ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ドンサホンダム>日本政府はラオス政府に流域諸国との協議を呼びかけるべきだ
メコン河開発メールニュース2013年11月15日
ラオス政府は、市民社会だけでなく、ベトナム政府やカンボジア政府の反対意見も聞き入れず、メコン河本流ダムの建設を強行しています。北部ではサイヤブリダムの工事を進め、今月中には、カンボジア国境に近いドンサホンダムの建設を始めようとしています。
もっとも大きな問題は、メコン河流域に住む何千万人もの人びとの食糧安全保障を脅かすリスクの高いダム計画について、推進側の調査や分析のみに基づいて「影響は軽微、緩和が可能」と決めつけ、さまざまな角度からの知見や利害を総合した協議にすら応じようとしないラオス政府の姿勢です。
ラオス政府は、昨年12月15日に起こった社会活動家ソムバット・ソムポーン氏の誘拐事件の真相究明を求める国際社会の声に対しても誠意のある対応を見せていません(この件については、以下のサイトをご覧下さい。http://www.mekongwatch.org/resource/news/20130904_01.html) そのため、国内でも、脅迫や弾圧をおそれて、市民やNGOが、政府の開発政策や事業に関して自由な話合いや意見表明を行えない空気が広がっています。
発電量がたった260MW、しかも、マレーシアの一民間企業に利益をもたらすためのドンサホンダムをこれほどまで強行に建設することで、ラオス政府にいったいどのような利益があるのでしょうか? 自国民と流域住民の未来を脅かし、近隣諸国や国際社会の意見に耳をかさない国家になっていくのでしょうか?
おりしも、安倍総理は、今月17日、ラオスを訪問します。ラオスの国造りを支える友好・援助国として、日本政府は、ラオス政府の首脳たちに、本流ダム建設計画について、流域諸国政府と十分に協議するよう政治的決断を呼びかけるべきであると思います。
以下では、ドンサホンダム建設予定地の最近の様子を伝えるRadio Free Asiaの記事を日本語訳で紹介します。
2013年11月14日
Rachel Vandenbrink
Radio Free Asia(RFA)
(昨日11月14日)木曜日、「ラオス南部・メコン河のドンサホンダム建設予定地近辺に住む村民たちに禁漁の命令を下した」と、ラオス政府高官が語った。ラオス政府は、先に、論争となっているドンサホンダムの建設日程を確定している。
カンボジア国境から上流へ約2キロ(1.6マイル)、メコン河が分流する「シーパンドン」と呼ばれる地域に位置するドンサホンダム(260メガワット)建設予定地には、「禁漁」の看板が掲げられた。
9月、ラオス政府は、メコン河開発を監督する流域機関【2】に対して、11月に建設を開始する予定であると伝えた。建設予定地では、何か月も前から、すでに初期工事が始まっている。
Viraponh Viravongエネルギー鉱山省副大臣は、ダム建設予定地の視察に招かれた記者団に対して、魚の量が減ったために住民に一帯での漁業を禁じたと語った。
「魚はすべて捕獲され、数が減少した」と副大臣は述べた。
「このままでは持続可能ではない。それで、禁漁としている」。
禁漁によって、近隣の村人たちは、主な収入源と食糧供給を断たれるが、今後、ダムによって漁業で生計を立てていけない村民には、代替の職業を提供するとの確約がなされている。
また、政府は、ダム建設のために移転を強いられる住民には適切な補償を行うと述べている。
今週、政府関係者は、記者団、外国政府職員、NGO関係者を招いて、フーサホン派川【3】にまたがるダム建設予定地への訪問を実施した。これは、明らかに、ダムへの反対意見を和らげようとする試みである。
■メコンの魚類にとって「壊滅的な脅威」
インターナショナル・リバーズをはじめ、環境保全団体は、近隣国に電力を輸出するラオス政府の「東南アジアのバッテリー」構想の一環をなすドンサホンダムが、メコン河の魚類の回遊に「壊滅的な打撃を与え」、流域の食糧の安全保障を脅かすと警告してきた。
ドンサホンダムは、乾季に魚類がメコン河を大規模に移動できる唯一の流れを遮断してしまうと、環境保全団体は指摘している。
ラオス政府関係者やドンサホンダム建設計画を推進する専門家は、反対意見の大半が間違った情報や古い報告書に基づいていると主張している。
9月、ラオス政府関係者は、ダムを建設するマレーシアのメガファースト社が、建設作業に従事する労働者の宿泊施設を建設する目的で整地を始めたと語っていた。
インターナショナル・リバーズによると、メガファースト社は、フーサホン派川に代えて魚類が回遊できるよう、近接する派川で爆破作業も行っていた。
ドンサホンダムについては、ラオス政府に対して、下流のカンボジア政府から正式な異議がメコン河委員会(MRC)に提出されている。MRCは、流域の重要な河川の開発を監督する機関で、四か国が加盟している。
環境保全団体によると、ラオス政府は、ドンサホンダムがメコン河の本流に位置しないと主張することで、建設前にMRC加盟国と協議する義務を逃れようとしている。
9月30日、建設予定地で何か月も準備工事を行った後、ラオス政府は、MRCにドンサホンダム建設の意思を正式に通知したが、その際、本流でのダム建設に義務化されているMRCの「事前協議」手続きではなく、「事前通知」手続きを取った。
ラオス政府関係者によると、「本流」事業に関するMRCの定義はあいまいで、ラオス政府としては、フーサホン派川にまたがるドンサホンダムがメコン河の川幅に相当しないことから本流ダムとは見なさない。
ラオスは、メコン河本流下流域で第一号ダムとなるサイヤブリダムの建設も進めているが、環境保全団体は、サイヤブリダムも同様に、流域の食糧安全保障を大きく脅かすとしている。
訳注
【1】報道原文(英語、写真入り)は、以下で閲覧可能
http://www.rfa.org/english/news/laos/don-sahong-11142013190822.html#.UoV045uRXiA.facebook
【2】後述のメコン河委員会(MRC)のこと
【3】原文(英語)では、channel。ここでは、河川が自然に分流し、複数の流れになっている部分を指す専門用語として「派川」を使った。
(文責・翻訳 メコン・ウォッチ)