ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >メコン下流本流ダム>サイヤブリダムをめぐる諸問題(その5)〜流域住民ネットワークがタイ環境大臣に懸念を表明
メコン河開発メールニュース2011年11月30日
昨日(11月29日)、タイの住民組織であるメコン河流域8県住民ネットワークが、12月7日に始まるメコン河委員会(MRC)評議会に出席するタイ政府・環境自然資源省大臣に対して、サイヤブリダムについて慎重に協議する旨要請する書簡を提出しました。実際にメコン河流域で生活する人びとの声として、以下に日本語訳(原文タイ語)を紹介します。
この書簡では、メコン河流域の住民がすでに中国領内に建設された上流ダムによって被害を受けている点を指摘し、サイヤブリダムによる回遊魚、河岸農業、流域生態系への打撃に対する懸念から、環境自然資源大臣にMRC評議会で加盟国に慎重な協議を呼びかけるよう要請しています。
また、サイヤブリダムはタイ政府および民間企業が強く推進していることから、環境自然資源大臣がMRC評議会で加盟国間の協力に基づいた判断を下すよう努め、定められた手続きが完了するタイ・ラオス間での売電契約に署名しないよう求めています。
メコン河流域8県住民ネットワークは、今年4月にもラオス政府に対して、サイヤブリダム建設計画の中止を要請する書簡を発出しています(要請の日本語訳はこちらを参照)。
メコン河委員会(MRC)評議会委員、環境自然資源大臣閣下
件名:メコン河委員会評議会とサイヤブリダムに関する懸念
私たちはこれまで、チェンライ、ルーイ、ノンカイ、ブンカン、ナコンパノム、ムクダハン、アムナートチャルーン、ウボンラチャタニ各県の代表で構成するメコン河流域8県住民ネットワークの名の下に、ラオス人民民主共和国内のメコン河で計画中のサイヤブリダム建設事業の状況を注視してまいりました。
メコン河流域8県の住民の多くは、サイヤブリダム建設計画について十分に知識を得られるほど情報が公開されておらず、一方で計画が急速に進展するため、とりわけ将来的に発生する被害の問題について不安を感じております。
メコン河流域の住民は、これまで何年にもわたって、メコン河を遮った中国領内の4カ所のダム建設の影響を体験してきました。これらのダムはサイヤブリダムより遠方にあるにもかかわらず、下流域の住民に明白な被害を及ぼしてきました。もしサイヤブリダムが完成すれば、ラオス、カンボジア、ベトナム、タイの姉妹兄弟たち、そして支流に住む人びとと、さらに多くのメコン河流域住民が打撃を受けるものと思っております。
サイヤブリダムが建設された場合、発生が予想される被害で重要なものとして、大ナマズをはじめとする魚類の回遊路が遮断されること、流域全体の生態系が破壊されること、河岸農業のための土地が喪失することなどがあり、総じて、農業・社会・文化などの面での影響に発展し、メコン河流域に住む人びとの生活を直撃することになります。
ラオス人民民主共和国内に建設されるとはいえ、サイヤブリダム建設計画にはタイが直接的に関与しています。というのも、タイのチョーカンチャーン社が計画を進め、タイの銀行4行から資金援助を受け、また電力の大半を購入するのがタイ発電公社だからです。
私たちは、メコン河委員会(MRC)の通知・事前協議・同意手続き(PNPCA)に関して強い懸念を表明いたします。サイヤブリダム建設計画は、加盟4カ国から承認を得ていません。また、仏歴2538(西暦1995)年のメコン河協定にしたがえば、河川資源に関する決定は、協力に重点を置いた上でなされるべきです。
タイ・カンボジア・ベトナムは今年4月19日のメコン河委員会合同委員会特別会合で、サイヤブリダムについて、承認前に追加の調査と協議が必要であるとの懸念を表明し、「事業がもたらす効果に関して評価・協議する十分な機会」がもたれていないとしていることから、PNPCA手続きはいまだ完了していないと見なすのが当然です。
そこで私たちは、メコン河委員会評議会委員である大臣閣下に、加盟国に対して、国際法とPNPCAにのっとり、仏歴2538(西暦1995)年のメコン協定にしたがって手続きを行い、サイヤブリダムの現状についてはなんら結論が出ていないと見なすべきだと主張していただきたく、ここに要請いたします。
仏歴2554(西暦2011)年12月7日から9日、カンボジアで開催されるメコン河委員会評議会でサイヤブリダムに関する協議が行われることに先立ち、大臣閣下が、4月19日のタイ政府による、「PNPCA手続きが不十分で、市民社会の懸念を慎重に検討すべきである」との表明の立場に基づいたお考えを堅持するよう、ここに要請いたします。
また、私たちは、メコン河委員会評議会タイ代表のお立場として、大臣閣下が、タイ発電公社と開発業者であるチョーカンチャーン社による国家間電力売買契約について、メコン河協定にしたがった手続きが十分なものとして完了し、日々の生活でメコン河の資源に依存している住民をはじめとする関係者の意思決定参加が実現するまで、署名を見送るよう要請いたします。
本件について、早急な検証と対応をお願いいたします。
敬具
仏歴2554(西暦2011)11月29日
メコン流域8県民衆ネットワーク
事務局所在地:〒43000ノンカイ県ムアン郡プラチャク通り
ノンカイ県ムアン郡事務所(旧館)
(文責・翻訳 メコン・ウォッチ)