ホーム > 追跡事業一覧 > カンボジア > カムチャイ・ダム
カンボジア南部のカンポート市(人口約4万人)から北へ15キロのカンポート郡マクプラン(Mak Prang)集合村を流れるカムチャイ川(プレクトゥックチュ)に建設中の水力発電所。ダム壁の高さは145メートルで、建設によって約2600ヘクタールの土地が水没する。総出力は193MW。総事業費は約3億ドルで、カンボジア最大の単体事業であると同時に、中国の対カンボジア単体投資事業としても最大。事業形態は、中国の水力発電事業大手シノハイドロ社が担当するBOT(建設・運転・引渡し)である。シノハイドロ社は中国・三峡ダムの建設を手がけていることで知られている。このためかカムチャイダムはしばしば「カンボジアの三峡ダム」と呼ばれる。発電後の電力はカンボジア電力公社(Electricte du Cambodiage)が買取り、カンポート市以外に発展著しい南部の港湾都市シアヌークビルなどに配電される。
1) 生物多様性への脅威:カムチャイダムはエレファント連山の南端、ボコール国立公園内に建設されている。同国立公園は生物多様性で知られ、アジア象・熊・虎など絶滅危惧種の生息も確認されている。しかし、こうした生物の生息地がダムによって水没する。シノハイドロ社は見返りとして植林を計画しているが、適当な用地が見つからず、そもそも植林によって希少生物の生息地を再生することは不可能である。
2) 貧困層の生計手段の破壊:地元の最貧困層が、特に乾季に、竹や籐などの非木材林産物(NTFP)を採取し収入源としているが、採取地はダムによって水没する。建設工事中は採取を継続できるが、ダム完成後の現地住民の生計回復に対しては十全な計画が示されていない。
3) 水質の悪化:元来、カムチャイ川の水質は良好で、カンポート市民4万人の取水源であると同時に、農村部の人びとは農業用や飲用にも川の水を利用している。しかし、建設工事の影響や貯水池のバイオマス除去の不徹底によって水質が悪化する恐れが高い。
4) 観光業への打撃:良好な水質や早瀬の存在によって、カムチャイ川の一部は内外の観光客が頻繁に訪れ川遊びに興じる名所として知られている。また、周辺では地元住民約200名が観光客を対象とした販売業などを営んでいる。しかし、水質の悪化などによって観光業が成り立たなくなる。
5) 情報公開・参加の不徹底:ダムの初期環境影響評価(IEIA)はドラフトのままで、各方面からの意見が反映されているか確認のしようがない。同文書は一般には公開されていない。
林産物を集める村びと。カムチャイダム建設により
これらの資源は失われてしまう。
(c) Carl Middleton / International Rivers
ボコール国立公園内にあるカムチャイ川渓谷
-カムチャイダムによって水没してしまう。
(c) Carl Middleton / International Rivers
1993年
カンボジア国王の令によりボコール国立公園を保護区として開設
1995年
カナダ国際開発庁(CIDA)が資金提供した初期実施可能性調査が完了
1990年代半ば
カナダ企業が事業の実施可能性調査を検討していたが、カナダ国際開発庁の資金援助が実現せず撤退
2004年
6月 事業の入札開始。日本企業を含む17社以上が参加(〜2005年1月)
2005年
4月 シノハイドロ社の事業落札が決定
7月 中国雲南省で開催された第2回大メコン圏(GMS)サミットの席で、温家宝・フンセン両首相立会いの下、シノハイドロ社とカンボジア政府産業鉱業エネルギー省(MIME)が同意書に調印
2006年
2月 シノハイドロ社がカンボジア政府産業鉱業エネルギー省および財務省と44年のBOT(建設・運転・引渡し)契約を締結
4月 中国政府が対カンボジア援助6億ドルを表明。この一部がカムチャイダム建設費用
7月 カンボジア国会が賛成69棄権10で事業へのリスク保証を決議
9月 初期環境影響評価(IEIA)を委託されたカンボジアのコンサルタント会社SAWACが地元コミューン評議会、州知事・職員、国立公園関係者らにインタビュー
10月頃 シノハイドロ社がSAWACの作成したIEIAをカンボジア政府環境省に提出
11月 IEIAをめぐる公聴会の開催。市民参加は限られており、国際NGOの参加は1団体のみ
2007年
2月 建設工事開始
2010年
運転開始予定