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メコン河開発メールニュース 2006年1月5日
新年早々、ショッキングなニュースです。カンボジアを代表する2つの人権団体の代表者が名誉毀損で逮捕されました。過去10年にわたって、日本政府はガバナンスの向上を対カンボジア支援の柱に据えてきました。しかし、多額の援助にもかかわらず、カンボジアの人権状況はますます悪化しています。
以下、昨年までメコン・ウォッチでカンボジアを担当してきた杉田玲奈の解説と翻訳記事です。
カンボジア人権センター(CCHR)とカンボジア法律教育センター(CLEC)の代表2人が名誉毀損で逮捕されました。CCHRの代表はメディアでも活発に発言する有名な活動家です。CLECの代表はNGOフォーラムのDeputy Directorをしたこともある人です。CLECは移転問題などに も関わっていました。
違法な森林伐採の監視をしてきたグローバル・ウィットネス国外退去の時、これから市民社会・現政権反対者の弾圧が始まるという見方がありましたが、残念ながらそれが現実になっているようです。この数ヶ月、サムランシー党員やジャーナリストが名誉毀損で相次いで逮捕されています。また、先日このメールニュースでお伝えした通り、北東部のラタナキリ州で少数民族の権利のために闘っているダム・チャンティさん暗殺未遂事件も起きています。
以下、現地の英字新聞カンボジアデイリーの記事です。
カンボジア・デイリー紙
Lee Berthiaume, Samantha Melamed, Van Roeun, Yun Samean and William Shaw
2006年1月2日
土曜日、最も重要な人権活動家の一人である、カンボジア人権センター (Cambodia Center for Human Rights:CCHR)のKem Sokha代表が、(CCHRの) プノンペン事務所を警官が数時間に渡り取り囲んだ後拘束され、名誉毀損で起訴された。
カンボジア法律教育センター(Cambodia Legal Education Center:CLEC)の Yeng Virak代表も拘束され、UNTAC法の問題の63条にもとづいて勾留された。63条では、名誉毀損は刑事犯罪として最長1年間の投獄に課せられる。
12月10日にオリンピックスタジアムで開催された国際人権デーのイベントで展示されたバナーを理由に、両者は公判前勾留のためPrey Sar刑務所に送られた。
CCHR職員によると、問題のバナーは2003年の選挙時に作成され、一般の人々による手書きのコメントが書かれていた。このバナーが(カンボジア)政府とフンセン首相に批判的だと訴えられている。
Kem Sokha氏の弁護士、Som Chandina氏によると、12月21日に政府の弁護士がYeng Virak氏を名誉毀損で起訴したという。起訴はフンセン首相ではなく政府により行われたとSokha氏は言う。
目撃者によると警官は10時半にCCHR構内に到着した。Daun Penh郡と内務省刑事警察から10人の制服警官と数人の私服警官が構内に進入したが、事務所の中に入ることは許されなかった。CCHRのスポークス・パーソンのOu Virak氏によると、警官が調査令状を見せることを拒否したためだという。
その後30分、警察が待つ間に、他の人権団体職員やアメリカの外交官が到着し、Kem Sokha氏と事務所内で面会した。
そして11時頃、警官が構内をふさぎ、イギリス大使David Reader氏やアメリカ大使Joseph Mussomeli氏を含む全ての人の構内への立ち入りを禁止した。多くの(CCHR)支持者たちが外に集まり、警官は242通りをバリケードで封鎖し一般の進入を制限した。
(CCHR)センターの中では、Kem Sokha氏がSom Chandina弁護士の前で申し立てを行った。Som Chandina弁護士は野党Sam Rainsy党首の代理人でもある。Som Chandina弁護士は、活動家(Sokha氏)が市の裁判所で尋問を受けられるように 警官と交渉した。
Ken Sokha氏によると、人権デーのイベントの前に、NGO職員が政府の代表にバナーを見せたが、どのバナーについても展示しないように指示はなかったという。Sokha氏はバナーに書かれている問題のメッセージは彼自身が書いたものではないと加えた。「私の意見ではありません」と彼は語った。「それは書いた人々の意見です。もしお望みであれば、その人々のために私は許しを請います」。
元フンシンペック党議員(Sokha氏)は、バナーを取り下げるように言われた時そのようにしたので、政府の望みに従ったと言う。またSokha氏は法律に従ったと語った。「私は憲法に従った行為のみ行っています」とSokha氏は言う。「すべての民主主義の国では、寛容さがなくてはなりません」。
約1時間後、Kem Sokha氏は建物を出て裁判所に行くことに同意した。妻、アメリカ大使館のMark Storella公使、リカド(訳注:カンボジアの主要人権団体のひとつ)代表Kek Galabru氏を抱擁した後、Kem Sokha氏は(事務所の)外にでた。Sokha氏は、尋問のための裁判所への出頭命令をCCHR構内で聞いた。
Sokha氏の妻が彼の後ろに立ち、支持者数人が泣いている中で、「私は間違っていません」とSokha氏は語った。「私は幸せですし、裁判所で(尋問に)答える勇気があります…私はまったくショックを受けていません。なぜなら、私は国と自由のために何でもするからです」。
Sokha氏が車に乗ろうとする中で、構内の多くの支持者や242通りに集まった人々が、Sokha氏の支持を叫んだ。Kem Sokha氏は手を挙げてから、車に乗り、警官が秩序を守ろうとする中、立ち去った。
プノンペン市裁判所では、Kem Sokha氏はSao Meach裁判官により中に呼ばれ、数時間に渡り尋問された。Monireth大通りに人々が集まるなか、警官は記者が構内に入ることを許さなかった。
電気バトンで武装した警官が配置され、群集を散らした。警官は裁判所から数百メートルのところまで路上バリケードを配備し、多くの怒れるバイクタクシーを周辺から追い出した。
「私たちは深く悲しんでいます」、匿名のバイクタクシーの運転手(38才)は言う。「彼(Sokha氏)は私たちをたくさん助けてくれました。私たちは彼への支持を表明したいのです。私たちは彼を釈放して欲しいのです」。
「(Kem Sokha氏は)真実を話します。政府の名誉を毀損したとは信じません」と匿名のバイクタクシーの運転手(32才)は言う。
バイクタクシーの運転手たちが記者と話す間、軍の作業服を着た大きな男が自分の携帯電話を使ってインタビューの内容を録音した。男の身分を尋ねると、メディアパスを表示し、Kampuchea Khnomという知名度の低い新聞の記者で、Ly Ranny氏だと名乗った。
CLECでは、警官が3度(CLECを)訪ね、(CLECへの)進入とYeng Virak代表との面会を要求した。 CLEC職員は代表(Virak氏)が事務所内にいることを否定し、3時20分頃裁判所職員と副検察官が到着するまで両サイドは足踏み状態だった。(その後)Yeng Virak氏が現れ、裁判所に連れていかれた。
Yeng Virak氏を弁護するCLECの弁護士3人のひとり、Phoum Bunphann氏は日曜、代表は以前にも名誉毀損の疑いでSao Meach裁判官により1時間にわたって尋問され、その後Prey Sarへ直接連行されたことがあったと言った。
「(人権デーの)イベント全体に対して(Virak氏に)責任があると言われています」とPhoum Bunphann氏は言う。「しかし彼のみに責任があるわけではありません。(参加した)すべての団体がブースを持っていましたし、彼は準備委員会のひとりのメンバーにすぎません」。
逮捕令状は人権デーイベントの委員会の別のメンバー2人にも出されているとの情報があるが、裁判所の職員はこれを否定した。
市の裁判所のChiv Keng所長は、日曜、逮捕と起訴を弁護した。「名誉毀損は深刻である」と彼は言い、バナー(のメッセージ)は政府がベトナムに土地を売る「背信的な政権」であり、共産主義であると非難していたと加えた。
「政府は彼らに人権デーの開催を許可したが、彼らはバナーで政府をひどく罵った」とChiv Keng裁判所長は言った。「この悪態はとても深刻である。もし悪態が許されたならば、暴力にも発展するであろう」。
政府のスポークス・パーソンKhieu Kanharith氏は、多忙につきコメントはできないと語った。内務省スポークスパーソンKhieu Sopheak氏は数度の電話に応答しなかった。Ang Vong Vathana法務大臣は会議に忙しいと語り、国家警察庁のSok Phal次官は質問を裁判所に回した。
(逮捕があった)午後CLEC事務所にいた野党のHo Vann議員は、この逮捕は批判を弾圧する政府のキャンペーンの一環だと語った。
CCHRの建物の外で、Mussomeli米国大使は、カンボジア政府は「(批判・侮辱などに)過敏」と評し、継続する批判の声の弾圧は民主主義を危うくしている、と語った。「我々は反対を潰す大きな計画の一部ではないかと心配している」と彼は言う。「2008年の選挙が信頼でき、公平なものになる見通しはそこなわれている… 彼ら(現政権)は反対者を強烈に震いあがらせており、このような飾りだけの民主主義を本物ととるのはどんどん難しくなっている」。
Readerイギリス大使は、Kem Sokha氏とYeng Virak氏を名誉毀損で起訴する決定は「不適切である」と語った。
「我々は名誉毀損で罰することは政治的対話のあるべき姿ではないと考えている」と彼は語った。