メニューを飛ばして本文へ移動。

    English site

[メコン・ウォッチ]

ホーム | お問い合わせ | メールニュース登録 | ご支援のお願い


イベント | メコン河とは? | 活動紹介 | 追跡事業一覧 | 資料・出版物 | ギャラリー | メコン・ウォッチについて

ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ラオス・ナムグム5ダム > MIGAの保証を申請

ラオス・ナムグム5ダム>MIGAの保証を申請

メコン河開発メールニュース2009年2月7日

近年、ラオスで速度を増しているダム開発計画に対して中国が積極的に関与している事実は、このメールニュースでもたびたび紹介してきました。そうした事業の一つに、ナムグム5ダム建設計画があります。ナムグム5の建設は2008年5月にすでに始まっていると報じられていますが、事業者である中国水利水電建設集団公司(シノハイドロ社)は、この事業に対して、世界銀行グループの「多国間投資保証機関(MIGA)」による政治リスク保証を申請しています。以下に日本語訳で紹介するカナダのNGO、プローブインターナショナルの記事では、ラオスの投資環境の現状を踏まえつつ、シノハイドロ社がMIGAに保証を求める理由を、「やっかいな環境社会上の課題に対する責任をMIGAに押し付けることができる」からだと分析しています。

シノハイドロ社、メコン圏のダム建設にMIGAの保証を申請

パトリシア・アダムス&グレニア・ライダー
プローブ・インターナショナル
2008年10月29日

中国で巨大な三峡ダムの建設を手掛けたシノハイドロ社が、世界銀行の投資保証機関であるMIGA(多国間投資保証機関)に、同社が隣国ラオスで建設中のナムグム5ダムに対する政治リスク保証を申請している。【訳注1】

プローブ・インターナショナルに対する電子メールで、MIGAのジュディス・ピアス(Judith Pearce)最高執行役員は、シノハイドロ社が2007年に政治リスク保証を申請し、MIGAの理事会が間もなく決定を下すことを認めた。【訳注2】

ピアス氏は、MIGAが契約に署名しないうちは、シノハイドロ社がどれぐらいの金額やどのような保証を求めているのかを公開できないと語った。

公式サイトによれば、MIGAは、発展途上国に投資する海外企業を契約違反・送金リスク・戦争や内戦の勃発・国営化などから守るためにリスク保証を提供する。

シノハイドロ社は2008年4月以来、5400万ドルの自己資金に加えて、中国銀行から1億4000万ドル、さらにラオス国営電力事業体であるラオス電力公社から600万ドルの資金を調達して、総額約2億ドルのナムグム5事業に取り掛かっている。

この事業への投資は中国の海外進出政策の一環で、国営企業が中国の輸出信用機関や銀行からの資金で発展途上国の基盤を整備する。シノハイドロ社が電力を一定の保証価格で販売できるよう交渉したことはほぼ確実だが、詳細が公表されていないため、この事業からシノハイドロ社が正確にどの程度の利益を得ようとしているかは分からない。【訳注3】

ラオスでは活用されていない水力発電の潜在性が高く(ラオス国内の河川からメコン河に年間総水量の約35%が流入している)、政府も大規模水力発電開発における官民協力に積極的だが、投資家はラオスの水力発電事業に大規模な資本を投入することに前向きではない。

無理もない話である。水力発電事業では、投資家に打診する前にできるだけ近隣の電力市場で、信頼のおける買い手との間で買電合意に達している必要がある。600万人のラオス国民の大半は自給自足の農民で、国内に大量の電力を必要とする市場は存在しない。一方、電力を隣国であるタイやベトナムに輸出するには、明らかに商業・政治上のリスクが伴う。

さらに、共産主義体制というラオス特有の金融上のリスクもある。つまり、土地などの私有は認められておらず、事業者は共同の所有者としてラオス政府と合弁会社を設立しなければならない。事業収入と経営責任は、合弁会社と国営事業体であるラオス電力公社との間で折半となるが、ラオス電力公社は、管理面でも運営面でも透明性が確保され信頼に値するとは言いがたい。

したがって、たとえナムグム5発電所がシノハイドロ社の基準からすれば小さな事業で、電力は輸出用ではなく国内市場向けであったとしても、シノハイドロ社はラオス電力公社を15%の共同出資者として合弁会社を設立しなければいけなかった。25年の譲渡契約の下で、ナムグム5発電会社は発電所を建設・運転し、電力をラオス電力公社に販売する。譲渡契約が切れれば、発電所はラオス政府に引き渡されることになる。

この仕組みの中でMIGAの役割は、政治リスク保証を発行する機関というよりは、政治的な黒幕の色合いが濃い。現時点ではMIGAの理事会が最終決定を下したわけでもないのに、MIGAの職員が事業の調整役や公的な窓口の役割を担っており、理事会の承認に向けて事業の環境社会影響調査文書を準備し、首都ビエンチャンで関係者の公開会議を開催する手伝いをしている。

つまり、MIGAは、シノハイドロ社を契約違反や政治的混乱から守るだけでなく(そうした事態になれば、ラオス国民に支払いを強いるわけだ)、ラオス政府が水力発電所の事業費の一部、特に住民への補償と環境影響緩和策に対して責任を取るよう準備を進めているわけである。MIGAのおかげでシノハイドロ社は事業の全リスクを負うことなく、一方で事業の収益の大半を手にすることができる。

こうしたやり方で、最終的にラオス政府やラオス国民がどれほどの出費を負うことになるかは、事業費やリスク保証の取り決めの詳細がベールに包まれているために誰にもはっきりとは分からない。これまでの経験から言えることは、ラオス政府が水力発電による環境破壊を過小評価し、被害住民に対して正当な補償を支払ってこなかった点である。

最近、MIGAとラオス政府が共催したナムグム5ダムをめぐるワークショップで、影響住民たちは、事業は歓迎するが、農地が水没する前に補償を受け取ること、そして生活水準向上のための代替生計手段の訓練を実施する資金が必要だと発言した。事業の環境社会影響評価の推定では、49世帯の住民がダムの貯水池建設のために水田を失う。

シノハイド社はメコン河支流でナムグム5ダムの建設に着手する一方、メコン河本流がラオス、ビルマ、タイ、カンボジアを流れる下流域でのダム建設にも目を向けている。

同社は中国電子輸出入総公司と共同で、ラオス初のメコン河本流ダムである出力1320メガワット(MW)のパクライダムの実施可能性調査を行っている。

パクライダムは、1950年代、国連が資金を提供したメコン委員会(1995年に「メコン河委員会」として改組)がメコン河下流域に計画した9ヶ所からなる連続ダムの一つである。この計画で6万人におよぶ住民が移転することになると試算したメコン委員会の報告書が公開されると(カナダとフランスの水力発電コンサルタントが報告書を準備した)、タイの市民社会が猛反発して計画は棚上げとなった。今になって中国のダム建設業界がこの計画を持ち出すことで、メコン河下流国の環境団体や地域住民によるあらたな反対運動に火がついた。中国の海外進出政策に対して、市民社会では、「中国のダム建設業者は出て行け」という声がみるみる高まってきた。

中国政府から手厚い保護を受けているシノハイドロ社のような水力発電開発業者が、MIGAのように西欧諸国政府が背後にいる金融機関の懐(ふところ)をあてにすると予想した者は少なかった。

シノハイドロ社がメコン圏でこのような動きをした理由は、先月ビエンチャンで開催された水力発電に関する会議で明らかになった。この会議でシノハイドロ社の広報担当は本流ダムに対するMIGAの関与を歓迎し、当該政府との協力関係の改善、透明性の確保、市民社会による監視、資金提供者に対する信頼性といった分野で、MIGAとの関係が付加価値をもたらすと述べた。シノハイドロ社の代表は、MIGAが事業者と電力購入者との間で発生する法律上の紛争を調停する手助けにもなると指摘した。さらに事業者にとって常に頭の痛い環境社会面での課題について、シノハイドロ社は、当該政府やMIGAの協力が必要であるとも認めた。やっかいな環境社会上の課題に対する責任をMIGAに押し付けることができる点に、シノハイドロ社がMIGAと新たな関係を持とうとする主な理由があるのだろう。

昨今、シノハイドロ社は何十億ドルにも相当する開発途上国での基盤整備事業の契約を結んでいるが、その中にはスーダン、コンゴ、ビルマといった世界でも有数の紛争地域が含まれている。市民社会がシノハイドロ社の投資に抗議すれば、MIGAが抗議や責任をかわすのにちょうど都合の良い窓口を提供するといったこともありうるのだろう。

【訳注1】MIGAの正式名称はMultilateral Investment Guarantee Agencyで、1988年に設立された世界銀行グループ内の一機関である。
【訳注2】ナムグム5に関連するMIGAのサイトは、http://www.miga.org/news/index_sv.cfm?stid=1506&aid=1640
【訳注3】シノハイドロ社の正式名称は「中国水利水電建設集団公司」で、17の子会社と全世界33の支店・代理店を持つ巨大国営企業。1950年に設立され、当初の水力発電所建設から現在では、高速道路・鉄道・港湾などの投資、プロジェクトファイナンス、コンサルティングなども幅広く手掛ける。中国国内に現存する水力発電所の70%以上を手掛け、これらの発電所の総発電容量は80,000MWにのぼるという。同社の英語サイトは、http://www.sinohydro.com/servlet/Folder?node=56274&language=1


原文(Patricia Adams & Grainne Ryder(2008)Sinohydro Seeks MIGA Insurance for Mekong Dams=英語)は、以下のサイトで閲覧可能
http://www.probeinternational.org/three-gorges-probe/news-and-opinion/sinohydro-seeks-miga-insurance-mekong-dams

メコン・ウォッチによる過去の関連ニュースは、
ラオス・ナムグム5ダム>中国が投資・融資
ラオス・ダム>中国がナムグム5ダムに投資

(翻訳・文責 土井利幸/メコン・ウォッチ)

このページの先頭へ

サイトマップ
特定非営利活動法人 メコン・ウォッチ
〒110-0016 東京都台東区台東1-12-11 青木ビル3F(地図
電話:03-3832-5034 Fax:03-3832-5039 
info@mekongwatch.org
© Mekong Watch. All rights reserved.