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メコン河開発メールニュース2007年9月20日
先日来、このメールニュースでは、ビルマのサルウィン川ダム建設現場に投げ込まれた手りゅう弾によってタイ発電公社職員が死亡した事件を取り上げていますが、今年4月、タイの英字新聞が、サルウィン川ダム開発について、ビルマ国内からタイ国境に逃げてきた住民の話を紹介しています。
以下、メコン・ウォッチの村山安奈と秋元由紀による翻訳ニュースです。
ビルマ・タイを流れるサルウィン川の複数の地点で建設計画中のダム。どれが建設されても広範囲が水没することになりますが、ビルマ側の民族住民は計画について説明を受けるどころか、ビルマ軍の攻勢により家や畑を失い、難民としてタイ国境に追いやられています。住民はダム建設計画をどう思っているのか、タイ・ビルマ国境で聞いた声を紹介します。
バンコク・ポスト
2007年4月15日
タイ・ビルマ両政府はサルウィン川にダムを完成させ利益を上げるのを心待ちにしているが、ジュムミトゥー氏(38)のような少数民族住民は、ダム建設は自分たちにとって破滅を意味すると感じている。氏は農民で、以前はサルウィン川からビルマ側に奥深く入った人里離れた村に住み、小さな畑で細々と生計を立てていた。しかしビルマ軍の基地が半日ほど歩いた所に移動してきて以来、彼の生活は楽なものではなくなった。
ビルマ軍兵士らは頻繁に村にやって来ては家や畑を破壊し、時には住民を拷問した。身の危険を感じたジョムミトゥー氏はビルマ軍兵士が来るたびに家族や他の住民とジャングルに逃げこんだ。1か月前に彼の妻が重い病気にかかり、亡くなった。ジョムミトゥー氏は息子たちと村を離れることを決めた。30日もの間、ビルマ軍が支配する道筋を通り、深いジャングルを抜けて進んだ。食べ物は缶5つ分の米だけだった。やっとの思いでサルウィン川沿いのまだ名もない新しい難民キャンプにたどり着いた。
「また村に戻って暮らせればいいと思うが、今はこのキャンプが私たちの新しい家です。良くも悪くも、ほかに行くところがありません」。古びた黒いシャツと半ズボンを身にまとい、やせ細って日焼けしたジョムミトゥー氏はこう語ってくれた。一家は今、竹でできたわらぶき屋根の小屋で、他の家族と一緒に暮らさなければならない。
ジョムミトゥー氏には流す涙さえも残っていない。しかしサルウィン川をせき止めて故郷を水没させる計画のことを聞くと、彼の顔には疲労の色が濃く浮かんだ。サルウィン川にダムが建ち、故郷が水没してしまうという噂に精神的に打ちのめされているビルマ人は彼だけではない。その噂はビルマのサルウィン川流域に暗雲のようにたちこめている。そこに住む数千人の人々はダム建設計画について公式には何も知らされていないが、ダム建設について深い懸念を抱いている。ダム建設は人権侵害の面からも問題なのだ。
サルウィン川ダム計画は、2003年にタイ・ビルマ両政府が同川での水力開発調査に合意して具体化した。2005年に両政府は、同川の4か所(タサン、ハッジー、ウェイジー、ダグウィン)でダムの建設調査する合意を結んだ。タイ政府は将来の経済成長のために電力確保が必要であるとし、サルウィン川およびビルマ南部のテナセリム川に合わせて5基のダムを建てれば最低でも15,000メガワットの電力が生産されると主張する。
キャンプ近くにあるメーコン村のカレン民族の村長、ヌー氏は「約20年前にカレン民族連合(KNU)の関係者からダム建設の可能性を聞いたのが最初だ」と言う。その後長い間ダム計画は棚上げされていたが、4年前、タクシン前政権中に再び浮上した。その頃、調査員が川を上り下りして水かさを計ったり石にペンキを塗ったりし、「後になって、ダムを建設するのだと言われた」とヌー氏は述べた。20年前から村長を務めるヌー氏は、サルウィン川は川によって生計を立てている多くの人々にとっての故郷であり、住民の生活手段に影響が出る計画があるのなら、そのことについて知らされるべきだと述べた。タイ政府に懸念を述べたり、国内でもダムへの反対を表明できないビルマの少数民族にとって状況はことに悪い、と言う。
キャンプを管理しているKNUの幹部は、ビルマ側の住民の生活は今でも十分に苦しいと話す。住民たちはビルマ軍とKNUなどの少数民族団体との争いに巻き込まれているのだ。戦闘を逃れてますます多くの少数民族住民がタイ国境の方に移動していると幹部はいう。キャンプでは、昨年末開設された当時に800人だった難民の数が、今では3000人に上る。
ダムが建設されれば難民たちは山に登るしかないが、そこでは生存が難しい、と幹部は述べる。「ビルマ軍は住民を殺すのに武力を使う必要はない。ダムによって自動的に排除されるから、わざわざ殺す必要がないのだ」。キャンプはウェイジーとダグウィンの間に位置する。
タイ国家人権委員会(NHRC)によれば、タイには国境を越えた人権問題、特に政府による開発事業が原因となる人権問題に対処するメカニズムが存在しない。
NHRCのワサン・パーニット委員は、サルウィン川ダム建設による悪影響からビルマの少数民族住民を保護するべきだと述べた。NHRCはサルウィン問題を調査する予定で、勧告案を提示したいとしている。
東南アジアでの持続可能な河川開発を求めて活動する東南アジア河川ネットワーク(SEARIN)のピアンポーン氏は、サルウィン川のダム建設は健全な開発の基本的原則に反しており、人権問題の点だけを見ても正当化できないと述べた。さらに、人権を保護するため、タイは特に政府による海外での開発を規制する法体制を整えるべきだと言う。
タイのピヤサワット・エネルギー大臣はサルウィン川ダム問題についてコメントするのを断った。サルウィン川にダムが建つまでにあと10年はかかるので、タイはラオスとの水力開発協力に力を入れた方がいいと述べ、「サルウィン川でのダム開発はまだ調査段階にしかない」とした。
新しく建てた小屋でジョンミトゥーは竹の棒に寄りかかってこう尋ねた。「いったいなぜサルウィン川をせき止めようとするのかが理解できない。本当にせき止められたら、どこに行けというのでしょう?」
翻訳:村山安奈、秋元由紀
出典:Dams of Despair, Bangkok Post, April 15, 2007
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