ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > カンボジア・セサン下流2>住民組織3SPN、ダム建設の中止を求める
メコン河開発メールニュース2012年7月5日
こちらも少し前になりますが、2012年3月30日、カンボジア北東部ラタナキリ州で活動する現地住民組織ネットワーク「セサン・スレポック・セ コン川保全ネットワーク(3SPN)」は、カンボジア政府とベトナム政府へ宛て、セサン下流2ダム建設の中止を求めるプレスリリースを発行しています。
セサン下流2ダムは、カンボジア北東部ストゥントレン州に建設が予定され、川沿いの住民約5,000人が移転を余儀なくされます。また、メコン河 最大の支流であるセサン川のダム開発は、セコン川のみならずメコン河全体の生態系に取り返しのつかない悪影響を与えると懸念されています。
これまでお伝えしてきたとおり、カンボジアのセサン川流域に暮らす人びとは、上流ベトナム領域のダム開発により、洪水や水質悪化、漁獲量の減少などの被害を受けてきました。セサン下流2ダムの建設が進めば、これまで以上の被害が起こるとして、ダム建設に反対の声を上げています。
以下にプレスリリースの内容を翻訳でご紹介します。
2012年3月30日
セサン・スレポック・セコン川保全ネットワーク
[カンボジア ラタナキリ州] セサン・スレポック・セコン川保全ネットワーク(3SPN)は、1996年にセサン川を襲った大規模洪水を受け、2001年
10月に設立された。1996年の大洪水は、セサン川流域に住む少数民族に深刻な影響を与え、村人たちは伝統的な儀式を執り行い祈りをささげた。
しかし、儀式を行ったにもかかわらず、洪水は人びとの生活を脅かし続けた。数年後、セサン川流域に住む人びとは、洪水は川の上流のベトナムに建設されているヤリ滝ダムによるものだと知った。
ラタナキリ州Oyado郡セサンコミューンPhe村のVonさんは「私たちはカンボジア政府とベトナム政府に将来への影響を考慮し、セサン下流2ダム 建設を中止することを求めた。なぜなら、このプロジェクトは地元の人びとに大きな影響を与え、生活や権利、漁業に大きな悪影響を与えるからだ」と発言した。「もしダムが建設されるのなら、政府や企業は全ての過程においてコミュニティの参加を考慮しなければならない。」
メコン河は、アマゾン河についで、魚類の多様性では世界2位の河である。メコン河流域では、河口に生息する種を除いても約877種の魚が観測されている。セサン川は漁業、水、栄養循環の観点から非常に重要なメコン河の支流である。
水力発電ダムによる洪水は、森に浸水し炭素を固定している樹木を破壊する。また、水位の変動も引き起こし、漁業機会の減少にもつながる。洪水により観光地化することもできない。ダムの建設は、特に自然資源に頼る生活をしている流域の人々の経済活動にダメージを与える。
400メガワット級のセサン下流2水力発電ダムは、ストゥントレン州に建設される計画で、ベトナム電力グループ(EVN、ベトナム企業)とカンボジアロイヤルグループ(カンボジア企業)が請け負っている。
セサン下流2ダムにより、ストゥントレン州、ラタナキリ州およびモンドルキリ州に住む5,000人が移住を迫られ、100,000人以上が生活に影響を 受ける。カンボジアのトレンサップ湖、メコン河支流域、そしてベトナムやラオス、タイなどのメコン河支流域に住む何万人もの人々が、漁獲量の減少など様々な深刻な影響を受ける。
(アメリカの)科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences: PNAS)のレポートによると、セサン下流2ダムが建設されれば、メコン河流域に生息する魚種の9.3%が減少する。これは、年間約8億米ドルの漁業収入の損失を意味し、8億1600万米ドルと言われるダムの建設費用とほぼ同額である。メコン河委員会による調査によると、メコン流域の漁業価値は、約56億−94億米ドルである。セサン下流2ダム建設によって漁業で生計を立てている貧困層の家計に毎年5.2億米ドルから8.74億米ドルの損失をもたらす。
問合せ先
3S川保全ネットワークコーディネーター Meach Mean
http://www.3spn.org/
PNASレポート
http://www.pnas.org/content/early/2012/03/09/1201423109.short
(文責・翻訳 高橋布美子/メコン・ウォッチ)