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メコン河開発メールニュース2013年3月11日
日本が官民を挙げて進めているビルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業ですが、地元住民が大規模な移転に対する懸念の声を上げています。民政移管後のビルマでは、こうした強制的な土地収用を巡り、各地で農民の抗議運動が起きていますが、なかには、当局との暴力的な衝突につながったケースもあります。ティラワでも一つ舵取りを誤れば、立ち退きを巡って不測の事態に陥る可能性がないとは言えません。今回は、日本政府のこれまでの認識や対応における問題点をまとめました。
ティラワSEZ開発事業について、日本政府は当初、「特に大規模な移転問題は起こらない」との認識を示してきました(2012 年4月27日開催、開発協力適正会議 第4回(臨時会合))。ティラワSEZ関連インフラ整備事業の事前調査を行なっている国際協力機構(JICA)も、「環境への望ましくない影響は重大でない」と判断し、JICA環境社会配慮ガイドライン(以下、環境ガイドライン)に基づくカテゴリ分類を「B」としてきました。その結果、カテゴリAに分類された事業に必須となる「環境影響報告書」や「住民移転計画」等の提出をビルマ政府側に求めてきませんでした。
これに対しメコン・ウォッチは、昨年9月に行なったJICAとの会合のなかで、SEZ予定地内に広がる水田で農業を営む農民、また、近くの内湾河川で漁業を営む漁民への影響の可能性を指摘し、環境ガイドラインに基づくカテゴリ分類を「A」に変更する必要性を指摘してきました。また、1月31日にビルマ政府当局がティラワSEZ予定地内の住民約900世帯に14日以内の立ち退き通知を出した後の2月8日、日本政府に緊急要請書を提出し、強制移転が起こらないよう、早急に日本政府からビルマ政府側に申し入れを行なうよう要請するとともに、あらためて、SEZ関連インフラ整備事業に関し、「大規模な非自発的住民移転」を伴うSEZ開発事業と「不可分一体の事業」であることから、カテゴリ分類を「A」に変更するよう要請しました
(緊急要請書はこちらのサイトで閲覧可能)
しかし、大規模な移転を伴うことが明らかになった現在も、日本政府は、「移転は民間が開発を行なうティラワSEZ予定地内で起こるもので、ODA(円借款)で支援する予定の周辺インフラ事業とは無関係である」、つまり、「不可分一体の事業ではない」とし、環境ガイドラインに基づくカテゴリ分類の変更は「必要ない」との見解を示しています(2013 年2月26日開催、第8回開発協力適正会議)。
ビルマ政府当局は、2月14日に地元で行なった説明会のなかで、14日以内の立ち退き通告を「延期」する旨を住民に伝えたものの、依然として住民を「不法占拠者」扱いし、適切な補償措置に関する協議は一切行なっていません。このまま有効な移転・補償対策がとられずに事業が進めば、多くの住民が、居住地を確保できないまま、生計手段も喪失し、短期間で非常に危機的かつ深刻な困窮状況に陥ることが懸念されます。
ビルマ政府当局側にのみ対応を任せるのではなく、日緬政府が締結した「ティラワ経済特別区開発のための協力覚書」(2012年12月21日)に明記されているとおり、「国際的な環境基準に沿うべきであることを認識」し、日本政府としてもより積極的な対応をとっていくことが求められています。
※関連情報:緊急セミナー
ビルマ(ミャンマー)日本支援案件・ティラワ経済特別区開発で今、何が生じているのか?
2013年3月26日 (火)18:00〜19:45 参議院議員会館B104
http://www.mekongwatch.org/events/lecture01/20130326.html
(文責 メコン・ウォッチ)