ。

Thvey Khang Chheoung村に住むKe Pheapさん(35歳)もまた長い間、竹を取り竹製商品を売って、1日20,000から25,000リエル(約600〜750円)を稼いできた。

「もし彼らが竹を採る場所でダムを建設するのなら、建設会社はわれわれに日常的な仕事を提供しなかればならない。でなければダムは立っていられないだろう。食べるものがなくて腹をすかせた人々がダムを壊し金属スクラップにして、竹林を取り戻させるだろう」と、彼は言う。

「もし彼らがわれわれを雇うなら、1日に10,000リエル(約300円)以上は支払わなければならない」Pheapさんは言う。「私はこれまで建設作業員として働いたことはない。理由は1日たったの7000リエル(約210円)しか払われないだろうし、それでは家族を養えないからだ」。

他の地元の人々にとってダムは繁栄をもたらすかもしれないし、生活を破壊するかも知れない。

カフェ経営者のMao Chonさんは計画されているダムプロジェクトに喝采を送る。彼は竹林に行く途中、店にコーヒーを飲みに寄る常連客を失うかもしれないが、何千人もの建設作業員が地域に入ってくれば、おそらく商売は大繁盛だ。しかしChonさんはまた、ダムが彼の家を破壊するかも知れないと懸念している。彼の家はダム建設サイトの下流にあり、カムチャイ川からわずか50メートルのところに立っている。

「通常の洪水時でさえ、水は私の家まで上ってくる」と、Chonさんは言う。

カムチャイ川近くに住むその他の住民たちへのインタビューと同様、Chonさんは洪水のリスクは、安い電力によって相殺される、と言う。現在の電力価格は1200リエル(約36円)/kWhだ【注3】。

だがChonさんと彼の隣人はおそらく失望するだろう。Narith次長は、水力発電所近くに住む人々に電力価格を引き下げる計画はないと述べる。そして互いに遠くに立っている家々を(電力網で)結ぶのは難しい、という。

これまでのカンボジアにおける水力発電の経験は複雑だ。キリロム(Kirirom)1ダムはKoh Kong 州にある12MWの発電所で、Kampong Speuに電力を供給し、雨季にはプノンペンの電力の7%がこのダムからの電力である。しかしもし川が干上がれば、首都に電力を供給することはできなくなる。キリロム1ダムはCETIC【注4】という中国企業によって建設され、カンボジア電力公社に管理されている。

ラタナキリでは、ベトナム側にある12億ドルのヤリ滝ダムが国境を越えセサン川下流のカンボジアの村人たちに被害をもたらしている。カナダのNGO、プローブ・インターナショナルによると、ダムによる急激な水位変化によって、少なくとも39人が溺れ、何千頭もの家畜が流された。

ラタナキリでの被害にも関わらず、政府は水力発電プロジェクトの追及に熱心だ。少なくともあと3基のダムがKoh Kongに、1基のダムがPursatに建設を予定されている。

しかし地元のNGO、Culture and Environment Preservation Association(CEPA)によれば、政府は十全な考慮を行う前に巨大スケールのプロジェクトに踏み出すのではないかと懸念している。

CEPAの事務局長、テップ・ブナリット氏は、地元の人々はしばしばダムができればその地域に無料かあるいは安い電力がもたらされると考えている、と言う。

「しかし彼らは、ダム建設によってもたらされる負の側面については考えたこともない」とブナリット氏は言う。彼はまた計画プロセスにおける透明性の欠如についても批判している。

「政府は市民、NGOあるいは他の政府自身に対してさえ、環境影響評価(EIA)への参加に関してオープンであったためしがない」。

彼は2600ヘクタールの貯水湖を持つこのダムは、おそらくBokor国立公園の野生動物に影響を与え、竹林に生計を頼る人々の暮らしを破壊し、マラリアやデング熱の危険を高めるだろうと信じている。

しかしカムチャイ川の住民にこうした懸念を伝えることは、地元政府の激しい怒りをかう、と彼は言う。

「わたしたちは人々にこの地域で何が起きているのかを知らせ、同時に教育するため調査をおこなったが、政府はこうしたわれわれの調査を科学的ではないと批判する」、ブナリット氏は言う。

経済社会文化オブザベーションユニット (OBSES) のメンバーであり、同時に閣僚会議大臣であるTouch Seang Tana氏はカムチャイ川のダムは、ほとんど環境に影響をもたらさないと考えている。なぜなら約80%の植生はすでに現地の人々によって破壊されているからだ。

「科学と技術だけが環境影響について真実の情報を政府に提供することができる」とTana氏は言う。「われわれは開発を止めるために、ただ考えを述べるだけではだめだ」。

しかし彼は政府によるEIAはしばしば不正確であると言い、大学生が独立した環境影響調査を行うことを提案する。

「もし(われわれが)省の政府の役人にEIAをやらせれば、彼らは自分の利益にならないかぎり開発プロジェクトのためのどのような地域も示さないだろう」とTana氏は言う。「学生だけが正確にEIAの調査を行うことができる」。

Tana氏自らの研究によれば、メコン河上流の中国のダムはカンボジアの漁獲高を数年間、最大20%減少させるという。そしてカムチャイへの多くの投資は中国にとってカンボジア政府に何か良いことをするための方法なのだろう、と言う。

プノンペンにある中国大使館はカンボジアやこの地域での建設プログラムについてコメントすることを断った。

他のダム専門家は、しかし、Tana氏の理論に反駁し、中国がダムを支援するのは中国が巨大建設プロジェクトを首尾よくやってのける経験をもっているからだ、と言う。Oxfam香港の資金提供により2002年に行われた漫湾発電所に関する研究によれば1949年から1990年の間に、中国は2万2000基の「巨大ダム」を含む8万6000基のダムを建設した。

中国のダム産業をフォローしている人々は、カンボジアに注意を呼びかける。

「すべての政府に対する私からのアドバイスは、ダムを建設する前にできるかぎりEIAとSIA(社会影響調査)を行い、NGOの意見を聞くことだ」と昆明にあるグリーン・ウォーターシェッドのアドミニストレイティブ・オフィサー、庄力(ジュアン・リ)氏は言う。

「政府は大型ダムの利益とコストを比較し、どちらが利益になるのかを見なければならない」、庄氏は言う。


【注1】中国水利水電建設集団公司(Sinohydro Corporation Ltd.):中国のダムの70%はこの会社によって建設されているという中国最大級の水力発電所建設会社。国内では三峡ダムの他、瀾滄江上では漫湾、大朝山、景洪、小湾、糯扎渡の建設に関わる。他のメコン流域ではラオスのナムグム5、ナムマン3ダムの建設等に関わっている。

【注2】この日本の組織がどこなのかは不明。なお、NGO Forum on Cambodiaがこの記事を受けてカンボジア環境省に照会したところ、環境省はカムチャイダムの実施可能性調査を持っておらず、入手したらNGOにコメントを求めると返答したとのことである。

【注3】カンボジアの庶民的な豚肉ご飯(バイサイチュルーク)が一人前で2000リエル前後である。なお、東京電力の場合、一般家庭で標準的な電力量料金は14-15円/kwh(最初の120kwh)である。

【注4】中国中信集団公司(China International Trust and Investment Corporation (CITIC) Technology Co. Ltd.):CITICはさらにビルマなどで3つの水力発電事業に関わっている。イエュワ発電所、Thanphanseik発電所、 Mone発電所など。

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