ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >原発輸出 > ベトナムの予定地の暮らし(3)自立した農家の行く先は
メコン河開発メールニュース2013年8月2日
州都ファンラン市を抜け、海沿いに建設予定地タイアン村に向かう道は一面に塩田と畑が広がっています。炎天下、海水から塩を作る作業が行われていました。
塩田の様子
畑の様子も独特です。砂地のため、水の管理を考えてのことでしょう。畑は、小さな四角に区切られています。海がすぐ目の前ですが、あちらこちらで井戸が掘られています。真水を得ることや、畑の水管理に独特の知見を持っていることが想像できますが、詳しいことは聞けませんでした。
畑(左) 井戸(中央) 井戸から畑に水の流れる水路(右)
そのすぐ近くにあったブドウ園で、通訳を介して農家の方にお話を伺いました。ここはもう移転対象だといいます。
Hさんは、突然押しかけた私たちに、嫌な顔一つせず、淡々と答えてくれました。彼は夫婦と子供3名の暮らしを、弟と共同で経営する6000ヘクタールのブドウ農園で支えています。家の庭先には、パパイヤなどの果樹も植わっています。その周りは一面のブドウ園です。水は、自分で山から水を引いていて生活用水とし、飲み水だけを購入しているそうです。
ハノイでも人気があるというブドウ(左) 庭先のパパイヤ(右)
「ブドウ園を始めたのは17年前。ブドウの木の寿命は7−8年です。今はブドウだけを作っています。この土地は自分で一から開拓したものです。ブドウ園だけで十分生活できるし、貯金も出来ています。」
現地での言論統制がどの程度なのか分からないため、遠慮がちに移転について聞くと、彼はあっけらかんとした様子で答えてくれました。
「ここから5km離れたところに移転します。行った先ではどんな仕事をするかわかりません。移転先では(適地がないので)農地がなくなりますから。家は10−20億ドン(470万−940万円)程度補償をもらえれば構わないですよ、農地はないけれどね。国が面倒を見てくれるだろうから、何もしなくても暮らせるでしょう。」
諦めているのか、皮肉なのか、それとも本当にそうだと信じているのか分からない淡々とした調子に圧倒されたものの、「(ここの暮らしと彼が築いたものが)もったいないですね」と言ってみた。
彼は、「国が事業をするのだから、仕方ないです」と繰り返しました。
ベトナム政府は、日本の原発を採用するに当たり、日本からの低利の融資を期待していると報道されていますが、資金の提供元として可能性があるのが、国際協力銀行(JBIC)です。しかし、JBICなどの日本のODAを担う政府機関は、過去の反省から、資金提供が相手国の環境や対象社会を破壊しないよう、環境・社会配慮ガイドラインを定めています。
http://www.jbic.go.jp/ja//about/environment/guideline/confirm/index.html
例えばJBICのガイドラインでは、プロジェクト計画の代替案を検討できる早期の段階から、広く情報が公開された上で、地域住民などの利害関係者(ステークホルダー)との十分な協議が行われ、その結果がプロジェクト内容に反映されていることが求められています。しかし、原発輸出は初めから原発建設ありきで、このガイドラインに抵触する恐れがあります。
国際環境NGO FoE Japanの2011年の現地調査では、建設予定地付近の国立公園への影響も指摘されています。
http://hinan-kenri.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/post-4b54.html
この点でもガイドラインが、「重要な自然生息地や森林の著しい転換または著しい劣化を伴うものであってはならない」と定められているため、重大な違反となる恐れがあります。もし政治的理由で原発輸出がJBICの融資で行われることになれば、JBICは今までの自助努力を放棄することとなります。また、JBICには原発特有のリスク(事故や核の拡散)についての審査能力がない点も、大きな問題です。
メコン・ウォッチでは、「原子力資機材の輸出及び公的信用の付与に際して 独立した審査プロセスの確立を求める緊急声明」を2012年3月8日に発出しています。
http://www.mekongwatch.org/resource/documents/rq_20120312.html
引き続き、市民が監視をしていくことが求められます。
(文責 メコン・ウォッチ)