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 メコン下流本流ダム>サイヤブリダムをめぐる諸問題(その3)〜ラオス政府の新調査はダム建設を正当化するだけのもの

メコン河開発メールニュース2011年11月23日

前回に引き続き、メコン河下流本流に計画されているサイヤブリダムについて、ラオス政府の対応の問題点をお知らせします。

各方面からあがる反対や懸念の声に押されて、ラオス政府は、スイス企業Poyry Energy AG社に追加調査を委託しました。ところが、この調査の結論が、これまで指摘されてきた問題点(例えば、国境を越えた環境影響が検証されていない)にきちんとこたえず、ラオス政府のダム建設を正当化するものであったため、ラオス政府に対する非難はかえって高まっています。

調査内容もさることながら、調査報告書はまだ一般に公開されていません。また、今年4月、ラオス政府も参加したメコン河委員会(MRC)の会合で、「サイヤブリダムをめぐる判断は閣僚級会合に持ちこす」と合意したにもかかわらず、ラオス政府は未公開の「Poyry調査」を手に、他の加盟国(タイ、カンボジア、ベトナム)の同意を取り付けようと奔走しています。ダム建設でもっとも影響を受ける地元の住民はまったく蚊帳の外に置かれた状態です。

このようにラオス政府の対応は非常に杜撰ですが、ラオス政府が「アジアのバッテリー」を国是に掲げ、サイヤブリダムを含む水力発電開発にまい進してきたのは、先進工業国や新興国の政府・民間およびアジア開発銀行(ADB)などの開発機関による強力な後押しがあったからです。その意味では、日本の政府や民間も責任を免れません。ラオスが自国民の生活を守るのに必要な環境社会保全政策や制度を整備する前に、外からの力によって大規模ダム建設を優先させてきた点も忘れないでおきたいと思います。

米国のNGOインターナショナルリバーズ(IR)は、非公式に出回っていた「Poyry調査」を分析し、非常に厳しい論調で批判しています。IRの分析は、「Poyry調査」とともにIRのサイトで閲覧可能ですが、以下では報道記事を通して、IRの指摘する問題点の概要を紹介しておきます。

ラオス、メコン河本流ダム建設に反対する隣国に反発

Jonathan Manthorpe jmanthorpe@vancouversun.com
バンクーバーサン(Vancouver Sun)
2011年11月14日

ラオス政府は、隣国政府、国際援助機関、環境保全団体が「壊滅的な打撃をもたらす」と何度も反対や警告を発しているにもかかわらず、メコン河本流に問題のサイヤブリダムを建設する決意をますます固めているようである。

ラオス政府はすでに、カンボジア、タイ、ベトナムと並んで自らも加盟国であるメコン河委員会(MRC)で、4月、「合意に達するまでサイヤブリダムの承認を延期する」と決定したにもかかわらず、サイヤブリダムの基盤工事に着手したことで非難を受けている。

今回、ラオス政府は、建設費35億ドルのサイヤブリダムを再審議する、来月初めのMRC会合に先立って、サイヤブリダムの問題を「エコ粉飾」する詐欺まがいの報告書を委託したとしてふたたび非難されている。

米国カリフォルニア州に本部を置くNGOインターナショナルリバーズは先週発表した文書で、ラオス政府がスイス企業Poyry Energy AG社によって見事にしつらえられた報告書を使って、サイヤブリダム承認を訴えようとしていると批判している。

Poyry社の報告書は、すべての必要な影響評価が完了し、ラオスは承認に必要な協議手続きを終えたとしているが、これは誤った主張であると批判されている。

インターナショナルリバーズはまた、Poyry社がサイヤブリダム建設事業に関係している疑いがあるとも指摘している。

Poyry社は、ラオスの別の事業でタイの建設会社チョーカンチャン社とパートナーの関係にあるが、チョーカンチャン社は、ラオス政府からサイヤブリダムの建設を受注している。

さらにインターナショナルリバーズは、Poyry社の報告書では、サイヤブリダム建設事業がMRCによって設定された何十もの指針や必要項目を遵守していない点を回避あるいは無視していると述べている。

インターナショナルリバーズによれば、Poyry報告はMRCがあげた懸念事項を十分に検討していない。MRC自身によるサイヤブリダム事業の検証では、サイヤブリダムはメコン河の魚類の回遊を妨げ、23から200種の魚類の生存を脅かし、沈殿する養分の流れに悪影響を及ぼし、メコン河の生態系に予測不可能な負担を強いる。

メコン河下流域一帯には6,000万人以上の人びとが住み、そのうち約3分の2の人びとは生計の全体あるいは一部を漁業に依存している。

カンボジアでは、タンパク質摂取の80%をメコン河およびその一部である巨大湖トンレサップ湖で獲れる魚類に依存している。

ところが、MRCの試算では、サイヤブリダムの建設によって、ラオスとカンボジアでタンパク源の30%、すなわち年間最大36万5,000トンの魚類が影響を受ける。サイヤブリダムは、メコン河下流本流域で建設される最初のダムである。

サイヤブリダムがメコン河下流本流域に計画されている12カ所のダムの第1号ということもあり、承認手続きが紛糾している。中国は、自国領内のメコン河上流本流域にすでに数カ所のダムを建設しているが、流域諸国との協議は皆無である。

現在行われている手続きが、他の11カ所のダムの先例となるものと見られている。

事業にかかる資金は膨大である。

ラオスは東南アジアの最貧国のひとつだが、1,260メガワットのサイヤブリダムの電力をタイの東北部に販売する計画である。

もし、メコン河下流本流域の12カ所のダムでラオス領内に計画されている6カ所が完成すれば、ラオスは少なくとも年間25億ドルの収入を得ることができる。

ところが、MRCの委託で行われた環境影響調査では、12カ所のダムがメコン河の漁業や農業に及ぼす影響は、年間5億ドルにも達する見込みである。

中国をはじめとするさまざまな国々がメコン河の支流に建設したダムによって、水流や魚類の回遊が影響を受けた兆候がすでに現れている。

メコン河流域は世界最大の内陸漁場だが、魚類の減少やメコン河とトンレサップ湖との複雑な関係に変化が生じているとの報告がある。この複雑な関係によって、メコン河下流域への恒常的な水の供給とベトナム・デルタ地帯での年間を通じた収穫が保証されているのである。

【注】英語原文は、以下で閲覧可能
http://www.vancouversun.com/Laos+defies+neighbours+objections+construction+Mekong/5706089/story.html#ixzz1eIvbPKCK

(文責・翻訳 メコン・ウォッチ)

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