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メコン河開発メールニュース 2006年11月15日
2006年11月10日付けのメールニュースでお伝えしましたラオスのセカタム水力発電ダム計画についてです。
2006年2月、メコン・ウォッチのスタッフ2名が関西電力が建設を計画しているセカタムダムと、1998年に韓国企業の投資によって作られたホアイホーダムの被影響村を訪問しました。2人が目の当たりにしたのは、ダム計画に翻弄されるニャフン族の姿でした。
以下は、現地訪問をしたメコン・ウォッチの東智美による報告です。なお、現地の政治状況を鑑みて、訪問した村の名前は匿名とさせて頂きました。
セカタム水力発電ダム計画については以下を参照下さい。
セカタム水力発電ダム計画
A村は、ホアイホーダムの移転村である。2001年に30世帯が移転してきたが、移転村にはまだ120軒ほどの空き家がある。移転予定の2村が農地の不足や生活用水へのアクセスの不便さから、移転を拒んでいるためである。企業が用意した井戸は枯れてしまい、2キロ離れた小川まで水を汲みに行かなくてはならず、村人は困難を訴えている。
移転村の住民は移転村近くの森で焼畑をしているが、今年になって、「セカタムダム建設事業のため」として、一部の地域で焼畑を禁止されるようになった。それでなくとも、農地の不足で苦しい生活を強いられている移転村の住民にとっては、さらなる耕作の制限の影響は多大である。
ホアイホーダムの移転村以外に、セカタム川から3キロメートルほどの距離にあるB村でも、セカタムダムを理由に焼畑耕作禁止の指令が出されている。村人の1人は「今年、焼畑耕作が禁止された。日本人が近くでダムを作るためだと聞いている」と私たちのインタビューに答えた。B村の焼畑地はダムの水没地と重なる可能性があるため、郡の役人から焼畑禁止が命じられた可能性がある。プロジェクトの環境影響評価(EIA)が実施される前に、すでにダム建設の影響で生計手段の変更を迫られているのであれば、プロジェクトの環境社会配慮上、深刻な問題である。
また、B村の村人はセカタム川やセナムノイ川で漁労を営み、魚は貴重なタンパク源になっている。ダム建設によって、魚が減るようなことがあれば、現金収入が少なく代替食品を入手することの難しい村人は、健康面でも被害を受けることが予想される。
現地の情報によれば、2005年11月に日本人と工業手工芸省の役人を含む調査団が、影響村のうち2村を訪問したという。そのうちの1村がC村である。企業が村に滞在したのは1時間ほどで、質問の機会は与えられなかったという。ラオスの政治状況を考えれば、仮に機会が与えられたとしても、役人の前で村人がプロジェクトへの懸念や反対意見を表明するのは不可能であろう。ホアイホーダムの移転住民の生活の苦悩を近くで見聞きしている村人は、プロジェクトによる生計手段の喪失に大きな懸念を抱いているという。
また、水田・菜園・水牛の放牧地が水没する可能性があるD村の村人によれば、企業からの聞き取り調査や影響調査などは全く行われていないという。
現地訪問からは、事業計画が地域住民の参加もなく、適切なコンサルテーションのプロセスや情報公開なしに進められている実態が見えてきた。地域住民はダム建設による影響に不安を抱えながらも、言論の自由が著しく制限されているラオスの政治・社会状況の中では、公の場で懸念を訴えたり、プロジェクトに反対の声をあげることは非常に難しい。このまま、社会的に弱い立場に置かれている少数民族の懸念の声を無視し、適切な被害の見積もりや補償も行われないまま、彼らの生活を破壊するようなプロジェクトが進められることがあってはならない。