ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > 中国輸出入銀行 >カンボジア・カムチャイダム建設で地元観光業に打撃
メコン河開発メールニュース2009年1月28日
現在、カンボジア南部では、最大出力が193メガワット(MW)に達するカムチャイダムの建設が進行中です。このダムは「カンボジアの三峡ダム」とも呼ばれ、カンボジア国内初の大型水力発電事業として注目されています。また、建設資金を提供しているのが中国輸出入銀行、建設と運転を担当するのも中国の水力発電事業大手シノハイドロ社ということから、ここ数年メコン圏で急速に影響力を増す中国の資金による大型開発事業が、環境社会影響にきちんと対応できるかという点からも注視する必要があります。
カムチャイ水力発電事業の詳細については、以下のサイトをご覧下さい。
カムチャイ・ダム
米国に本部を置く環境NGO「国際河川(IR)」や現地カンボジアのNGOネットワーク「カンボジア河川連合(RCC)」は、かねてよりカムチャイダムによる環境・社会へのさまざまな悪影響に懸念を表明してきましたが、2008年1月に共同で発表した現地調査報告書(注1)では、建設工事がもたらす被害に関して、「ダム建設期間中に水質が悪化する可能性が高い…(中略)…建設労働者居住区からの
汚水を管理する適切な手段を講じるべきである」(報告書68ページ)と警告を発しています。
残念ながら、この報告書の懸念は的中してしまいました。建設現場から流れ出す汚水でカムチャイ川の水質が悪化し、現地の観光産業が打撃を受けている模様です。やや古い情報ですが、昨年3月にこの件を報道した現地英字紙『カンボジアデイリー』の記事を日本語訳で紹介いたします。
チャイ・チャンニダ(Chhay Channyda)
カンボジアデイリー
2008年3月24日(月)
(原文英語)
現地の政府関係者や住民によると、物議を醸しているカムチャイダムの建設が進み、3月になってカンポート州ボコール国立公園内にあるトゥックチュ(ToekChhou)の滝や早瀬の周辺で観光業が打撃を受けはじめている。カムチャイダムはカンボジア初の国内大型ダム開発案件である。
ソイ・シノル(Soy Sinol)カンポート州観光課長補佐は、先週木曜日に電話インタビューに答え、現地の観光客が2月の約6万人から3月は7700人に落ち込んだと述べた。
2億7000万ドルを投じた出力180メガワットのカムチャイダムの大規模工事で、場所によっては観光客の立ち入りも制限され、下流の早瀬が採掘などの作業で汚染され、さらに訪問客を遠ざけているという。
また、ソイ・シノル課長補佐は、建設を請負う中国のシノハイドロ社が何百人もの建設労働者のためにトイレを建設し、汚物を川に流していると語った。
「流れ込んだ汚物を気味悪がって、川遊びを止める人が出はじめている」と同課長補佐は述べた。
「水が汚れているんだから、観光客が楽しめるはずがない」と課長補佐は言い、訪れた観光客は川には入らず、付近に座って弁当を食べているだけだと付加えた。
ダム建設現場で働くプット・ニー(Put Ny)さん(47)も先週の木曜日に、トイレがきちんと作られておらず、そのため排水がふだん観光客の訪れる川の一部に流れ込んだと語った。
モリデン(Moliden)ゲストハウスの従業員イン・サオ(In Sao)さんは、最近のゲストハウスの稼働率は50%で、これは川の汚染のせいだと述べた。
「煮沸した水を飲んでも、コップの底に泥がたまる」とイン・サオさんは言った。
タイ・コーン(Thach Khorn)カンポート州知事も先週の木曜日のインタビューで、川の水質に関する苦情を承知していると述べた。
知事はまた「清潔な水が手に入りにくくなっている件は分かっているが、水力発電所を建設している以上影響は不可避だ」と言い、現在、問題を調査中であると付加えた。
チュン・ヒン(Chhun Hin)州産業鉱山エネルギー局課長は、2週間前に付近のパイプが破裂する事故があって、汚水や工事の汚泥が川に流れ込んだと述べた。
「パイプはすでに修繕した」と同課長は説明し、川の水もすでにきれいになりつつあると補足した。
注1:英文報告書Cambodia’s Hydropower Development and China’sInvolvementは、以下のサイトで閲覧可能。第5章がカムチャイダムの事例報告。
http://www.internationalrivers.org/en/node/2417
(文責・翻訳 土井利幸/メコン・ウォッチ)