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J-Power発電所>住民と裁判官の長い一日(1)

メコン河開発メールニュース2010年10月6日

日本の電力卸会社大手のJ-Power(電源開発株式会社)はタイで2つのガス火力発電所の建設を計画しています。しかし、住民の強い反対でチャチュンサオ県サメッタイ地区の事業地の移転が決まりました。また、サラブリ県ノンセン地区の発電所は、行政裁判で予定地の土地利用の適正さが争われています。

この問題について第4回と5回では、裁判官の現地視察の模様を伝えるバンコクポスト紙の記事翻訳をお届けします。

事業についてはこちらをご参照ください。

第4回:住民と裁判官の長い一日(1)

発電所論争:ノンセンでコメ農家と発電所推進派の争いがこう着

2010年7月29日
Vasana Chinvarakorn
バンコクポスト紙

息の詰まるような暑さも、いきり立つ人々の雰囲気も、耐え難いものだった。それでも、黒いスーツに身を固めた二人の裁判官が率いるグループはひるまずに歩き続けた。

2010年6月9日は、サラブリ県の農村であるノンセンにとって歴史的な日となるかもしれない。この日、行政裁判所の裁判官であるPrapote KlaisubanとPanupan Chaiyaratがこの村について持つ印象が、住民たちの将来を良い方向にも悪い方向にも左右する可能性があったからだ。

この日行われたのは、タイ語でいうDoen Pachern Sueb。これは、事件について裁判官が実際に現地を訪れて関連情報を集める調査である。2010年3月23日、ノンセン、ゲンコイ、サラブリの56人の住民が、行政裁判所に前例のない訴えを行ったのである。被告は、内務大臣、土木・都市計画局長、(この地域の都市計画担当官に指名された)サラブリ県知事、国家都市計画委員会の四者。訴えの内容は、これらの政府関係者・団体が、すでに県レベルの公聴会で2005年に承認され可決されていたサラブリの包括的都市計画案Pang Muang Ruam Changwat Saraburi)の法制化を怠ったというものである。

法制化の大幅な遅れで多くの影響が出た。都市計画法が実施されていないサラブリ県は、この数年間、法的に忘れられた地域となっている。都市計画案で農村保全地区(Phuen-tee Anurak Chonnabot Lae Kasettakam)とされたノンセンでは、法律がなかったために数件の工場建設や工場拡大が行われ、環境や健康を損ねていると住民たちから不満がもれている。

住民たちの忍耐が限界に達したのは、ノンセン中心部に1600メガワットの天然ガス火力電力発電所を建設するという数十億バーツの計画が発表されたときだった。2008年、ガルフJPの子会社であるパワー・ジェネレーション・サプライ社がタイ発電公社(EGAT)に電力を売却する権利を勝ち取った。ノンセンの300ライ(=48ヘクタール)と、その隣のアユタヤのパチー郡の270ライ(=43ヘクタール)という広い土地が売却され、それぞれ発電所と貯水池として利用されることになった。

村人たちは、様々な政府機関を通して大規模なプロジェクトに反対したが、いずれも失敗に終わったため、最後の望みとして行政裁判所に訴えたのである。窮乏する人々のための環境問題訴訟・支援活動(Environmental Litigation and Advocacy for the Wants、Enlaw、タイ語名「環境のための法的正義プロジェクト」)というNGOの弁護士グループが、ボランティアとして法的なアドバイスを行うことになった。

56人の原告は、セラブリ都市計画の迅速な法制化のほか、行政裁判所が関係政府機関に対し、ノンセンをさらなる工業化から保護するよう命令することを求めた。住民たちは、巨大な発電所の建設が許されてしまえば、自分たちの村に取り返しのつかない悪影響がもたらされるため、予防的措置をとるべきだと考えている。

興味深いのは、パワー・ジェネレーション・サプライ社が被告として名を連ねることを自ら希望したという事実である。たしかに、同社はこの件に大きな利害関係をもっている。土地を購入し、いろいろな政府当局や人脈を通してプロジェクトを進めるために数百万バーツを費やしてきた。また、計画が中止されれば数十億バーツの利益を得られないことになる。計画の実施は目前だった。環境アセスメントは承認されていたし、裁判官たちによる調査の直前まで、工場局は建設開始の許可を与えていた(ただしマプタプット問題の解決とその解決策の適用が条件となっていた)。都市計画案は最後の障壁であり、できるだけ早期に解決すべき問題だった。

ノンセンに2人の裁判官が到着する前から、発電所の推進派と反対派の論争は明白になっていたのである。

Prapote裁判官とPanupan裁判官を村の中心で待ち受けていたのは、二種類のプラカードだった。大きくてキラキラと光るプラカードには、「発電所を欲しくない者などいるだろうか?発電所が欲しい!」、「誰のための計画案なのか?なぜ我々の意見を聞かないのか?」などと書かれていた。そこからほど遠くない場所には、コメを入れる袋から作った小さくて古ぼけたプラカードがあり、「今でも水不足なのに、さらに水を奪う発電所を作るのか!」、「コメを作りたい。伝統的な生活がしたい!」と書いてあった。

発電所反対派リーダーのPathommon Kanha(別名Phuyai Tui)村長によると、反対派が最初に掲げたプラカードは、前日に何者かによって盗まれてしまったという。午前2時には、他のリーダーの家では「撃つぞ」という脅しが聞こえた。その後、反対派が急きょ集まり、手元に残った材料をすべて使って新しい旗を作ったそうである。

そのような特徴をもつ以外、村はいたって控えめな場所である。太陽が容赦なく照りつける中、2人の裁判官が率いる一行は、ひとつの場所から次の場所へと粛々と進んだ。権威ある司法府の代表が、誰かが集めた情報を受け取るのではなく、一般市民と会って自ら証拠を集めるという光景は、タイの裁判所の活動として興味深く、新鮮でさえあった。

二人の裁判官の真剣で中立的な表情から、二人が何を考えているか読み取ることは難しかった。裁判官たちは、広大な水田が巨大な発電所の建設地になりうると考えていたのだろうか?それとも、住民たちが証言したとおり、建設予定地は寺院や学校、住宅に近すぎると考えていたのだろうか?ノンセンで昔から盛んな米作が、新たな「隣人」の出現によって深刻な悪影響を恒常的に被る可能性について考えていたのだろうか?

これほど暑い日でなく、調査に法的重要性がなかったならば、裁判官たちの訪問は、重要な岐路に立つタイの主要な稲作ベルト地域について学ぶ、のんびりとした旅行でしかなかっただろう。ノンセンはバンコクから車で1時間しか離れていないが、そこには田園の雰囲気やゆっくりとした生活が驚くほど残っている。泥の中を手動の鍬を押しながら進む農民、小さなボートで運河を行き来する住民、用水路に飛んできて水田のカニなどをついばむ鳥の群れ。そこでは、他の場所では急速に消えつつある古のタイの風景を垣間見ることができる。昨年6月にノンセンを訪れたバード・ウォッチングの団体は、1日で70種、約9000羽の鳥を見つけたという。

200年前にこの地に定住したラオス系の農民たちは、タイの多くの地域と異なり、秀逸な灌漑システムを利用してきた。ラーマ5世の治世にパーサック川から水を引いて作られたラピパット水路は、良好な状態に維持され、より広い地域に灌漑システムを行きわたらせるべく約20年前に拡張された。こうして用水路が張り巡らされ、中央平原のこの地域では2年に5回も稲作を行うことが可能になったのである。

二人の裁判官が未舗装の道路を歩いている間、Pathommonは、道路の両側に広がるエメラルドグリーンの水田に「数十万バーツ」が費やされていることに気付いたという。これは誇張ではない。この地域の多くの農民たちは土地を所有しておらず、先祖たちと同様、バンコクやアユタヤの投資家(Nai Thun)一族から土地を借りているのである。農民たちは、天候や市場価格の変化にも耐えなければならない。わずかな例外を除き、ほとんどの農民がなんらかの借金を抱えている。それでも、ノンセン住民の大部分にとっては、今でも米作が生きる道であり続けている。豊作の年には米作で十分な収入が得られる<次回に続く>。

(文責 木口由香/メコン・ウォッチ 翻訳 草部志のぶ)

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