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ミャンマー(ビルマ)の開発問題
天然資源の豊富なミャンマー(ビルマ)では、天然ガスや、水力、鉱山の開発が軍事政権下で進められ、適切な環境・社会影響評価や周辺住民への情報提供が行われず、環境破壊や不十分な補償によって周辺住民が脅かされる状況が続いてきました。特に、少数民族居住地域では、資源開発が行われる際に周辺地域の軍事化が起き、強制移住や強制労働といった深刻な人権侵害につながるケースがみられ、2011年に始まった「民政化」後も一部地域ではこの状況が続いていました。「民政化」後、市民が発言できる場が広がった一方、海外からの援助・開発が急激に増加し、拙速な開発による被害も見られました。
2021年2月1日に国軍によるクーデタ―が発生し、政権幹部を含む多数が拘束され、「民政化」の流れは完全に途絶えました。軍政の成立を阻止しようと立ち上がった市民に対し、銃撃や空爆を含む軍事力を行使しての弾圧や攻撃が続いています。そもそもミャンマーでは「民政化」後も国軍は政府の監督下にはなく、国の監査機関ですら国防予算を監査する権限はありませんでした。そして、その国軍は所有する企業や様々な商取引を通じて経済的な利益を得ていることが指摘されてきており、同国に於ける、これまでの、そしてこれからの援助やビジネスの在り方が大きく問われています。
メコン・ウォッチが取り組んでいる活動
- #ミャンマー軍の資金源を断て
ミャンマー軍を利する援助やビジネスを停止するなど、「ミャンマー軍の資金源を断ち切る」ことで、軍の人権侵害に加担せず、それに少しずつでも打撃を与えるとともに、真の民主化を求めるミャンマー市民と共にあることを「行動」で示すよう官民に求めるキャンペーンです。
メコン・ウォッチが着目しているミャンマーの開発事業
- イェユワ・ダム
イェユワダムはビルマ第二の都市マンダレーから50キロ南東のミンゲ川に建設された、ビルマでも最大級の水力発電ダムです。2001年に現地を訪れた研究者によれば、このダムによって沈む面積はビルマ政権に認識されておらず、影響住民への補償や影響回避策はとられていませんでした。
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イラワディ(イラワジ、エーヤワディ)川ダム開発
ビルマ北部のカチン州で、イラワディ川本流に1か所、支流(マリカ川及びメーカ川)に6か所(計7か所)のダム建設が計画されています。実施機関はビルマ政府及び中国国営の中国電力投資公司(CPIC)で、イラワディ川本流に建設予定のミッソンダム(設置出力3,600メガワット)が生産する電力は中国に輸出される予定です。ミッソンダム建設により47村に住む約1万5,000人が移転対象となっており、当局からの圧力により住民は非常に不利な補償基準に合意しなければなりませんでした。また、766平方キロメートルという巨大な貯水池の出現により、農地や漁場、薬草などの採集場が失われる恐れがあります。
- サルウィン川ダム開発
東南アジアでダムのない川としては最長のサルウィン川では、複数の地点で大型水力発電を行う計画があります。サルウィン川は、交通網としてだけでなく、小規模な農業・漁業を営む周辺住民の生活の場となっており、深刻な影響が懸念されています。また建設予定地すべてが紛争地域にあるため「ダム建設を安全に進めること」を口実に国軍が常駐し、周辺住民の生活に負担をかけることが強く懸念されます。これまでに行われた施工可能性調査の結果や、環境影響評価など基本的な資料は一切公開されておらず、住民に対する事業の説明なども行われていません。
- 石炭火力発電所開発
民政化以降、海外からの投資ラッシュに沸くビルマですが、工業化には安定した電力供給が不可欠とされています。日本の国際協力機構などにより、同国の今後の電力開発のプランが提案されていますが、そこには石炭火力発電所が重要なベース電源として含まれています。また、日本の複数の大手企業が、同国での石炭火力発電所事業に名乗りを上げています。住民や現地NGOは、環境負荷の低い再生可能エネルギーの導入を求め、石炭火力の導入には強い反対の声が上がっています。
- ダウェイ経済特別区(SEZ)開発事業
完成すれば、東南アジア最大の工業地帯になると言われているダウェイ経済特別区(SEZ)。2008年にタイとビルマ両国政府が二国間で協力して進めることを確認し、タイの民間企業が主体となり進められてきましたが、2013年に資金調達の失敗からタイ企業が撤退した後は、開発主体が両国政府の出資する特別目的事業体(SPV)に移りました。その後新たな投資元として、日本からの新規の支援・投資への期待が高まり、2015年7月には日・タイ・ビルマ政府による意図表明覚書(MOI)が結ばれました。同年12月にはJBICによるSPVへの均等出資契約が締結。同事業では20〜36村の約4,384〜7,807世帯(22,000〜43,000人)が直接影響を受けると言われており、また工業団地周辺での負の環境影響も心配されています。実際、タイ企業が工事を開始してから、すでに様々な問題が起きており、今日まで問題解決がなされぬまま、多くの住民が苦しい生活を強いられています。
- ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業
ヤンゴン中心市街地から南東約23kmに位置するティラワ地区約2,400ヘクタール(ha)に、製造業用地域、商業用地域等を総合的に開発する事業。日本の公的資金による各調査が実施され、電力など未整備の周辺インフラは円借款で、経済特別区(SEZ)内は海外投融資制度を活用して民間企業による開発が行なわれています。日本は、パッケージ型インフラ事業として、官民を挙げてこの事業を推進しています。しかし、地域の人々が大規模な移転対象となり、適切な移転・補償措置を求める要望を住民が国際協力機構(JICA)に対して行っていたにも関わらず、早期開発区(約400ha)の移転で実際に様々な被害が発生。2014年6月には住民によるJICAへの異議申立てが起きています。
- 天然ガス関連事業
ミャンマーで生産される天然ガスは8割が海外(2016年時点でタイ75% 、中国25%)に輸出されています。4つの沖合の海洋上にある大規模ガス田(ヤダナ、ゾウティカ、シュエ、イェタグン)から生産される天然ガスは、ミャンマー政府の外貨獲得に大きな役割を担ってきました。つまり、天然ガスの販売益や関連諸税は、2000年ごろから民政化の始まる2011年までの間、ミャンマー軍事政権を支える重要な財源だったのです。クーデター以降、それは再び、国軍の支配を支える資金源となりつつあります。「採掘産業透明性イニシアティブ」の情報によれば、2018年までの一年度でミャンマー政府は、イェタグン事業の所有分の天然ガスの販売から2140億チャット(1億5900万ドル)、さらにロイヤリティからさらに550億チャット(4100万ドル)の収益を得たとされています。
また、タイに天然ガスを運ぶため、1990年代初めにヤダナ・パイプライン、同年代末にイェタグン・パイプラインが建設されました。テナセリム管区(現在のタニンダーリ管区域)ではその際、工事警備のため展開したミャンマー国軍が地域住民に対し、強制労働、略奪、レイプ、即決処刑などの人権侵害を行っていたことがわかっています
。国際協力機構(JICA)の前身である海外技術協力事業団は1963年には、「ビルマ天然ガス資源開発計画調査」実施していました。
- バルーチャウン第2水力発電所
バルーチャウン第2水力発電所(設置出力168メガワット)はビルマ国内電力消費の主要な供給源の1つであり、日本政府の戦後賠償で1960年に第一段階が完工しました。建設時には周辺地域が広範囲に水没し、住民の強制移住が行われました。発電所付近に配備されたビルマ国軍による組織的な強制労働の問題や、都市に延びる送電塔の下に埋設された地雷による住民被害等の問題も長期間、指摘されてきました。しかしなお、日本政府は、1987年に同発電所の改修・更新工事のためビルマに35億円の円借款を供与。さらに2002年には6億2,800万円を限度とする無償資金協力を行うことでビルマ軍政と合意しました。「民政移管」後も、2013年に66億6,900万円限度の無償資金協力を決め、さらなる補修を行なうことになっています。
- ヤンゴン市内都市開発(Y Complex事業)
ミャンマーの最大都市ヤンゴンの一等地である軍事博物館の跡地に、大規模複合不動産を建設・運営する開発事業。事業地はかつて軍事博物館で、環境アセスメント報告書に添付された賃貸借契約書には、この土地をミャンマー国軍が所有していると明記され、事業の賃料が国軍の収入になっているおそれがあります。
上記以外のビルマ(ミャンマー)に関するメールニュース