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カンボジアの開発問題
カンボジアでは多額の開発援助資金が交通・運輸セクター(道路や鉄道建設・改修)に投じられており、これらの事業に伴う住民の立退きが深刻な問題になっています。また、カンボジアの自然生態系および食糧安全保障に重要な役割を果たしているトンレサップ湖の環境、ダム建設による大規模な灌漑事業、経済土地コンセッションなどによる森林伐採、メコン河支流のセサン・セコン・スレポック川流域における開発被害、とりわけベトナム側から国境を越えてセサン川沿いに住む先住民族に及ぶダム開発の影響などが重要な課題です。
メコン・ウォッチが監視しているカンボジアの主な開発事業
- GMS鉄道復興事業
「GMS鉄道復興事業」は、クメールルージュ時代の破壊とその後の放置によって荒廃した国有鉄道を改修する事業です。タイとの国境の町ポイペト−プノンペン間約350キロの北部路線(49駅)およびシアヌークビル港−サムロン間約240キロの南部路線(24駅)の復興に加えて、貨物施設や支線といった関連施設の建設・復興が計画されています。カンボジア政府の調査では、約4,000世
帯が事業の影響を受けます。ADBが2006年と2009年の二回にわたり、計8,400万ドルの融資を決定しましたが、同じADB融資案件である国道1号線改修事業での住民移転の失敗がうまく教訓化されておらず、ふたたび移転や補償をめぐる問題が発生しています。
- 国道1号線改修事業(JICA・日本政府助成区間)
「国道1号線改修事業」は、ベトナム南部のホーチミン市とタイのバンコクを結ぶ「第2東西経済回廊」の一部であるカンボジア国道1号線160kmのうち、首都プノンペン市からメコン河渡河地点のネアックルンまでの約56kmを改修する事業です。1,800世帯以上の移転住民の貧困化問題が解決されないまま、日本政府は無償資金協力を継続しています。累計75億円を供与する日本政府及び実施可能性調査をおこなった国際協力機構(JICA)に対して、改善を求める住民の声が上がっています。
- 国道1号線改修事業(ADB融資区間)
プレイベン州からスヴァイリエン州を結ぶ105.5km区間の国道1号線改修事業に対して、アジア開発銀行(ADB)は実行可能性調査を実施し、1998年に4,000万ドルの融資を決定しました。2000年から住民立退きが本格的に行われ、2005年初頭に改修工事はほぼ完了、2006年7月に事業が完成しました。1,350世帯以上の住民に影響が及びましたが、家屋再建に必要な補償の支払いが遅れ、生計回復が進まないため、問題が長期化しています。
- カムチャイ・ダム
カンボジア南部を流れるカムチャイ川に建設中の水力発電所で、中国の水力発電事業大手シノハイドロ社とのBOT(建設・運転・引渡し)で進められています。この事業はカンボジア最大の単体事業であると同時に、中国の対カンボジア単体投資事業(2億7,000万ドル)としても最大となります。建設によって約2,600ヘクタールの土地が水没し、生物多様性の喪失、貧困層の生活手段の破壊、水質悪化、観光業への打撃などさまざまな影響が懸念されています。また、ダムの初期環境影響評価(IEIA)はドラフトのままで一般に公開されておらず、情報公開の面でも大きな問題を抱えています。
- 強制立ち退き問題
カンボジアでは交通・運輸セクターに限らず強制立退き問題が深刻化しています。2003年から2008年の5年間に強制立退きなどの人権侵害を受けた住民は約25万人に達し、さらに15万人(2008年時点での試算)が立退きを強制される可能性があります。世銀、ADBやドナー各国はこの事態を憂慮し、2009年7月、「カンボジアの都市貧困層への立退きの停止を求める」と題する声明を出しました。米国を含む多くの国々が名を連ねる中、日本は署名しないどころか多くの住民移転を伴う大型インフラ案件(国道1号線改修事業第3期事業や第2メコン架橋建設事業)を支援し続けています。ここでも、日本の支援のあり方が問われています。
- カンボジア土地管理事業(LMAP)
土地権保障の改善と効果的な土地市場の育成を目指し、世界銀行の融資などにより土地管理都市開発建設省によって実施されています。土地管理関連法制度の整備が進み、農村部を中心に100万件以上もの土地権証が発行されました。しかし土地紛争の発生が予想される場所などは除外され、これら地域に住む貧困層の住民は土地権証を取得できませんでした。このため、土地投機を目論む企業などから慣習上の土地権を用いて身を守ることが一層困難になっています。LAMPは土地権証を必要とする最も弱い立場の人びとの権利を守ることを失敗した事業と言えるでしょう。住民が世銀のインスぺクション委員会に異議を申立てています。
- セサン下流2水力発電事業
メコン河の支流セサン川とその支流スレポック川の合流地点付近に建設されたダムです。EIAによると、セサン川、スレポック川沿いの7か村が水没し、先住民を含む約1,100世帯(約5,000人)の人びとが移転を余儀なくされるとされていました。環境社会影響は広範に渡り、上流の8万人と下流の20万人の生活への影響を予想する調査もあります。
2014年から建設が始まり、2017年には移転を拒否して村に留まっていた世帯がいるにも関わらず貯水が始まり、ダムは落成しました。事業はBOT方式で40年後にカンボジア政府に運営が移管されます。
- セサン・スレポック・セコン川流域ダム開発
ベトナムからカンボジアへと流れるメコン河の支流セサン川流域では、24カ所のダム建設に関する調査が終了しています。すでにベトナム側でヤリ滝ダムなどが建設されましたが、ダムの運転に伴い川の水量が不自然に大きく変動するため、農耕地での洪水被害、水質悪化、漁業被害、村民の溺死など下流のカンボジアで深刻な影響を発生させています。しかし、被害に対する補償や再発防止策が整わないまま、ベトナム政府(ベトナム電力公社)はセサン川でのダム建設を続けています。政治的にベトナム政府と関係が深いカンボジア政府は被害住民を積極的に救済しようとはしません。このベトナム電力公社に多額の政府開発援助(ODA)を供与している日本政府は、ベトナム政府のガバナンス改善に配慮した支援を行う必要があります。近年では、同じ流域にあるセコン川やスレポック川でもダム開発が活発化しています。
- サンボーダム
カンボジアのクラチエ州、サンボー地方のクラチエの町から北に約35kmのメコン河本流にサンボー水力発電所の建設が計画されています。中国南方電網により進められるこの事業計画には規模の異なる2つの設計(2,600MWと460MW)が計画されており、建設予定地では、すでに地質調査が行われています。サンボーダムの環境社会影響の評価はまだ行われていませんが、メコン河委員会(MRC)の漁業プログラムを含む多くの漁業や生態学の調査では、サンボーダムが漁業や漁業に依存した現地の人びとの生活様式に及ぼす広範な負の影響の可能性を指摘しています。
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