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メコン河開発メールニュース2014年5月9日
関西電力が出資するナムニアップ1水力発電事業に関する公聴会が、5月7日、ラオスのビエンチャンにて開催されました。しかし、同公聴会の実施プロセスには、融資を検討しているアジア開発銀行(ADB)およびラオス政府の環境社会配慮政策上、違反の疑いが見られました。そのため公聴会に先駆けて、5月6日、メコン・ウォッチは、アメリカに本部を置くNGOインターナショナル・リバーズ(※1)とともに、実施企業に対して質問状を提出しました。
ナムニアップ1水力発電事業は、メコン河の支流ナムニアップ川に高さ148メートル、貯水池面積67平方キロメートルのダムを建設する事業です。発電される290メガワットの電力のうち、大部分はタイに輸出される計画です。
実施主体であるナムニアップ1電力会社は、関西電力の100%子会社であるケーピック・ネザーランド(KPN)社が45%、タイ発電公社(EGAT)の子会社であるEGATインターナショナル(EGATi)社が30%、ラオス政府全額出資の投資法人であるラオ・ホールディング・ステート・エンタープライズ(LHSE)社が25%を出資して、2013年4月に設立されました。
同事業に関しては、1996〜2002年に国際協力事業団(現国際協力機構:JICA)が実施可能性調査を行い、現在、国際協力銀行(JIBC)や、日本がアメリカと並んで最大の出資国であるアジア開発銀行(ADB)が融資を検討しています。
貯水池に水没するサイソンブン県ホム郡の4村の全世帯を含む、主にモン(Hmong)族の約4000人が移転を強いられます(※2)。また、ダム建設による森林の水没、ダム下流のナムニアップ川の水生生物への環境影響、漁業被害や河岸の野菜畑の水没による社会影響が生じることになります。
表現の自由が極端に制限されているラオスで、影響住民や市民団体が開発事業に対して率直な意見、とりわけ懸念の声を表明するのは、並大抵のことではありません。だからこそ、事業推進側には、政策を遵守した住民やNGOとの協議プロセスが求められます。しかし、現実はそうなっていないようです。私たちが実施企業に投げかけた主な質問は、以下の通りです。
(1)最近公開された事業の環境影響評価(EIA)の要約版(※3)には、「ダムを建設しないという選択肢は、大メコン圏のエネルギー戦略、ラオス政府の開発優先事項、同政府のエネルギーセクター政策、およびラオスとタイのエネルギー供給に関する覚え書き(MoU)に一致しない」(p. viii)とある。しかし、ADBの環境配慮政策は、実施企業が「事業を実施しないという選択肢」を十分に検討することを要求しており、もし同事業で、ダムによって影響を受ける少数民族の人びととの協議を行う前から、ダムありきで進められていたのだとしたら、ADBの環境配慮政策を無視していないか?
(2)EIAの要約版によれば、影響住民との協議では、事業のスケジュール、事業による影響、移転プログラム、補償、異議申し立てメカニズムへのアクセス、生活再建策等、ダム開発が推進されることを前提とした議論が行われている。一方で、ADBの先住民族に関するセーフガード政策では、影響を受ける住民が十分な情報に基づいて合意をすることが求められている。事業の推進を前提として行われた協議では、事業を受け入れざるを得ない暗黙の圧力の下で、影響住民の合意が取られた懸念がないか?
(3)5月7日にビエンチャンで開催された公聴会は、参加者を「ラオスで登録された団体」(※4)に限定するものだった。しかし、ラオス政府がADBの支援を受けて2003年に発行した「環境社会影響評価における民衆参加のためのガイドライン」には、「ステークホルダーには、事業に関心を持つ全ての人びとが含まれる」(セクション4.1)とし、事業の公聴会は「公聴会に参加を希望する全ての人びと」(セクション6.2)に開かれたものでなければならない、としている。今回の公聴会は、ガイドライン違反ではないか?
質問状では、ナムニアップ1電力会社が、こうした懸念に対する明確な説明を行うまでは、事業を進めないことを求めています。
質問状の本文(英文)はこちら
(※1)International Rivers (http://www.internationalrivers.org)
(※2)ナムニアップ1電力会社のウェブサイト(http://www.namngiep1.com)より。
(※3)http://www.namngiep1.com/show.php?id=21
(※4)http://www.namngiep1.com/files/files/Consultation%20on%20the%20Nam%20Ngiep%201.pdf
(文責 メコン・ウォッチ)