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メコン河開発メールニュース2010年8月27日
東北タイを流れるメコン河の支流ムン川に世界銀行の支援で建設され、甚大な漁業被害を引き起こし続けてきたパクムンダム。メコン・ウォッチの木口由香は、
このパクムンダムの影響地に、1999年から通い続けています。メコン河開発メールニュースでは、この問題の経緯と最近の現地情報について5回にわたってお届けしています。
前回は、水門開放に向けた住民運動についてお伝えしました。今回はダム下流の村の様子です。
パクムンダムについてはこちらをご覧ください
東北タイの主要な民族はラオです。しかしメコン河に面したワンブック村は、先住民族のブル族の村です。村の子供たちの約半分は、まだブル語を話すことができるといいます。村はムン川の河口からも近く、村人はメコン河とムン川の双方で漁をして暮らしてきました。
バイさんと夫のポンマーさん夫婦の家を訪ねところ、ちょうど森でのキノコ採りから帰ってきたところでした。村人は魚がとれないので、キノコを集めて村に来る仲買人に販売しています。この村で水田を持っている人は200世帯中20世帯。村は漁業に依存しています。パクムンダムができてからもメコン河と近くの支流で漁ができるため、出稼ぎに行かず村に残る若い男性が多いと言います。
バイさんは「このシーズン、漁をしている人はほとんどいません。皆、キノコ採りに出かけている。天候が不順なためか、キノコもやっと今週出始めたばかり」と言います。キノコはキロあたり50バーツ(1バーツは約2.7円)で売られていました。メコン河を見下ろすワンブック村の見晴らし台には、他の村では見かけない10代から20代の3人の若い漁師が網の手入れをしており、これからムン川河口に出かけると話していました。
隣のフアイマークタイ村では、ヴィヤンさんとオーラーさんの二人の女性に話を聞きました。ここもメコン河に面しています。この村からバンコクに出る若者は半分ほど。ヴィヤンさんの娘は近くのリゾートホテルで昼から夜中まで12時間勤務をして月給は3000−4000バーツだと言います。それでも実家から通う分、支出が少なくて安心とのことでした。
パー・イトゥと呼ばれるコイ科の魚は例年キロあたり50バーツが卸値ですが、今年はキロあたり80バーツ前後で取引されています。他の魚はほとんどとれないそうです。ちょうどムン川河口まで出かけていたという隣の若夫婦が帰ってきましたが、ダムの水門が開かないので魚が上がってこず、「あきらめて帰ってきた」と話していました。
この村も100世帯のうち10世帯しか水田を持っていません。村は国立公園に隣接しており、森を開拓し水田を広げることは違法となります。住民は、村で暮らす限り漁に代わる生活手段を持つことはできません。彼女たちは、「今年はコメの値段が高くて心配。5月に水門が開けばまだ生活が楽です。漁で1日4000−5000バーツ稼げる日もあります。昨年はこの水門開放の時期に、2−3万バーツを稼ぎ、1年の生活費に充てました。農家がコメを売って年に1回収入を得るようなものです」と口々に話していました。
オーラーさんらは、「魚がムン川の支流チー川の水のにおいを覚えていて、それに惹かれてムン川に入ってくる」といいます。研究者の報告でも、雨季の降雨で土が混じった川の濁りが魚の回遊の引き金になっていると指摘されています。ダムから放水される水は貯水池での沈殿のため、泥などをあまり含みません。そういったことも、魚がムン川に向かわない理由だということです。それでも、ダムの下流は魚が全く遡上できない上流よりも漁のチャンスは多いのですが、ダムの放水が強い時には網や船が流されてしまい、現金収入の限られた住民に大きな損害を与えています。
人々の暮らしは、自然豊かな川と森に支えられていました。ダム開発によりそれを失い、15年以上がたっても、多くの人が生計を立て直せないでいます。
（文責：木口由香／メコン・ウォッチ）