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メコン河開発メールニュース2013年7月16日
日本が官民を挙げて進めているビルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業では、今年1月末、その開発地域2,400ヘクタールで暮らす約900世帯(約3,800人超)の住民に「14日以内の立ち退き通知」が出されるなど、大規模な住民移転が問題となってきました。
この数ヶ月間、住民グループ等が日緬政府にレターを幾度となく提出し、適切な移転・補償対策を求めてきた結果、6月11日にビルマ政府当局が現地での住民協議を開催。同協議会ではまず、2013年9月の着工を目指す同SEZ早期開発地域(約400ヘクタール)についてのみ、ヤンゴン管区政府が住民移転計画の策定手続き(調査)に入ること、また、この7月に同住民移転計画の概要を発表することが説明されました。
こうした状況を受け、7月5日、ティラワSEZ予定地域の住民グループは、ティラワSEZマネージメント委員会宛てに提言を提出。同提言のなかで、住民グループは、
・協議を円滑に進めるための独立した仲裁者の設置
・移転・補償対策の策定プロセスにおける透明性と住民参加
・国際水準に則った移転・補償内容
等を求めています。
今後、同ティラワ地域では、今回の早期開発地域(約400ヘクタール)を皮切りに、住民移転が段階的に行なわれていくことになります。現在、ヤンゴン管区政府が進めている住民移転計画の策定・実施がどのように行なわれるか――今後の移転・補償対策の内容を左右することも予想されるため、適切なプロセスが確保されるよう、注視が必要です。
以下、住民グループの提言(原文ビルマ語)を日本語訳でご紹介します。
※メコン・ウォッチが同問題に関し、外務省・JICAに提出した意見書はこちら
http://www.mekongwatch.org/resource/documents/pr_20130711.html
ティラワ経済特別区(SEZ)マネージメント委員会
セッアウン委員長 殿
2013年7月5日
題目:委員長への特別提言
参照:2013年6月11日に手交した「ティラワ経済特別区内の農民および現地住民の意見・見解に関する9項目の宣言書」
1.私たちは、参照として言及した宣言書への対応を待っています。
2.セッアウン(国家計画・経済開発省)副大臣(ティラワ経済特別区マネージメント委員会 委員長)とティラワ経済特別区内に居住する住民の代表らは、両者とも、同宣言書の第6項にある包括的な合意ができるよう願っていると理解しています。
3.私たちは、準備のための時間がそれほど残されていないことから、この9月に円滑に事業が着工されるよう企図し、この書簡を提出します。早急に共同で準備作業に着手する必要性があります。
4.この必要性に加え、9項目の宣言書を提出した現地住民は、事業が首尾よく実施されるよう協力したく、以下のとおり、提言を提出します。
(a)宣言書の第6項にあげた包括的な合意について、緊急に全般的な項目のリストをまとめ、交渉を開始する必要があります。
(b)交渉プロセスを円滑かつ実り多いものにするため、(両者が信頼する)独立した仲裁者を緊急に設置する必要があります。この仲裁者は、議論の場での議長として機能することができます。(宣言書の第8項参照)
(c)初めに、事業地(650エーカー)内で農地を利用している農民(畑地利用者は含まれず)に関するデータがまとめられましたが、現地住民は同データの内容について、ぜひ知りたいと思っています。透明性の向上への第一歩として、同データの写しが農民を代表するグループに共有されれば、疑いなく、多大な協力を得られるでしょう。また、現地住民に対し、事業の目的や予測される影響についての説明がなされるよう合意がなされれば、協力関係はより生産的なものになりさえするでしょう。
(d)まず優先的に配慮すべきことは、移転の問題です。(宣言書の第1項参照)
(e)補償、補償算定の基準根拠、補償を受領する資格のある対象住民リストについては、徹底的に議論がなされる必要のある論点です。したがって、早急にそうした議論が始められるべきです。
(f)補償の関連事項についての議論に農民を代表するグループが参加することは、最も必要とされていることです。彼らの意思決定プロセスへの参加について、可能な限り早急な合意がなされることを提言します。(宣言書の第4項参照)
(g)同プロセスのなかで、(農民を代表する)グループがどのような役割を果たそうとも、補償が受け入れられないようなものの場合には、受け入れ可能な補償となるよう、協議のプロセスが繰り返し行なわれるべきです。
(h)二者間の協力のみでなく、「(金銭)補償以外の手段」に関する内容について明確にしていくことも必要です。したがって、同点についても早急に検討を開始すべきです。(宣言書の第2項参照)
(i)国際水準に則った補償というのは、歓迎すべき文言ですが、国際水準が何を意味するかを現地住民が理解し、解釈することがより重要です。生計手段の変化に伴い生じる損失が配慮されるのか否か、また、現地住民が新しい生計手段を創出したり、新しい雇用機会を待ったりする間の暫定的な支援が提供されるのかといった質問へ回答するのは、時間のかかるプロセスです。これらの問題に対する明確な姿勢を公表し、物事を始めるべきです。(宣言書の第3項参照)
(j)経済特別区に転換される土地を利用する現地住民は、「収入機会」への配慮を特別に享受する権利を与えられなくてはなりません。そうすることによってのみ、以前の生活水準より劣らない生活水準への転換が可能になるでしょう。生活水準は、新しい生計手段の技術習得の機会と結びついているので、生活水準が同水準になることは保障されているものではありません。したがって、こうして点についても、あらゆる関係者が可能な限り早急に着手する必要があります。(宣言書の第2項参照)
(k)9項目の宣言書で言及されているとおり、協力関係を強化していくため、第6項で述べた包括的な合意をしていく必要性があります。また、事業開始に向け、第7項で述べた意見について認識することも重要です。
したがって、私たちは真摯にかつ謹んで、上記の提言を提出します。
「ティラワ経済特別区の現地住民との協力は、国内の他の経済特区のみではなく、世界の模範となるべきです。」
2013年7月4日に開催された現地住民・農民の共同会合における決定事項への署名
一致しない言動:セッアウン副大臣は、2013年6月11日に住宅省事務所で開催された協議会の間、第1期事業地(650エーカー)内のデータをまとめるプロセスに協力するよう、繰り返し、現地住民・農民を代表するグループに促しました。しかし、同グループは連絡も招待もされなかったため、2013年6月18日から22日に行われた調査チームに参加できませんでした。こうした状況から、第1期事業地(650エーカー)外の21世帯がデータ収集に含まれていることを私たちは確認しています。
(以下、現地住民リーダー15名の氏名や連絡先、署名等。また、同レターの写しの発送先。日本への写しの発送先は、岸田 外務大臣、田中 国際協力機構(JICA)理事長)
<参考資料>
ティラワ経済特別区内の農民および現地住民の意見・見解に関する宣言書
1.移転計画に関して、透明性を保った形で公表すること
2.金銭補償は持続可能な解決策ではない。国際水準に沿った権利と資格に配慮すること
3.国際水準については、国際労働機関(ILO)の設定する水準以下でないことを保障し、連携がとられた形で作業が進められること
4.連携がとられた意思決定プロセスのあらゆる段階で、現地住民・農民を代表するグループの参加を認めること
5.補償の関連事項のみでなく、その他あらゆる解決策の取り決めに関しても、現地住民・農民を代表するグループと連携すること
6.事業地域内に居住する現地住民の代表と政府との間で、包括的な合意への署名がなされること
7.第6項で言及した包括的な合意への署名後にのみ、事業を開始すること
8.第6項で言及した事業地域内の現地住民の代表と政府との間での包括的な合意への署名のため、監視や調整の役割を果たす、(両者が信頼する)独立した仲裁者が擁立されなくてはならない。その役割や責任については明確化し、認識化を図ること
9.事業実施段階において、現地住民の参加と協力を認めること
※同事業の詳細は、こちらでご覧ください。
http://www.mekongwatch.org/report/burma/thilawa.html
(文責/翻訳 メコン・ウォッチ)