ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ビルマ(ミャンマー)>イラワディ川ミッソンダム開発 「建設するべきではない」との勧告が無視されていた
メコン河開発メールニュース2011年8月17日
ビルマ(ミャンマー)のカチン州を流れるイラワディ(エーヤワディ)川で、ビルマ政府と中国国営の中国電力投資公司(CPIC)などが共同で建設を進めているミッソンダム(高さ152メートル、設置出力3,600メガワット)についてのニュースです。
2009年にCPICの委託により行われた環境調査の結果、「ミッソンダムを建設する必要はない」という勧告が出ていたことがわかりました。しかしビルマ政府やCPICは、この調査結果を無視したまま事業を進めています。ビルマ河川ネットワーク(BRN)のプレスリリース(2011年7月14日付)をご紹介します。
ビルマ河川ネットワーク(BRN)
2011年7月14日付プレスリリース
ビルマ(ミャンマー)北部カチン州を流れるイラワディ(エーヤワディ)川で問題となっているミッソンダム建設について、事業を手掛ける中国国営の中国電力投資公司(CPIC)は、自らが行った調査で建設を中止するべきという勧告が出されたにもかかわらず、同ダムの建設を推し進めている。
この調査(訳注1)はCPICが全額を負担し、ビルマ・中国両国の科学者らによって行われた。調査報告書は945ページに渡り、イラワディ川にミッソンダムを建設するべきでないと勧告している。「イラワディ川が生まれる地点[ミッソン]にこれほど大きなダムは必要ない」とのことだ(訳注2)。
CPICはイラワディ川の本流・支流の7カ所に巨大なダムを建設しようとしている(訳注3)。上記の調査報告書によれば、それらのダムが建設されればイラワディ川に頼って生活する何百万もの人に影響が出て、多様な生態系を脅かす。報告書は「一連のダム建設によってイラワディ川が分割されれば、ダムの上流だけでなく遠く離れた下流の沿岸地域でも深刻な社会・環境問題が起きるだろう」としている。
6月にはカチン独立機構(KIO)とビルマ国軍が、中国がカチン州で建設しているターペインダム周辺で戦闘を開始した。これにより約3万人が避難したとされる。
カチン州を始めとしてビルマ国内で進められている巨大ダムの建設はビルマ国民から支持を得ていない。これまでに中国の政府や企業に対してダム建設を中止するよう多くの要請が出されてきたが、返答はないままだ。CPIC自らの調査報告も「[ミッソンダム建設予定地周辺の]地元住民の大半はダム建設に反対している」とし、建設によって影響を受ける住民と話し合いをし、同意を得る必要性を指摘した。
この調査は2009年に完了したが、調査報告書はこれまで公開されなかった(訳注4)。
ビルマ河川ネットワーク(BRN)のコーディネーター、サイサイ氏はこう述べる。「中国企業によるビルマへの投資は増える一方だが、中国国内で守らなければならない基準がビルマでは守られていない。CPICもビルマ国民から調査結果を隠しており、その間にダム建設が進んでいる」。
報告書は、イラワディ川全流域についての包括的な社会的影響評価を行うべきだと勧告しているが、そのような調査はまだ行われていない。
出典: Burma Rivers Network, “China’s assessment calls for Burma’s Myitsone Dam to be scrapped,” July 14, 2011.
訳注1:原文はこの調査のことを「環境影響調査」と言及しているが、実際にはダム建設による影響を受ける川の一部分の自然環境に関する限定的な評価であり、包括的な環境影響調査ではない。
訳注2:ミッソンダムの必要性について、報告書の記述は次の通り(報告書40ページ)。
「ミャンマーと中国の双方がミャンマーの環境問題について深刻な懸念を持ち、同国の持続可能な発展を目指すなら、エーヤワディ川本流に[ミッソンダムのように]大きなダムを建設する必要はない。その代わりミッソンの上流にミッソンダムよりも小さいダムを2つ建設すればほぼ同じ量の電力を生産できる。そうすればカチンの文化的価値を尊重することになる。そうした価値はダムの建設費全額よりも大きい」
訳注3:ターペイン(ダベイン)第一・第二ダムを含めると計9つとなる。
訳注4:ビルマ河川ネットワークのウェブサイトからダウンロード可能。下記「参考資料」の項を参照。
【参考資料】
・中国電力投資公司(CPIC)が委託した環境調査報告書(PDF、大容量ファイル)
http://www.burmariversnetwork.org/images/stories/publications/english/EIA_Report.pdf
【ミッソンダムに関する中国電力投資公司(CPIC)の調査報告書についての報道(すべて英語)】
・「中国CPIC、環境影響調査を無視してミッソンダムを建設中」(Oilprice.com、2011年7月20日)
・「中国CPIC、自らの分析報告書を無視してビルマでミッソンダムを建設中 『ダムは必要ない』『広範囲に深刻な影響を及ぼす』などの評価がされていた」(チャイナ・デジタル・デイリー、2011年7月20日)
・「中国CPIC、ミッソンダム『建設の必要なし』という勧告を無視していた」(DVB、2011年7月18日)
・「中国CPIC、ミッソンダム建設『必要ない』との内部分析を無視」(アジア・センティネル、2011年7月18日)
・「ミッソンダム、2009年の調査で『建設する必要性ない』との評価が出ていた 中国CPICは無視して事業を進行中」(イラワディ、2011年7月15日)
(文責・翻訳 秋元由紀/メコン・ウォッチ)