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開発 > 必要なのは高速道路なのか?

メコン河開発メールニュース 2006年5月15日

「風が吹くと桶屋が儲かる」話は、いまどき詭弁として一笑されることがほとんどですが、「高速道路ができると貧困がなくなる」話は、援助の世界では立派に通用しています。

以下は、東南アジアと結ぶ高速道路建設が急ピッチで進む中国・雲南の「風が吹 くと・・・」の実情を報じたレポートです。解説と翻訳は、メコン・ウォッチの大澤香織によるものです。


GMS(拡大メコン圏)の経済的中心として、中国雲南省では1998年以来、交通網の整備拡張に毎年100億元(約12億米ドル)以上の資金が投資され、鉄道、道路、空港の拡充が進められてきました。高速道路については、タイと中国の独自資金で建設中の昆明からラオスを通過しバンコクにいたる南北経済回廊が2007年に、ADBの援助によって建設中の昆明からベトナムをつなぐ道路は2008年の完成が見込まれています。

こうした地域交通網の変化が、この地域の自然資源に依存して暮らす人々の生活を、どのように変えてゆくのか、貿易や交流の拡大を生活向上と結びつけ手放しに賞賛するだけではない、慎重な視点が必要とされているように思います。

雲南の農民、漁業の失敗から「開発」の教訓を学ぶ

(2006年3月2日、チャイナ・ウォッチ、Lila Buckley)

中国の開発理論では、道路を建設すれば、富もあとからついてくる。これは失業中の元養殖業者、イ・ジュジさんが、政府職員から新たなスーパーハイウェイによって辺鄙な彼の村と雲南のより大きな都市を結べばかなう、と約束された時の話そのものだった。しかしイさんは、この道路建設が、村人たちの直面している「本当のジレンマ」を解決するとは思っていない。

イさんは10年前に地元政府の要求で、北の大理から2日かけてこの村に来た。 「政府は南で魚の養殖を振興する計画を立てたんだ」、金属パイプに縁取られた浅いコンクリートの池の周りを歩きながら、彼はそう説明した。温泉からの熱い 湯と山からの冷たい水が混じれば、通年、適度な温度になる、といわれた。このシステムによってあたたかい水の中で魚はより早く生長し、村人に多くの収入増加をもたらすはずだった。

しかし養殖業はすぐに予想外の資金不足に陥った。「より早い魚の成長によって、多くの餌が必要になった。過去5年間で餌にかかったコストは6倍に跳ね上がった」 とイさんは言う。「われわれは北京にいるわけではないし、外からの資源に頼るのは困難だ」。

イさんによると雲南で2003年のSARSが流行した時、ビルマとの国境が封鎖され魚の価格も落ちたという。「今では魚を育てるコストよりも、売りに行くコストの ほうがかかる。だから今ではわれわれは家族が食べる分しか育てない。たくさんの金と資源がつぎこまれたが、今では全くの役立たずだ。すべて無駄になった」、そう言って、イさんは腹立たし気に首を振る。

政府による村の開発計画の一部に、やはり失敗した温泉リゾートがあった。もはや役立たずとなった魚の養殖場は、イさんにすれば中国が西部大開発を進める際、あまりに外からの投資に頼った「つけ」だと語る。自身もアウトサイダーとして、イさんは今では現地の人々だけが、どのような開発が彼らにとって本当に適切なのかが分かる、と考えている。

「ここで暮らして私は多くを学んだ。だが最初に多くのものを失った。もしあなたが地元の人々と話せば、彼らは自分に必要なものが何かを知っていると分かるだろう。それは決して立派な養殖施設などではない」。

イさんは「人々が必要なものは単純だ」と言う。電力や学校の不足、でこぼこの道、地元の民芸品を売るのに限られた販路、ゴムプランテーション農園からの、ごくわずかな退職金。「われわれのコミュニティは、とても辺鄙な場所にある。一番近くの村に行くのに公共のバスさえない」。

そして確かにより質の良い道路が必要だが、このコミュニティの抱える基本的な問題を解決するものは、やはり市場や高速道路ではない、とイさんは言う。こうした変化は村人が村を捨て、東部の大都市へと流出していくのを助長するだけだ、と言う。「北京の市場万能主義者の理論はここでは当てはまらない」。

イさんは中国の多くの低開発の西部に必要なのは、価値を認められ、投資されることだ、という。「専門家が金のかかるアイディアを持ち込む前から地元の人々は魚の養殖の技術を持っていたし、それに餌代はまったくかからなかった」と説明する。養鶏業と魚の養殖、植生を組み合わせた伝統的方法は、自然の循環サイクルに適したもので、外からの投入は必要なかった。中国の養殖業は3000年の歴史があり、そうした複合技術は世界中で効率的な炭素循環と自然のシステムを使用するものとして尊重されている。

しかし中国における動物性蛋白への需要増大は、自然界の魚のストックを崩壊させ、政府はさらに集約的な養殖生産を奨励している。中国は現在、世界の養殖生産の3分の2を占め、2003年には3000万トンの魚を生産するのに1600万トンの餌を必要とした。

「これは外からの投資者を富ませるだけで、村人たちの生計手段を失わせる」とイさんは言う。「しかもこれらの道路は、どこか別のところにもっと良い場所がある、われわれの答えはすべて都市で見つかる、というメッセージを送っているだけだ。でもわれわれは都市に移住することはできない。そうだろう?中国の農民たちにもよりよい生活は必要だ」。

新たな道路は結局のところ、富が村に流れ込むのに役立つだろう。しかし慎重な計画と村人たちの参加が確保されなければ、これはまた同時に金と資源の両方が農村から流出していくことに繋がる可能性も、無視できない。

 

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