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ナムトゥン2ダム融資から一年(4)>解消されない立ち退き住民の不安

メコン河開発メールニュース 2006年5月17日

2005年3月31日、世界銀行はラオスのナムトゥン2水力発電プロジェクトへの支援を決定し、その4日後には、アジア開発銀行融資を決めました。それぞれ、日本が第二、第一の出資国となっている国際開発金融機関です。

豊かな生態系が残るナカイ高原の450平方キロを水没させ、約6200人の移転住民を含む十数万人の生計を大きく変えるこの巨大ダム事業に対して、社会・環境・経済面での大きなリスクが指摘されていました。しかし、そうした国際的な市民社会からの懸念が全く払拭されない中での世界銀行・アジア開発銀行の融資決定でした。

あれから一年。現地の住民生活やプロジェクトを取り巻く状況がどのように変化してきたのか、数回にわたってお伝えしています。第4回は、いまだに解消されない立ち退き住民の不安についてです。

ナムトゥン2ダム融資から一年(4)
解消されない立ち退き住民の不安

2006年5月17日

メコン・ウォッチ 東 智美

ナムトゥン2ダムの建設によって、450平方キロメートルが水没するナカイ高原では、16ヵ村の村人が移転を強いられることになります。2006-7年の乾季には移転が本格的に行われますが、移転を目前に現地住民は大きな不安を抱えています。

長年ラオスで活動してきたあるNGOが、2006年3月末にナムトゥン2ダムの移転住民を訪問した際の報告をお伝えします(なお、NGOおよび村の名前は、ラオスの政治・社会的状況を考慮して匿名にしてあります。そうせざるをえない国で、参加型開発を唱える国際機関が巨大ダムを支援すること自体、大きな矛盾です)。

融資決定に際して、世界銀行はナムトゥン2ダムプロジェクトの「社会開発計画」は十分に準備されたものであり、移転住民の生活は保障されると太鼓判を押していましたが、住民の不安は解消されるどころか、この報告にあるようにますます強いものになっています。このまま移転が行われれば、多くのNGOが繰り返し批判してきたように、移転住民たちの中にはより苦しい生活を強いられる人たちが現れるでしょう。世界銀行や実施企業が公言していたようには、プロジェクトの環境社会影響を回避することができないことが明らかになってきた今、プロジェクトによって新たな「貧困」が作り出される前に、プロジェクトを中止するべきでしょう。

移転予定村訪問報告

2006年3月27・28日、ナムトゥン2ダムのプロジェクトサイトに位置するA村を訪 問した。村人と話をしたところ、多くの村人は、移転後に果たして生活していけるかどうかと不安に思っていることが分かった。これまでA村の村人はずっと水田耕作を営んできたが、ナムトゥン2電力会社(NTPC)によれば、移転先には水田は全くないという。村人はこの状況を非常に不安に思っており、そのため、そうすることができる村人は、セバンファイ郡、ニョマラート郡、マハーサイ郡に水田を購入している。しかし、村人によれば、他の郡に水田を買うことができたのは、村の中でたったの6世帯に限られているという。

村人との話し合いの中では、村人がプロジェクトに対して持っている主な懸念として、以下の5つが挙げられた。

1.生計手段

移転後に用意されている5つの生計手段(商品作物栽培、家畜の飼育、林業、漁業、サービス業)について、A村の村人はこれまでと違う職業で、成功することができるかとても心配だと不安を口にしている。村人の一人は、「A村の村人は、これまでずっと農民としてやってきたので、いきなり新しい職業に転換をするのは非常に難しいだろう」と語った。また、十分に仕事があるわけではなく、全員が同じ職業に変えることはできない状況で、もし一つの産業が特に良いということが分かったら、誰がどのようにして、他の人もみんな同じ分野で働くことを止めさせることになるのだろうかと不安に感じているという。

 

2.ナムトゥン2ダムと仕事

村人は、ナムトゥン2ダムの建設工事で経験している雇用状況について多くの不満を持っている。ナムトゥン2で定期的に雇用されていて、月におよそ100ドルを得られることができているのは村長だけである。他の村人は雇用を保障されておらず、召集されたときだけ働くことができる。村人は毎日仕事を探しに行くが 、仕事が得られないこともしばしばあるという。また、与えられる仕事は全て肉体労働で、一日15,000キープ(約1.5ドル)しかもらえない割に大変な仕事だという。さらに、作業内容や支払いの面で条件の良い仕事は全てサバナケート、タケク、ビエンチャンからなど外から来た労働者に持っていかれてしまうという。村人ができる唯一稼ぎの良い仕事は、地雷除去作業で、一日6ドルを得ることができるが、危険なので誰もやりたがらない。

 

3.家屋の所有権と税金

村人は、新しい村に移転した後7年間は、移転家屋の所有権を得ることができないと説明されている。さらに、家の所有権を得る資格を持つためには、7年間ずっと家屋に対する税金を支払わなければならないという。村人は私たちに対して、もし生計プログラムが上手くいかず、移転村を離れざるを得なくなった場合、自分たちには何も残らないということがあるのではないかと不満を語った。村人はまだ移転後の新しい村で食べていけるのかどうか確かではないので、少なくとも家屋の所有権は持っておくべきだと感じている。

 

4.洪水被害救援のための米の補償

村人はこの数年間の雨季の間、(洪水によって)多くの米が収穫できなかったので、今年洪水によって米の収穫に被害を受けた場合は、企業が(必要な量の)米を補償すると(おそらくNTPCから)言われているようだ。この補償があれば、村人は米を買うためにセーフティーネットである水牛を売らずに済み、移転するまで水牛を飼い続けることができる。しかし、口約束しかされておらず、何も紙に書かれたものがないので、もし米が洪水被害を受けた場合に、企業がこの約束を守ってくれるのかどうか不安だと村人はこぼした。NTPCは、村人に対してこの約束を書面にすべきであろう。

 

5.家屋の大きさ

これも村人にとって大きな問題であり、話し合いに参加していなかった多くの人々も、このことについて意見を語った。移転計画では、家族の人数によって家屋が与えられることになっている。部屋のサイズの正確な測り方は覚えてはないが 、基本的には画一的に、家族の人数が多ければより多くの部屋を与えられる。この状況は、すでに数人の子供がいて小さい家に住んでいるような所帯を持って間もない家族にとっては、間違いなく非常に良いことだが、すでに家庭を持っていて、大きな家を持っている家族や、村の中でより豊かな家族は、大きめの家からより小さな家に移らなくてはいけなくなるので、不満に思うだろう。また、多くの人々が、より大きな家を建てようと木材を手に入れていたのに、企業は話を聞いてくれず、型通りの一般的な家屋しか建ててくれないことに不満をこぼしていた。

 

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