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J-Power発電所>ノンセン住民、建設反対を表明する書簡をバンコク支店に送付

メコン河開発メールニュース2010年12月5日

日本の電力卸会社大手のJ-Power(電源開発)はタイ企業ガルフパワー社と共同出資して子会社Gulf-JP社を立ち上げ、Gulf-JP社を通してIPP(独立発電事業者)枠を獲得、天然ガス発電所を建設する予定です。それに対し、地元タイのサラブリ県ノンセン郡の農業を営む住民は、当初から反対を表明してきました。

2010年11月25日、ノンセン郡の住民数十名が首都バンコクのJ-Power支店を訪れ、これまでのいきさつや裁判の内容を記した書簡を届け、同社関係者と1時間ほど話し合いました。書簡には約100名の住民が賛同署名を寄せています。住民は、現地の状況や行政裁判の内容を同社幹部に伝えました。また、書簡では、憲法で保障された権利に従って反対を表明したにもかかわらず、一部住民が刑事裁判の被告となっていることなども記されています。

タイのNGO関係者によると、J-Powerの責任者は事務所のあるビルの外で住民と会い、書簡の内容を本社とタイの事業パートナーに伝えるとしながらも、決定権はタイ企業側にあり自社は投資をしているだけだ、と住民に説明したそうです。

建設予定地一帯は200年続く稲作地帯で、早くから灌漑網も整備されており、中部タイを代表するような田園地帯です。タイでは、全国的に都市計画を立案、工業地帯と第一次産業地帯などを分けて開発を進める方針が立てられました。しかし、準備は整っていながら、法が施行されていない状況が続いています。住民は今年3月、田園地帯として保全されるべきノンセン郡に発電所が建設されることは、行政の不作為だとして行政訴訟を起こしています。

これまでの状況については、こちらをご覧ください。

当日渡された書簡は、11月初旬にJ-Power本社にも送られています。以下に翻訳で全文をご紹介します。


 

差出人: 農民生活保全ネットワーク
      事務所 サラブリ県ノンセン郡
      タンボン・ノンゴップXX番地

2010年11月

件名:サラブリ県ノンセン郡ノンセン発電所建設に対するJ-Power社の投資に反対を表明する件

宛先:
取締役会長 沢部清様
取締役社長 北村雅良様

ノンセン発電所に反対する農民生活保全ネットワークの住民署名同封

同報:
常任監査役 島田寛治様 藤原隆様

 

農民生活保全ネットワークは、サラブリ県ノンセン郡タンボン・ノンボップ第4地区とアユタヤ県パーチー郡タンボン・コークムアン第2地区に建設予定のノンセン発電所建設事業から強い公害被害を受ける地域に暮らす住民のグループです。
私たちは、パワージェネレーションサプライ社のノンセン発電所建設に共に反対してきました。私たちは、ガルフエレクトリック社と共同でこの企業に融資を行い、私たちの村に発電所を建設するため、日本企業がガルフ・JP社を設立したことを知りました。ここに、共同出資をしているタイの企業が御社にきっと伝えないであろう−私たちがなぜこの事業に反対しているか−という、次のような理由をお知らせいたします。

1.発電所建設用地はサラブリ県ノンセン郡とアユタヤ県パーチー郡にありますが、ここは3世代以上(約200年)にわたって代々米作りが行われていた場所です。これはラーマ5世(チュラロンコン王)の時世に、二期作を行うためラピパットという運河が掘削されていることが証明しています。また、サラブリ県の包括的都市計画の草案ではこの灌漑農地は田園・農業地帯保全区域と定められ、発電所を含むあらゆる種類の大規模工場の建設が許可されません。現在、この都市計画は住民への意見聴取を終え内閣での合意を得ており、内務大臣が公布するための細かい修正を行っている段階です。

発電所を中心に半径5キロメートルの範囲は、3つの郡の11のタンボン行政区を含み、4489世帯、17595人の人口を有しています。住民の60%以上が農業を営んでおり、半径5キロメートルの土地の70%以上が水田であるというデータと合致しております。

このため、建設予定地は発電所建設にふさわしい場所ではありません。田園地であり、稲作やその他の農業にふさわしい場所なのです。現在、地域では微生物を利用した(有機)野菜作りが行われ、生産物は海外に輸出されています。周辺住民のうち95%以上が2年で5回の稲作を行い、(タイ王室が設立した)チャイパタナー財団に無農薬米を提供しています。それだけでなく、ノンセンの名前を冠した有名な味の良いマンゴーの品種の栽培も盛んです。私たちは、ガスによる発電が、これら重要な農産物に対して悪影響をもたらすと考えています。世界の重要な食料供給地で、すばらしい農地である私たちの郷に発電所を建設することは不適切です。

2.ノンセン発電所は水不足の問題も引き起こします。サラブリ県ノンセン郡とアユタヤ県パーチー郡のほとんどが農地ですが、既に現在、稲作時の水不足が問題となっています。もし1,650メガワットという規模の発電所が建設されれば、一日64,400m3(64,400m3は60ライの水田が1日に使う水量:1ライ=0.16ha)という大量の水を必要とします。

契約に従えば、このような水量を毎日、25年間にわたって休みなく使い続けることになります。予定地での大型発電所の建設は、農業用地である土地利用と相反するだけでなく、今、水問題に直面している地域の農民の状況を、更に困難なものに追い込むことになるでしょう。

前述のように二つの大きな不適切な点以外にも問題はあります。私たち農民生活保全ネットワークは、人権侵害と不正な行動について監査を行う、憲法が定める独立機関である国家人権委員会とオンブズマンに書簡を送り、問題を訴えてきました。国家人権委員会は調査を行い、報告書535/2009年で電力の入札が憲法に違反しているとの見解を示しました。EIA(環境アセスメント)で事前に各ステークホルダーへの情報提供と意見聴取を行っていないにも関わらず、発電所用地が選ばれているからです。また、オンブズマンは将来公布される予定のサラブリ県の都市計画と反する発電所の計画に対し、政府機関が許可を出すべきではないと指摘しています。

しかし、このように明確な不適切な点がありながら、エネルギー事業管理委員会は、パワージェネレーションサプライ社に対し発電所の建設許可を与えています(しかし、同社にエネルギー事業実施許可は与えていません)。そこで、ノンセン発電所の予定地周辺で暮らす農民生活保全ネットワークは、ノンセン発電所に関して2つの行政訴訟を起こしました。結果、以下のような障害によってパワージェネレーションサプライ社はこの場所で発電事業を実施できなくなる可能性があります。

1.2010年3月23日、パワージェネレーションサプライ社のノンセン発電所の予定地周辺で暮らす住民56名は、内務省大臣を含む4名を中央行政裁判所に、サラブリ県包括的都市計画の発布を著しく遅らせていることで提訴しました。私たちは次の点を裁判の争点としています。

 1)サラブリ県の包括的都市計画の早急な発布。サラブリ県ノンセン郡の土地が田園・農業地帯保全区域で発電所の建設が禁止されることなる。

 2)サラブリ県包括的都市計画の発布が行われるまで、全ての工場の建設を禁止することを含むサラブリ県ノンセン郡の土地にある資産の有効利用の規則を明らかにし、発布すること。

この訴訟では、判決が出るまでの間、サラブリ県包括的都市計画に反するいかなる行動もサラブリ県ノンセン郡の土地で行われないよう、その一時的な差し止めも求めています。

現在、訴訟は中央行政裁判所で審議中です。訴訟を起こした我々住民は、政府機関が7年間にもわたりサラブリ県包括的都市計画の発布を行わない、または資産の有効利用の規則を明らかにしないのは、土地利用に反する事業が行われようとしている原因になっていると考えています。

これは、コミュニティの権利と、住民の良好な環境に暮らす権利を定めた憲法66条と67条に違反する行為です。また、1975年都市計画法に違反する行為でもあります。仮に行政裁判所が訴状に従って判決を下す、または一時的な差し止めを認めた場合、サラブリ県ノンセン郡は田園・農業地帯保全区域となり、発電所の建設を行うことはできなくなります。

2.2010年9月21日ノンセン発電所の予定地周辺で暮らす住民61名は、エネルギー事業管理委員会を含む2名を、中央行政裁判所に訴えました。この訴訟では、委員会がパワージェネレーションサプライ社のノンセン発電所に与えた事業実施許可書の取り消しを求めています。訴訟では、裁判所に対し、判決が出るまでの間、工場の建設を仮差し止めするように求めています。現在、訴訟は行政裁判所で審議中です。訴訟を起こした我々住民は、パワージェネレーションサプライ社へ事業実施許可書を与えたことは、1992年工場法に従って発布された省令第2号(1992年)に反すると考えています。不適切な事業地は、1992年の環境保全推進法にも反しており、また、コミュニティの権利と良好な環境に暮らす権利、公共の利益を守ることを定めた憲法66条、67条にも違反します。このため、前述の許可書は法律に違反しております。

また、ノンセン発電所は、全ての用地の買収を終えておりません。事業地の中央の土地の買収がまだなのです。また、用地の買収を巡って訴訟も起きています。 事業会社はそこが9ライと小規模だと主張しておりますが、その土地は発電機を据え付ける場所の中に位置する重要なものであり、建設の障害となっております。

現在、2つの訴訟は中央行政裁判所で係争中です。今まで5回の審議が行われ、中央行政裁判所は近日中に命令を出すとみられています。仮に裁判所が訴えに従って規制もしくは仮差し止めを命じた場合、パワージェネレーションサプライ社はノンセン郡での建設を行うことはできません。

このような発電所事業への反対の権利、デモによる意見の表明、政府機関や独立機関への事業に対する調査の要請は、憲法と環境法で保障されている私たちの権利です。しかしながら、私たちは9件の刑事訴訟の被告となっています。加えて、パワージェネレーションサプライ社から損害賠償を求める民事訴訟を1件起こされています。一審では2件が無罪になりましたが、控訴されました。私たちは、地裁での8件の裁判を抱えています。

農民生活保全ネットワークは、J-Power社がパワージェネレーションサプライ社のノンセン発電所へ投資することに反対しております。事業は、簡素かつ持続的で充足を知る経済に則った農民生活を破壊します。私たちはノンセン郡とパーチー郡での都市計画が早急に公布されるまで、運動と裁判所での権利の行使を続けます。これによって、御社はこの地に発電所を建設することができず、土地を購入しただけのガルフ社との共同出資の資金を無駄にすることになります。

ここに例え誰であっても、私たち農民生活保全ネットワークに発電所計画を容認させることはできない、と明言させていただきます。私たちは最後まで、自分たちの生活様式と自分たちの生まれ故郷を守っていきます。私たちは、ノンセン発電所に反対いたします。J-Power社には、この地から投資を引き揚げていただくことを望んでおります。

ここに謹んでお知らせします。また、御社が早急に投資を中止されることを望んでおります。

敬具

農民生活保全ネットワーク
ノンゴップ市民組織代表
ティ・トライラットセンマニー

(翻訳・文責 木口由香/メコン・ウォッチ)

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