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メコン河開発メールニュース2008年6月24日
2005年に世界銀行とアジア開発銀行(ADB)がラオスのナムトゥン2水力発電事業への支援を決定し、本格的な工事が開始されてから3年が経ちました。
2009年の操業に向けて工事は着々と進み、2008年4月の時点で85%が完了したと発表されています。4月9日には工事用の迂回水路が閉鎖され、湛水が開始されました。
世銀・ADBは、同事業の支援決定に際して、セーフガードに則ったプロジェクトの実施と、事業実施中の予期していなかった事態に適切に対応することを約束しました。しかし、影響地域では、移転事業の遅れや生計回復プログラムの失敗など、様々な問題が顕在化しています。
2008年4月26・27日、ナムトゥン2ダムの影響を受けている8村を訪問し、インタビューを行いました。詳しい報告は、以下の報告書をご覧下さい。
・ 現地訪問(2008年4月)報告
今回の移転村の訪問からは、主に以下のような問題が明らかになりました。
今回訪問した全ての村で、村人はプロジェクトの補償として与えられた農地での焼畑耕作の準備をしていた。移転してきたばかりのナカイヌア村やドーン村のみならず、移転から2年が経つソップヒア村やソップマ村、移転パイロット村のノンブアサーティット村でも焼畑が行われている。また、今回インタビューした村人の多くは、来年以降も米作を続けていくと考えていて、社会開発計画(SDP)に挙げられている棚田を作る計画は、パイロット村を含め、どこの村でも実現していなかった。一方で、NTPCが推奨する商品作物栽培についても、栽培農家の増加に伴って価格が下落している。
また、カムアン県の平均的な焼畑での収穫は、0.6〜1トン/ヘクタールだといい、1世帯あたり0.66ヘクタールの農地では、多くの世帯では、食べていくのに十分な米を収穫できないだろう。さらに、来年以降、休閑期間を置ける土地はないので、焼畑による米作が同じ土地で繰り返される可能性は高い。そうなれば、数年後には、土壌悪化などの問題が深刻になると推定される。
移転住民たちは、安定した生計が営めるようになるまでNTPCが米などをサポートしてくれると信じており、現時点で支援が打ち切られたら暮らしていけないと感じている(ターラーン村、ソップマ村でのインタビュー)。商品作物栽培が行き詰まり、休閑期間を置けない焼畑に頼らざるを得ない移転村の状況の中で、「自立」の名の下に、支援が打ち切られ、移転住民の生活が困窮することはあってはならない。
多くの村人が、水が上がってくるぎりぎりまで、水没予定地で水牛や牛の放牧を行っている。つまり、移転地に十分な放牧地が確保されていないことは明らかだ。 ダムに水が溜められた後、今水没予定地で放牧されている家畜をそのまま新しい移転地に移せるのかは大いに疑問だ。
現在の居住地から離れたところで飼育しているため、川の水位が上昇した際に、水牛を避難させることができず、水牛を失った(ソップフェーン村、ソップマ村)、十分なエサがなく、水牛が痩せ衰えて死んでしまった(ノンブアサーティット村)という話も聞かれた。これらは、新しい移転村に十分な放牧地が確保されていなければ起こらなかった事態であるが、NTPCからの補償などは行われていない。現在多くの家畜が放牧されている土地がダムに沈めば、牧草の不足はより深刻になると考えられる。
昨年、NTPCは補償地で牧草の栽培を奨励したというが、植えた草は育たなかった(ソップヒア村、ソップマ村、ドーン村のインタビュー)。また、カムアン県で農業支援に関わるNGOのスタッフによれば、0.66ヘクタールの土地では、牧草が十分に育ったとしても、これまで移転住民たちが所有していた頭数の家畜を飼育することは難しいという。
多くの村では、非木材林産物(NTFPs)の採取は今も水没予定地で行われており、水没後は収穫が難しくなる。タケノコなどのNTFPsは、村人にとって貴重な食料であるばかりか、現金収入源となっているので、NTFPsが採取できなくなることによる影響は大きいと考えられる。
社会開発計画(SDP)には、「貯水池で高い漁獲量を得るためには、水質の維持が非常に重要である。湛水前にバイオマスの除去を行うことで、貯水池の水質が改善される」「湛水後、数年間、ある程度の水質を確保するためには、ナカイ高原に残ったバイオマス(地表および地下)は可能な限り除去されなければならない」(24.5.1.1)とあるにも関わらず、貯水予定地のバイオマスの除去が全然進んでいない。このまま貯水池が作られれば、水質の悪化が予想され、下流や貯水池漁業への影響が懸念される。
4月に湛水が始まったのにも関わらず、ナカイヌア村では、まだ移転地に家が完成していない世帯があった。また、移転を完了した世帯でも、窓が取り付けられていないなど、家が完成する前に移転が行われた。小学校も未完成のままだ。移転計画が遅れたにもかかわらず、建設工事の進捗に合わせて、移転が急がれた結果、移転住民に不便が強いられている。ウドムスック村でも、数十世帯の住居が建設途中だった。元々住んでいた村を離れて2年が経つソップフェーン村でも、小学校が完成しておらず、子供たちは仮の校舎で学んでいる。
今回訪問できたのは影響地域の一部だけですが、他の村でも同様の問題が起きていることが考えられます。事業を実施するナムトゥン2電力会社(NTPC)および世銀・ADBは早急に適切な対応を取らなければなりません。メコン・ウォッチとしても、引き続き、世銀・ADB・日本政府に対する働きかけを行っていきます。
(文責 東智美/メコン・ウォッチ)