ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >メコン下流本流ダム>サイヤブリダムをめぐる諸問題(その2)〜ラオス政府は国際公約を守らないつもりなのか?
メコン河開発メールニュース2011年11月17日
メコン河委員会(MRC)が今年6月に開催した「非公式ドナー会合の報告」が一般公開されています。
日本政府を含めたMRCのドナーが参加するこの会合では、ラオス・サイヤブリダムも議題にあがりました。ところが、MRC加盟国で、サイヤブリダムを建設しようとするラオス政府は、「MRCでの協議はすでに完了した」と主張するばかりで(報告第9、23段落。以下、段落番号のみ示す)、協議の終了にはさらなる調査が必要だとするベトナム政府やカンボジア政府の意見(24、25)に耳をかしません。ドイツ政府は「協議が完了したとは考えらない」とし(29)、オーストラリア政府も情報公開の不十分性を指摘する中で(32)、ラオス政府は協議の完了という自国の判断をくり返すばかりです(31)。このやり取りに先立つ4月19日、ラオス政府も参加したMRCの合同委員会で、サイヤブリダムをめぐる決定は年末に開催される閣僚級会合までもちこすことで合意しているだけに、ラオス政府の対応はまったく理解に苦しむところです(4月19日の合同委員会については、4月21日のメールニュースを参照)。
また、同じ非公式ドナー会合の席でラオス政府は、「…他の流域国から十分な理解が得られるまで(サイヤブリダムの)工事は行わない」と明言し(9)、ドナーもこの点を最終声明で確認しています(添付資料15、第5段落)。ところが、一ヶ月後の7月下旬に米国のNGOインターナショナル・リバーズがサイヤブリダム建設現場を訪問したところ、「アクセス道路と作業員宿舎の建設が急ピッチで進んでいること」が確認されました。この点においても、ラオス政府の対応はきわめて無責任です。
以下に日本語訳で紹介するインターナショナル・リバーズの報告では、ダム建設現場の状況を伝えたあと、法律専門家の分析をもとに、「ラオスが周辺諸国に対して、十分な合意に達する機会を与えずに協議を時期尚早のまま一方的に打ち切る行為は、1995年メコン協約をはじめとする国際法に違反する」と指摘しています。
ピエンポーン・ディテート/エイミ・トランデム
インターナショナル・リバーズ
2011年8月27日
ラオス領内のメコン河で計画中のサイヤブリダムの建設現場を訪れた。それによって、ラオス政府が発した建設計画の一時中断の言質にもかかわらず、ダムへのアクセス道路と作業員宿舎の建設が急ピッチで進んでいることが明らかになった。
7月23日に実施したサイヤブリダム現地への視察によって、バーン・タラン(Ban Talan)村付近に本格的な作業員宿舎が建設されていることが分かった。現場には少なくとも数百人の労働者がいた。また、ダム建設現場へのアクセス道路の建設も進んでおり、所有者への補償なしに土地が切り開かれているところもあった。
ラオス政府はサイヤブリダムの建設推進へと一方的に舵を切ったようにみえるが、これは国際法に違反し、1995年のメコン協約の義務を反古にしていることにもなる。このダムを建設することで、ラオスはメコン河流域国としての義務を無視し、生計手段や食糧保全をメコン河に依存している何百万もの流域住民の未来を強奪しているのである。
メコン河下流域4カ国のラオス、ベトナム、カンボジア、タイの代表は、サイヤブリダムに係る流域レベル意思決定手順である、メコン河委員会(MRC)の「告知および事前協議と合意に関する手続き(PNPCA)」の次の段階について協議するためにプノンペンで会合を開催することになっていた。しかし、その会合は説明もないまま無期限延期された。
今後の協議の参考にしてもらうために、インターナショナル・リバーズは、MRCおよび流域各国政府に対して在米法律事務所Perkins Coieによる法律上の意見書を提出した。その意見書によれば、「メコン協約は、メコン河の生態系バランスを脅かし、あるいはメコン河に依存する人びとのニーズに影響するいかなる決定も一方的に下すことを禁じている」。
意見書は結論部を以下のようにまとめている。「ラオス人民民主共和国が、周辺諸国に十分な合意に達する機会を与えず、PNPCA手続きを時期尚早のまま一方的に打ち切る行為は、メコン協約にそむき、ひいては国際法に違反するものである」。
こうした欺瞞は止めるべきである。もしラオス政府がサイヤブリダム計画に関して周辺諸国と協調することに真剣であるのなら、すべての建設活動を停止し、正直かつ誠実に話合いを行うべきである。
今月のはじめに伝えられたところによると、ラオス政府は米国のあるアジア担当高官に、サイヤブリダムの建設は中断されたままの状態であることを確約した。これをヒラリー・クリントン米国国務長官は「前向きの」決定として評価した。これは、6月24日にプノンペンで開催されたMRCドナー非公式会合の席で、周辺国からの追加調査と協議の要請にもかかわらず、ラオスがPNPCA手続きの完了を宣言しようと試みた後のできごとである。
それよりほんの数ヶ月前の4月19日には、メコン河下流域4カ国政府が、サイヤブリダムをめぐる決定を10月あるいは11月に予定される閣僚級会合まで延期すると合意したばかりであった。
サイヤブリダムの工事が徐々に進行する一方で、PNPCA手続きが今後どのように進むのか、MRCが技術的調査(Technical Review)で示した、建設計画について知見の不足している点をどのように補うのかといった課題に対する答えは依然として不明なままである。
サイヤブリダムは、メコン河と流域住民にとって、現在単独では最大の脅威となっている。建設計画は2,100人以上の人びとを強制的に移住させ、20万2,000人以上の人びとの生活に直接的な影響を及ぼす。また、絶滅危惧種のメコン・大ナマズをはじめ、約41種の魚類を絶滅の危機にさらすほか、回遊路が遮断されることで23から100種の回遊魚に悪影響が出る。こうした悪影響は、翻ってメコン河流域に住む何百万の人びとの生計手段や食糧安全を脅かす。
今月はじめに開かれたセミナーでベトナムの専門家たちが報告した調査結果では、全12カ所のメコン河本流ダムが豊かで生産性の高いメコン・デルタに悪影響を及ぼし、年間10億米ドルの損失をベトナムにもたらすことが示された。
インターナショナル・リバーズは、四大陸に職員を配す環境人権団体で、過去20年以上にわたって、河川と河川に依存して生きるコミュニティーの権利を守るために世界規模の闘いの中で活動してきている。
訳注
原文(英語)は、Illegal dam construction on the Mekong must be halted, by Pianporn Deetes & Ame Trandem, International Riversで、タイ英字紙『ネーション』に特別寄稿として掲載された。こちらのサイトで閲覧可能
(文責 メコン・ウォッチ/翻訳 山下政道)