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ドンサホンダム


ダム建設予定地のフー・サホン

ドンサホンダムは、ラオス南部のシーパンドン地域でメコン河が多数の流れに分岐する「フー・サホン」と呼ばれる分流に建設されます。フー・サホンはメコン河の魚の生態系にとって非常に重要な場所です。ダム建設予定地は、カンボジア国境から2qほどの場所にあります。事業は2010年までに完成する予定でしたが、各方面からの強い反対により中断していました。2013年6月、ラオス政府はダム建設の関連工事を翌年から開始すると地域住民に通達、10月には公式に建設を宣言し、加盟するメコン河委員会(MRC)に通達しました。ラオス政府は当初、今まで流域間の合意で本流ダムと位置付けてきたこのダムを、国内ダムと認識を変え、近隣国との協議を避けようとさえしました。現在、MRCでの協議は終わり、ダム建設の議論はMRCの閣僚級会合に持ち越されています。

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プロジェクト名
ドンサホン水力発電ダム
所在地
ラオス南部チャンパサック県(コーンの瀑布群近く)のシーパンドンというメコン河が形成する広大な湿地にあるフー・サホンと呼ばれるメコン本流の分流に建設される。予定地はカンボジア国境から2km弱。
事業主体
マレーシア企業 メガ・ファースト社(Mega First Corporation Berhad: MFCB)
(ラオス電力公社(EDL)が操業権の20%のシェアを保有する見込み)
事業費・供与先
事業費は約3億米ドル程度と発表されていたが、2013年11月のラオス政府関係者の発言では、7.231億米ドルとなっている。供与先未定。
状況
2006年3月、マレーシア企業メガ・ファースト社は、ドンサホンダムに関してラオス政府との間で18か月間の実施可能性調査を行う契約を結び、調査を実施しました。その後、オーストラリアン・パワーアンドウォーター社(APW)が行った環境影響評価報告書がラオス政府に提出されています。これらのダムに関する調査結果は長らく非公開でしたが、ラオス政府は2013年10月、加盟するメコン河委員会(MRC)に対し建設を通知、環境影響評価書を公開しています。ラオス政府は、フー・サホンはメコン河が17に分流するうちのひとつでしかなく、流量もメコン河の総流量の5%だけなので、ここに建設するダムを隣国と協議の必要がある本流ダムとは認識していないと公言しました。
一方、MRCの委託調査である本流ダムに関する戦略的環境アセスメントでは、ドンサホンダムは本流ダムの一つとして扱われており、MRCのラオス以外の加盟国(タイ、カンボジア、ベトナム)だけでなく、ドナー各国も同様の認識を持っていました。その後、ラオス政府は同ダムがMRCの定める「通知、事前の協議および同意の手順(PNPCA)」の対象となることを認め、手続きに応じました。しかし、MRCは2014年10月になって、このプロセスは2014年7月25日に始まっていた、と発表し世論を驚かせました。PNPCAの公聴会ではタイの多数の市民グループが会合をボイコットしたほか、カンボジア政府もダムの越境影響への懸念を表明、ベトナムで開かれた会合では6か月の議論では不十分である、といった指摘がなされています。
結果、ドンサホンダムの建設に関して、MRCの閣僚級会合に決定が預けられる形にはなっていますが、各国がダム建設に反対をするかどうかは不透明です。 ラオス政府はコンサルタント会社のAECOMオーストラリア・ニュージーランド社とSMECニュージーランド社を開発監督者として雇用し、プロジェクトを2018年2月に完了するとしています。商業運転開始は2018年5月の予定で、発電された電気はラオス南部の需要を満たすため、ラオス電力公社(EDL)に販売されます。また、EDLは ダム(操業権)の20%のシェアを25年間保持する予定だと報じられています。
懸念される問題点
ドンサホンダムの建設は、メコン河の有する特殊な自然とそれに依存する希少な生物、80%以上の種が回遊性を持つとされる流域の魚が支えている人々の暮らしに、次のような取り返しのつかない負の影響を与えます。
・漁業への影響
2007年6月に世界魚類センター(World Fish Center)が発表したレポートでは、メコン河の捕獲漁業が地方における生計や食糧安全保障に意味があるだけでなく、年間およそ20億ドルの価値と推定されるメコン流域国の漁業にとって、経済的にも重要であると指摘しています。メコン河流域の捕獲漁業の漁獲高は、年間21 億〜38億ドルの経済価値があり、小売価格では42億〜76億ドルになると推定されているのです。また、コーンの瀑布群はメコン河下流における唯一の主要な滝であり、メコンにおける重要な漁場でもあります。1994年に暫定メコン委員会事務局が発表したメコン河本流ダムによる漁業への影響についての評価は、コーンの滝について「生態学的にユニークな地域であり、メコン河下流の縮図である」であり、「こうした自然豊かな貴重な場所は、開発事業から守られるためのあらゆる努力が払われるべきだ」と指摘をしています。
別の報告では、ラオス南部のコーンの瀑布群付近で、漁業は6万5,000世帯以上を支える産業と指摘されています。この地域の平均的な世帯では、年間355sの魚を捕獲し、249sの魚を消費しているとみられ、コーン瀑布付近全体では、4,000トン/年の漁獲高があり、その経済価値は45万〜100万ドルに相当すると推定されています。

・フー・サホンの特殊性
乾季の水位低下時、多くの魚がフー・サホンを通っていると見られています。ドンサホンダムが出来れば、カンボジアからベトナムやタイ、ラオスへの重要な回遊路を塞ぎ、ひいてはこの4カ国の漁業に頼る生活様式を破壊することにつながります。メコン河委員会の1996年のニュースレターは、「フー・サホンを堰止めることはラオスのメコン河における漁業に壊滅的打撃を与える可能性がある」と指摘しています。

・希少生物と観光業への影響
ダムはラオスで唯一の通年、イラワジイルカが生息する地点のすぐ上流に位置しています。メコン河でこのイルカは、残り100頭ほどしか確認されていません。そのうちラオスには約10%が生息しています。ダム建設の騒音等と環境劣化による魚の減少は、それをエサとするイラワジイルカの生存を脅かします。イルカはコーン瀑布群と並び、この地域の重要な観光資源でもあります。
WWF: The Don Sahong Dam and the Irrawaddy Dolphins
http://wwf.panda.org/?134001/The-Don-Sahong-Dam-and-the-Irrawaddy-Dolphin

・緩和策の効果は疑問
世界魚類センターのレポートは、魚の回遊の遮断に関するそれまでの研究を引用し、「さまざまな試みに関わらず、この地域におけるダムの漁業への影響を減少させたという効果的な例はない」と強調しています。メコン河流域で流し込み式ダム建設が、環境と社会に破壊的影響をもたらすことは、タイのパクムンダムの事例で明らかです。
「ドンサホンダムとメコンの漁業(翻訳)」
http://www.mekongwatch.org/PDF/DonSahong_WorldFish2007_j.pdf


参考資料
・APWについての情報は http://www.auspw.com.au/を参照。
・Baird,I.G., Khone Falls Fishers, Catch and Culture Vol.2 No.2 November 1996.
・Baird, I.G., The Don Sahong Dam: Potential Impacts on Regional Fish Migrations, Livelihoods and Human Health, August 2009. (要約日本語訳
・Baran, Eric, Jantunen Teemu, and Chiew Kreok Chong. 2008. Value of Inland Fisheries in the Mekong River Basin, Tropical River Fisheries Valuation: Background Paper to Global Synthesis 227-290.
・Baran,E. and Ratner,B., The Don Sahong Dam and Mekong Fisheries, A Science Brief from the WorldFish Center, WorldFish Center, June 2007.
・上記レポート "The Don Sahong Dam and Mekong Fisheries" 翻訳「ドンサホンダムとメコンの漁業」
・Hill,M.T. and Hill,S.A., Fisheries Ecology and Hydropower in the Mekong River: An Evaluation of Run-of-the-River Projects. Mekong Secretariat, 1994.
・International Center for Environmental Management (ICEM). 2010. Mekong River Commission (MRC) Strategic Environmental Assessment (SEA) for Hydropower on the Mekong Mainstream: Fisheries Baseline Assessment Working Paper. Vientiane, Lao PDR: MRC.
・International Rivers ドンサホンダムのページhttp://www.internationalrivers.org/campaigns/don-sahong-dam
・World Wildlife Fund. 2007. The Don Sahong Dam and the Irrawaddy Dolphins, WWF Science Brief.
・メコン河委員会 ドンサホンダムのページ http://www.mrcmekong.org/news-and-events/consultations/don-sahong-hydropower-project/
・メコン・ウォッチ:2013年ドンサホンダム環境アセスメント報告書へのコメント(原文英語) http://www.mekongwatch.org/PDF/DonSahongEIA_Comments_by_MW_201412.pdf

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