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メコン下流本流ダム>ラオス政府の対応に対して、流域国政府・市民から批判の声 

メコン河開発メールニュース2012年7月9日

もし建設されれば、史上はじめてメコン河本流下流域をさえぎることになるラオス・サイヤブリダムをめぐって、ふたたび動きが出てきました。

このダム計画については、流域全体の漁業や農業に壊滅的な打撃を与える懸念から、ベトナム、カンボジア両政府も、計画を推進するラオス政府に対してはっきりと反対を表明しています。ラオス政府は、欧米の企業に独自調査を委託するなどして、計画反対の動きを鎮静化しようと努めていますが、調査がお粗末であったり、内容が十分に公開されず、かえって各方面の反発を生む結果を招いています。そもそもラオス政府の対応は、流域各国政府や市民社会との合意形成の手続きに則っていません。

以下の記事では、ラオス政府があらたな調査に基づいて、サイヤブリダムの設計変更を検討していると報じています。ラオス政府の高官は、「設計を変更すれば環境への影響はなくなる」と断じていますが、根拠に乏しく、反対派の理解を得られるものではありません。

こうしたラオス政府の対応に対して、タイの環境保全団体のメンバーは、高官の発言を裏付けるためにも調査の完全公開を求めつつ、「あらゆる関係者がサイヤブリダム事業の経済的価値の有無を判断するためには、総合的な評価が必要である」と指摘しています。

サイヤブリダムの設計変更を検討

RFA
2012年5月16日

メコン河本流で計画中のダムに関するフランス企業の新調査では、環境影響はないと予測されたとラオス政府の高官が語った。

近隣国政府や環境保全団体による反対の声が渦巻く中で、メコン河に建設予定のサイヤブリダムは、環境への悪影響を避けるために設計を変更することになるかもしれないとラオス政府の高官がフランス企業の新調査を引用しながら語った。

ウィラポン・ウィラウォン(Viraponh Viravong)エネルギー鉱業省副大臣は、ラオス政府がサイヤブリダムの環境評価の実施を委託したフランス企業から調査結果を受け取ったと述べた。従来の調査では、サイヤブリダムはメコン河流域の環境に甚大な影響を及ぼし、食糧の安全保障を脅かしかねないとしていた。

先ごろ、ウィラウォン副大臣は、「この調査は…ラオス政府が設計を変更すれば、環境への影響はなくなることを裏付けている」と語った。

設計変更によって、川に依る農業を営む下流域国の人びとの間で大きな懸念となっている堆積物については、ダムを超えてより大量に流れ出るようになると副大臣は述べた。

メコン河は中国を源流とし、ビルマ、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを貫流している。堆積物が、米をはじめとする作物栽培に必要な豊かな土壌栄養分をもたらしている。

環境保全団体は、サイヤブリダムが魚類の回遊や下流域への堆積物の流れを遮断し、生計や食料をメコン河の生態系に依存している東南アジアの何百万人という人びとに影響を及ぼすとして、この事業に反対している。

ウィラウォン副大臣は、メコン河の開発を管理する政府間機関であるメコン河委員会(MRC)が追加調査を求めたため、ラオス政府がフランスのコンサルティング会社に調査を委託することになったと述べた。

「まず、スイス企業のPoyry社に依頼して影響調査を実施したが、これに納得しない人びとがいたため、今度はフランス企業を雇った」と副大臣は語った。 副大臣は、企業名および調査時期を明かさなかった。

2011年12月、ラオスおよび他のMRC加盟国−カンボジア、タイ、ベトナム−は、日本が行うことになっている新規の環境影響評価の結果が出るまで、ダム建設を見合わせることで合意した。

この決定は、サイヤブリダムがMRCの条件を満たしているかを調査するため、2011年5月にラオス政府が委託したPoyry Energy AG社の報告書が出た後になされたものである。

Poyry社は8月に提出した最終報告書で、サイヤブリダム事業はMRCの要件を「原則として遵守している」と結論付けたが、各国の環境保全団体は調査に欠陥があるとして反論した。

世界規模で河川の生態系の問題に取り組むNGO、インターナショナルリバーズ(IR)は、報告書に「多くの矛盾や科学的不備」があり、ラオス政府はこの報告書を「偽りの正当化」として利用し、MRCのダムに対する懸念に応えたことにしようとしていると指摘した。

また、報告書では、Poyry社自身が、ダムを建設する前に40を超える追加的調査を行うよう提案している。

専門家グループが先に行った調査では、環境・社会経済面で壊滅的な影響を引き起こす可能性について追加調査の必要があることから、すべてのメコン河本流ダム事業を10年間凍結するよう勧告している。

「知りたいこと」
サイヤブリダム建設計画に資金を提供しているタイでは、環境専門家が、フランス企業の新調査について、信頼性を判断するにはさらに情報が必要であると述べた。

「ラオス政府はフランス企業の報告書、さらには、調査がどのように行われたか(に関する情報)を公開すべきだ」と、バンコクに拠点を置くNGO、Towards Ecological Recovery and Regional Allianceのモントリー・チャンタウォン(Montree Chantavong)水力発電所問題担当はRFAに対して語った。

「私たちは、ラオス政府の大臣が言っている通りなのかを知りたいのだ」とチャンタウォン担当は述べた。

チャンタウォン担当は、あらゆる関係者がサイヤブリダム事業の経済的価値の有無を判断するためには、総合的な評価が必要であると指摘する。

タイの建設会社、チョー・カンチャーン(Ch. Karnchang)社は、ダム建設のための初期工事をすでに始めている。

4月、同社は、MRCが追加調査を待つよう呼びかけたにもかかわらず、3月にダムの建設を開始する契約に署名したと発表した。

現地紙『バンコクポスト』によると、ダム周辺で3,000人を超える住民が事業のために移転させられたということである。

サイヤブリダム反対派は、計画が流域全体の合意形成なしに進んだ場合、メコン河でさらに多くのダム建設への道を開くことになり、MRCでの協議手続きが形骸化してしまうことを恐れている。

メコン河本流下流域では、サイヤブリダム以外に少なくとも11か所でダム建設計画が持ち上がっており、中国領土内のメコン河上流部でも、すでに5か所でダムが建設されている。

11か所のダムのうち6か所は、東南アジアの「バッテリー」となる望みを公言しているラオス国内に計画されている。また、ラオス国内で計画中の70か所のダムの大半はメコン河の支流に位置し、これらについてはMRCでの合意形成の管轄外である。

ベトナムの反対
サイヤブリダムが発電する電力の95%を購入するタイでは、メコン河流域で暮らす住民たちがダム計画への抗議活動を始めている。

先週、ベトナムの科学者たちも計画反対の声に加わり、グエン・タン・ズン(Nguyen Tan Dung)ベトナム首相とベトナム国家メコン委員会に対して、ラオス政府に正式に抗議をするよう要請した。

「サイヤブリダム建設の再開を容認することはできない」と、ベトナム河川ネットワークの科学者たちがズン首相宛の共同書簡で述べたことを現地紙『タン・ニエン/青年(Thanh Nien)』が報じている。

同紙によると、科学者たちは、サイヤブリダムがメコン河のデルタ地域に暮らす約2千万人の人びとの生計を直接的に脅かすばかりか、ベトナム国内や流域全体の食糧の安全確保をも危うくすると主張している。

4月下旬には、別のベトナム人科学者グループであるVietnam Union of Science and Technology Association(VUSTA)が会合の場でサイヤブリダムに対する懸念を表明し、流域の食糧安全保障と下流域、とりわけベトナムの稲作の中心であるデルタ地帯で暮らす何百万人もの人びとの生活が脅かされると述べた。

カンボジア政府は、すでにラオス政府に対して、サイヤブリダム事業に関する正式な抗議を行っており、4月には、MRCのラオス代表に対して建設を進めないよう書簡で要求している。

カンボジア政府の書簡は、この件でラオス政府を国際司法裁判所に訴えるとの警告に次ぐ動きであった。

(文責 メコン・ウォッチ/翻訳 神崎尚美)

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