ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >ドンサホンダム >「下流への宣戦布告に等しい」と生態学者が強い懸念を表明
メコン河開発メールニュース2014年4月28日
メコン河は、支流とカンボジアのトンレサップ湖、周辺の浸水林を含む広大かつ精巧な生態系を持ち、ここからもたらされる自然資源が流域農村部の命綱となっています。
ここ20年、支流に建設されたダムによる漁業被害が次々と報告されており、上流中国の本流ダムの影響も指摘されています。更に、ラオス北部では本流部分にサイヤブリダムの建設が進められています。今まで、一つ一つのダムがメコン河全体にどのような影響を及ぼしたか検証されてはおらず、流域を管理するメコン河委員会が委託した戦略的環境アセスメントでも、ダムの建設を10年間中断し、まずは欠けている科学的知見を蓄積すべき、と提言がなされています。しかし、調査はおろか、流域との協議のないままラオスは二つ目の本流ダム、ドンサホンダムの建設を進めています。
カンボジアはラオスよりも下流に位置しますが、ドンサホンダムは両国国境から1,2キロ離れたラオス側に建設される予定で、ラオスはもちろんのこと、カンボジア側で甚大な影響を出すことが懸念されています。以下に、カンボジアの食料安全保障への深刻な影響を懸念する各方面の声をまとめた報道記事を翻訳でお伝えします。
ドンサホンダムについてはこちら。
http://www.mekongwatch.org/report/tb/Donsahong.html
ダムの漁業への影響はこちらのレポート、「ドンサホンダムとメコンの漁業」をご覧ください。
http://www.mekongwatch.org/PDF/DonSahong_WorldFish2007_j.pdf
カンボジア国内では、ドンサホンよりも更に流域の生態系に悪影響を与える恐れのある、セサン下流2ダムの計画も進んでいます。同国の環境と農村部の生活は、今まさに危機に瀕している状況です。今後もみなさまには逐次情報をお伝えしていきます。
2014年3月20日
『プノンペンポスト』
Laignee Barron記者
専門家によると、トンレサップ湖の漁業はすでに乱獲、水質汚染、森林伐採による打撃を被っているが、更に大きな脅威-水力発電ダム-に直面している。
とりわけラオスの計画するドンサホン水力発電事業は、湖の枯渇と生物多様性の減少を招き、国(カンボジア)をタンパク質不足に着き落とすと環境保護者は怖れる。
「(ドンサホンダムは)乾季にコーンの瀑布群で唯一魚が回遊できる部分を遮断するため、特に懸念される」とワールドフィッシュセンター大メコン圏事務所ディレクター、エリック・バランは話す。
魚の専門家たちによると、少なくとも32の魚種はトンレサップ湖とメコン河上流の間を、ドンサホンダムが建設される予定のコーンの瀑布群を通り移動している。ラオス・カンボジア国境のすぐ北にあたる場所だ。
「私はそれが、ラオスによるカンボジアとベトナムへの宣戦布告のように見える」と生態学者テーバー・ハンドは言う。「戦争で用いられるほとんどの行為に比べれば、漁業の縮小や土砂流量の減少がもたらす影響など微妙だが、国家安全保障への影響ととらえた場合、同程度もしくはそれ以上の脅威となる。」
何百万もの人々が、その収入源として、また食料安全保障を、このカンボジアの偉大な湖の魚類に頼っている。科学者の試算によると、国の漁獲量の60〜70パーセントはこの湖からもたらされ、カンボジア人のタンパク質とオメガ3脂肪酸の主な摂取源となっている。
「カンボジアの人口の100%が魚を食べている。我々は今、タンパク質の供給源として魚に完全に置き換わる選択肢を持っていない」3S河川保護ネットワークの代表ミッチ・ミアンは言う。
ダム反対派はさらに、トンレサップ湖漁業への有害な影響が何を意味するかと言えば、国の貧困と栄養失調率の改善が、何歩も後退することだと主張してきた。
「カンボジアの食料安全保障が守られると約束されるまで、ダムを建設すべきでない」と、NGOフォーラム代表テック・ヴァンナラは言う。
しかしドンサホンダム推進派は、もしも魚の代替回遊ルートが機能しなかった場合はプロジェクトを中断すればよいとし、意見を変えない。
「ドンサホンダムは非常に高価なプロジェクトです。私には、魚の回遊への影響を適切に緩和できなかったと判明した時点で、このような投資をしたダムを(訳注:影響回避のために)止めるとは微塵も思えない」とウィスコンシン大学マディソン校教員で漁業の専門家であるイアン・ベアードは述べている。
(翻訳・文責 メコン・ウォッチ)
原文はこちら:
http://www.phnompenhpost.com/national/tonle-sap-lake-fisheries-concern-dam-project