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メコン河開発メールニュース2007年5月18日
メコン河最大の支流の1つスレポック川は、ベトナム中部からカンボジア北東部に流れる国際河川です。上流のベトナムでダム計画が進められており、下流のカンボジアへの越境的な環境・社会影響が懸念されています。
こうした中、2007年1月12日にメコン河委員会のカンボジアとベトナムの国内委員会の共催で、スレポック川の越境環境アセスメント報告書案についての公聴会が、影響を受ける下流国カンボジアの首都プノンペンで開かれました。
スレポック川及び並行して流れるセサン川をめぐる越境環境問題と1月の公聴会について、メコン・ウォッチの後藤歩の解説と翻訳記事です。
公聴会当日は、ベトナム電力公社の副総裁、ベトナム水資源環境省などベトナムの各省庁の代表、カンボジア鉱工業エネルギー省などカンボジアの各省庁の代表、カンボジア各州の知事、スウェーデン大使館、カンボジアの北東部の住民、NGO
など、約150名が出席しました。
会合の目的は、ベトナム国家水力発電マスタープラン調査事業の一貫として実施された、「スレポック川ベトナム領内の水力発電開発によるカンボジア領内の環境影響評価(EIA)」のパブリック・レビューでした。この越境EIAは、スウェーデン政府とノルウェー政府の支援により、SWECO Groner社がベトナム電力公社のために実施したものです。
スレポック川における影響やこの会合とEIA案に関しては、過去のメールニュースでもお伝えしています。
▼スレポック川ダム>ダムからの放水による洪水がカンボジアで発生か
▼スレポック川ダム>カンボジアの食料安全保障を脅かす
会合の席でベトナム電力公社の副総裁は、ダムの影響を否定しつつも、被害が起きた場合は解決策を探ることを約束しました。
ただ、2003年のスレポック川でのダム建設開始当時からの水文データを含め、ダムの影響がないことの明確な根拠は提示されておらず、スレポック川と並んで流れるセサン川で起きている被害に対しても、いまだに何の補償もなされていないという過去の経験から、カンボジアの住民やNGOには、その約束が懐疑的に受け止められました。今後、会合の席での約束を、ベトナム電力公社およびベトナム政府がどのように実施し、北欧ドナーがいかに支援していくかが注視されています。
なお、この会合で発表されたSWECO Groner社によるEIAは、独立専門家のレビューで、「国際基準に達していない」と批判されました。次回のメールニュースで詳しくお伝えします。
以下、この会合を報じたInter Press Service News Agencyの翻訳記事です。
Sam Rith記者、2007年1月14日
Inter Press Service News Agency
カンボジア北東部のStung Treng州の住民代表10名のうちの1人、Chao Chantha氏は、(ベトナム-カンボジア)国境沿いのベトナム領内におけるダム建設計画について議論するための会合で、ベトナム電力公社(EVN)の担当者が出した答えに動揺した。
1月12日におこなわれた会合の休憩時間、Chantha氏(46歳)は、「ダムの影響を受けたカンボジア人にベトナムが補償をすることに全く望みを持っていません」と述べた。
10年以上の北欧援助によるベトナム-カンボジア間を流れる川の水力開発計画において、北欧のコンサルタントとEVNが被影響住民とNGOに会ったのは初めてである、とカンボジアの活動家は言う。
「2004年以来、年に2回から3回の不自然な洪水が続いています。このような洪水は、上流ベトナムでの水力発電ダムにより起きていることは分かっています」。 スレポック川流域で2003年に始ったいくつものダム建設の動きに触れながら、Chantha氏は説明した。
Chantha氏が住むBanmeiにある村では、既に83世帯がカンボジアへと流れ込むスレポック川(上流の)ダム(建設の動き)によって負の影響を受けたという。2年もの間、(ダムからの)放水が洪水を起こし、稲を腐らせた。住民の生活は打撃を受け、ほとんどの住民は他の州へ移転し、縫製・建設産業で職を探すことを余儀なくされた。
ラタナキリ州Lumpat郡Deilo村のThun Bunhean氏は言う。「去年の洪水の間は水がとても早く流れたので、牛や豚、鶏やアヒルが流されてしまうのを防ぐ時間がありませんでした。そのため、今私たちには食べるものがありません」。
ラタナキリ州とストゥントレン州では、スレポック川沿いに暮らす1万1000人の村人が流域の水力発電開発によって負の影響を受けている、とセサン・スレポック・セコン川保護ネットワーク(3SPN)のスタッフBean Sokun氏は言う。
10年前、ベトナムからカンボジアを流れるメコン河の支流、セサン川流域で始ったダム建設事業によってもたらされた環境社会経済上の問題が、また同じように起こることを多くの人々が恐れている。影響を受けた村人は、現在でもその補償を待っている。スレポック川とセサン川は、ストゥントレン州東30kmで合流する。
2006年8月-9月、村や家屋、学校、寺院、そして道路が、ダム建設がはじまったスレポック川の急速に流れる水で、水浸しになった。ダムの国境を越える負の影響を経験した後に集結したグループ、3SPNが報告した。3SPNはまた、9月半ばにはラタナキリ州で1000ヘクタールもの水田が浸水した、と付け加えた。
しかし、EVNのLam Du Son副総裁は、ラタナキリ州およびストゥントレン州から来た20人の住民代表とNGOや出席者に対して、ベトナムにあるダムが下流に住むカンボジアの人々に影響を与えることはまだありえない、と伝えた。
Du Son副総裁は「スレポック川の水を抑制するほどダムの建設は完了していません」と述べ、ダムはまだ水を貯めてもいないし、流れにも影響は与えていないことに触れた。「去年の洪水はダムではなく嵐によって起きたのかもしれなません」。
EVNのLuong Van Dai審査室長によれば、スレポック川上流ベトナムにおける水力発電事業計画には、4つのダムが含まれる。Buon Kuopダム(280メガワット―以下MW)、 Buontua Srhaダム(86MW)、Srepok 3ダム (220 MW)、そしてDraylinhダム (28 MW)である。
この他2つの事業、Srepok 4ダム (70MW) と Duc Xuyenダム(49MW)が、実施可能性調査の段階である。
Du Son副総裁の発言に(カンボジアの)NGO文化環境保全協会(CEPA)の代表TepBunnarith氏は納得いかなかった。「Du Son副総裁が答えたことは彼の考えであり、被害者である住民から聞き取った事実に基づいた情報ではありません。洪水は雨季に起こるのが自然ですが、最近は乾季に起きているのです」。
両者がそれぞれの立場にこだわるとはいえ、お互いが顔を合わせる機会が設けられたという事実は、いかにこの問題が重要かを表している。
1月12日の会合は、実は、スウェーデンとノルウェーの援助機関SidaとNoradの資金でコンサルタント会社SWECO Gronerによって実施された環境影響評価(EIA)を議論するために開かれた。
「この議論は、環境影響を最小にする手段を模索することにより、二国間の協力を強化するためのものである、というフンセン首相のスピーチにあるように、誰が得するわけでも損するわけでもないのです」、とメコン河委員会のカンボジア国内委員会副委員長でもあるMok Mareth環境大臣が述べた。「議論の結果、影響を緩和する方策が見つからなかった場合は、影響は引き続き深刻であり、(水力発電開発のための)計画は継続しないということです」。
カンボジアのNGOは、EIA案はカンボジア領内に暮らす人々に大きな変化をもたらすことを示唆していると言う。予測不可能な水位変動、河岸侵食、水質汚染、そして魚の回遊への影響などにおよぶ。このEIAは、ベトナム領内のダムの建設サイトを調査したマスタープラン調査の一貫としておこなわれた。
1月12日の会合でスレポック川の住民代表は、ダム建設の一時中止、ダム建設者からの補償、EIAや住民参加のないダム事業への融資停止を求めた。それでもダムが上流に建設される場合は、放水および水位変動の通知システムがカンボジアの住民のために設置されることを要望した。
「報告書に欠けている点に関して私たちが出した勧告に合意しない中、EIA報告書案が(カンボジアとベトナム)両政府の承認を得ることを懸念しています」と(CEPA代表の)Bunnarith氏は述べた。「もうひとつの懸念は、ベトナム政府がダムの被害を受けたカンボジア人に何の補償もしないことです。私たちが補償についてベトナム側に訪ねた際、ベトナム政府は、水力発電は3カ国(ベトナム、カンボジア、ラオス)の政府にとって重要事項であると答えたからです」。
EVNのDu Son副総裁は、ベトナム政府は二国間合意にもとづいてダム事業を実施し、国際条約に沿い、ベトナムとカンボジアの市民が利益を得られるようにし、環境影響を緩和し、スレポックEIA報告書を改善する、と約束した。
SWECO Groner社のTore Hagen副社長は、同社が、スレポック川のカンボジア領内の「早急なEIA報告書」しかつくることができなかったことを認めた。同社の調査チームは2005年の11月、たった2週間しかラタナキリ州とストゥントレン州に滞在しなかった。「EIA報告書を完成させるためには、雨季と乾季の両方の調査が必要なことから、少なくともう1年はかかります」、とHagen副社長は述べた。