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メコン下流本流ダム>サイヤブリダムをめぐる諸問題(その4)〜魚類への影響は貧困層の生活を直撃

メコン河開発メールニュース2011年11月29日


着工すれば、歴史上はじめてメコン河下流本流部を遮ることになるラオス・サヤブリダムですが、環境への影響の中でもひときわ懸念されるのがダム建設による魚類の激減です。魚類が経済的貧困層のタンパク源であり、現金収入の基盤でもあるメコン河流域においては、その激減は貧困層の生活を直撃します。
さらに、ダムが上流からの栄養分の流れを遮り、最下流にあるベトナムの穀倉地帯の生産力が低下し、農民たちの生活が大きな打撃を受けます。

サイヤブリダムの建設が、国家の安定を揺るがし、流域国間の紛争にすら発展しかねない理由は、まさにここにあります。

以下では、こうした点を取り上げた英文報道を日本語訳で紹介します。

なお、現在のところ、サイヤブリダムをめぐる判断は、12月7〜9日にカンボジア・シエムリアップで開催されるメコン河委員会(MRC)の会合で下されるものと思われます。

ダムがメコン河の魚類と流域の安全を脅かす

Deutsche Welle
2011年11月14日

流域に住む人びとから「母なる大河」として親しまれるメコン河は、6,000万人の住民に食糧と水と仕事を提供する。

メコン河はチベットの山岳地帯に源流を発し、ビルマ、ラオス、タイ、カンボジアを通ってメコンデルタに達して、最終的にはベトナム沖で南シナ海に注ぎこむ。

インターナショナルリバーズのアビバ・インホフ(Aviva Imhoff)氏は、メコン河が1,000種類以上もの魚類を育み、その中には世界十大淡水魚のいくつかが含まれ、生物多様性においてアマゾン流域についで世界第ニ位であると語る。

「メコン河は、今でもほぼ自然の状態にある世界最後の主要河川の一つです」と、インホフ氏は述べた。「生物種の多様性がほぼ自然の状態で、生態系も全体として保たれています。これまで流域で河の流れをさえぎる遮蔽物がほとんどなかったからです」。

生命のサイクル

メコン河の水位は季節によって上下をくり返し、それによって農家が耕す畑に栄養素を、そして流域住民に食糧をもたらす。この水位の上下変動が、流域を手つかずの状態に保ってきた理由のひとつである。「流域に住む人びとは、雨季に最大15メートルも上昇する水位に適応してきたのです」と語るのは、ワールドフィッシュセンターのエリック・バラン(Eric Baran)氏である。

「住民たちは毎年洪水がやってくることを期待しているのです。洪水は農業と生産性を高め、魚と水をもたらすからです」とバラン氏は述べた。「洪水は、ほんとうは有益な出来事なのです」。

メコン河流域での漁業は世界の漁獲高の約2%を占め、海洋についで最大の漁場となっている。

毎年メコン河流域で獲れる150万トンの魚は、約10億ドルの貨幣価値がある。また、カンボジア魚類機構(Cambodian Fisheries dministration)のソ・ナム(So Nam)副部長によると、住民が摂取するたんぱく源の大半を占める。

高まる負荷

人びとがすでに魚を取りすぎているという兆候もある。

「魚を獲る手間がたいへんになっているのに、明らかに漁獲高が落ち、魚が小さくなっています」と指摘するのは、世界自然保護基金(WWF)の淡水魚専門家マーチン・ガイガー(Martin Geiger)氏である。

急速に増大する流域の人口には環境保全団体も苦慮している。メコン河流域の人口は2025年までに約9,000万人に達するものとみられ、これは15年間で50%の増加である。増加する人口と裕福な生活によってエネルギー需要の高まりも予想され、メコン河本流ダムが投資対象としてますます魅力を帯びてくる。

すでに、メコン河下流本流の11カ所で水力発電所建設が計画されており、ラオス国内だけで計画候補地は7カ所にのぼる。メコン河の中国領内では、現在4カ所の発電所が稼働中である。

ダムは魚類の生息にとって深刻な問題となる。メコン河の魚類の3分の2は産卵のために長距離を回遊し、計画中のダムでは、魚類の多くにとって「魚道」といった緩和策も有用ではない、とガイガー氏は語る。

「ダムによって貴重な魚類の多様性や住民へのタンパク質の供給源が破壊されることになります」と氏は説明する。

影響は貧困層に

タンパク質の供給低下によって、もっとも打撃を受けるのは流域に住む貧困層である。貧困層は養殖魚を手にすることがまずできないからだ。

養殖自体が流域の生態系への深刻な侵入者となる。養殖によって湿地が占拠され、河川は汚染し、病気が広がることも多い。

「過去の調査を見ると、住民がうさぎを飼育するとか、他の生計手段やタンパク源を求めることは難しいのです」とガイガー氏は述べた。「そのためには土地や投資が必要となり、それにもちろん、ノウハウがなくてはいけません」。

止まらない建設計画

ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムで設立したメコン河委員会(MRC)にも、メコン河の資源に脅威が迫っている認識はあり、メコン河開発をめぐる協力関係の醸成に努めている。

11月には下流本流ダムのうち、ラオス政府が実施を悲願としているサイヤブリダムの環境影響に関して、MRCの決定が下される模様である。

ラオス政府がMRCの決定を受け入れる保証はない。MRCは、本流ダム建設によって鉱物や栄養分を多量に含んだ沈殿物が、「ベトナムの米どころ」と呼ばれ、毎年16トンものコメを生産する下流地域に流入しなくなることを恐れている。

ラオスは、水力発電所が流域に及ぼす悪影響は他の電源に比べて少ないと主張している。

ラオスは、最終的にメコン河流域に10カ所のダムを建設し、東南アジアの「バッテリー」になることを目指している。自国のためにエネルギーが必要なわけではない。電力を輸出する目的で、各所で発電する予定の電気の最大95%をタイに販売することで契約を取り交わしている。

カンボジア、タイ、ベトナムから厳しい批判を受けて、ラオスはダム計画の環境影響を再検証することになった。ただし、政治家にしても環境保全団体にしても、発展途上国が開発を無期限で延期するとは思っていない。

「水力発電所をすべて止めさせようとしているのではありません」とガイガー氏は言った。「MRCの見解に準じて、向こう10年間メコン河本流にダムを建設しないでおきたいのです。住民のタンパク源や食物の安全保障に対するほんとうの影響が分かるまでの間です」。

切り札を握る中国

しかし、中国がMRCに参加していないことで、ダム建設の適地を決めることが難しくなっている。中国政府はメコン河流域を開発する重大な計画を持っている。メコン河を浚渫することで商業航行を容易にし、すでに本流に建設された4カ所の水力発電所を拡大する計画がそれである。

オクスファムのケリー・ブルックス(Kelly Brooks)氏は、結局のところ、中国の位置を見れば、中国が切り札を握っていることが分かると言う。

「中国は地理上で戦略的な位置を占めています」とブルックス氏は述べた。「MRC全加盟国の上流に存在することで、中国がメコン河の水流をコントロールできる立場にいるのです」。

国家間機関としてのMRCは、加盟国がメコン河を工業化に利用するか、生態系を保全して活用するか、それぞれの利害を調整する手段を決める役割を担っている。しかし、これは容易なことではない。

「それは、メコン河流域が紛争の歴史を持ち、水面下に、いまだに微妙な課題を数多く抱えているからです」とMRCのヨーン・クリステンセン(JoernKristensen)氏は語った。「この状況をうまく扱わないと、問題に発展しかねません」。

作者:Alexander Freund
編者:Nathan Witkop

【訳注】英語原文は、以下のサイトで閲覧可能
http://www.dw-world.de/dw/article/0,,15489589,00.html

(文責・翻訳 メコン・ウォッチ)

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