ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ビルマ・ティラワ経済特区>「調査、理解が不十分」住民、NGOがJICA審査役の報告書に意見書
メコン河開発メールニュース2014年12月8日
ビルマ(ミャンマー)の最大都市ラングーン(ヤンゴン)近郊で、日本が官民を挙げて進めている「ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業」について、今年6月、移転住民の生活悪化に関する調査と問題解決を求めるため、影響を受ける住民3名が来日。同事業への海外投融資(ODAによる民間支援)を行なう国際協力機構(JICA)に対して異議申立書を提出しました。
(詳細はこちら http://www.mekongwatch.org/resource/documents/pr_20140602.html )
その後、11月4日には、JICA異議申立審査役(以下、審査役)が5ヶ月間にわたる調査結果を「異議申立に係る調査報告書」(以下、報告書)としてまとめ、公表しましたが(http://www.jica.go.jp/environment/present_condition_mya01.html)、12月初め、同報告書に対する意見書を申立住民3名、および、住民グループとともに同問題に取り組んできたNGO(アースライツ・インターナショナル、および、メコン・ウォッチ)がそれぞれ提出しました。
各々の意見書のなかで、総じて指摘されているのは、審査役による「住民の被害状況に関する調査や理解が不十分である」点。「JICA環境社会配慮ガイドラインを遵守した移転・補償措置がとられている」と結論づけた審査役の調査結果に対する反論がなされています。
また、審査役とJICAがビルマ政府の説明を鵜呑みにしている土地所有権の問題(ビルマ政府が過去に合法的な土地収用を行ない、住民は不法占拠者であるため、土地補償は不要と主張している点)については独自の調査が必要であること、そして、ビルマ政府当局に対する住民の畏怖の念への配慮が重要であることなど、今後、JICAが問題対処を行なっていく上で留意すべき点も示されています。
申立人3名は意見書のなかで、生計手段や洪水、清潔な水へのアクセスなど、審査役とJICAが把握できていない喫緊の課題についても説明しています。
たとえば、移転前後の月平均収入は1世帯当たり327,000チャット(約32,700円)から71,000チャット(約7,100円)に落ちましたが、政府による収入回復プログラムは機能していません。移転前に借金をする必要がなかった多くの世帯が日々の生活費用のため、家を担保に地元の高利貸から高い利率で借金をしており、その借金の返済期限が迫っていることから、約20家族が家を失う危機に直面している現状もあります。移転した68軒中、すでに31家族が生計手段がないことから移転地を後にしていますが、今後、借金を返せぬまま、家を失い、移転地を出なく
てはならない家族がさらに増えることが懸念されます。
審査役の調査結果に不十分な点がみられる一方で、同報告書では、住民により配慮した形での透明性の高い多者間協議の場の設置など、問題の改善に向けた提案が掲げられています。こうした提案については、JICA事業担当部も「審査役の報告書に対する意見書」(2014年12月1日)のなかで、「いずれの点につても真摯に取り組んでいく」との見解を示しています(http://www.jica.go.jp/environment/ku57pq00001mzeq1-att/opinion_mya01_141204.pdf )。
移転地の住民が喫緊の課題を抱えていることに鑑み、今後、JICAが住民等からの意見を十分に踏まえながら、問題の改善に向けた対処を早急かつ効果的に実践していくこと、また、苦情処理メカニズムを構築していくことが求められています。
以下、各々の意見書について紹介します。
(前書き概要)
・審査役の報告書で示されている問題解決に向けた提案は、さまざまなステークホルダー間の継続的な対話など、歓迎すべきものもある一方で、同報告書では、より深い理解が必要とされる点が多くみられた。審査役がこの意見書に配慮し、提案を早急かつ効果的に実施するようJICAに働きかけることを期待する。
(各項目への主な反論)
・土地権について
JICAと審査役は、土地所有状況に関する政府当局の説明を信じ、独自の法的調査を行なっていない。
・移転地の排水状況について
家は道路より低い位置にあるため、雨が降ると家の下に水が溜まる。トイレが家の近くにあるため、飲料用に利用している井戸の水が糞便等で汚染されている。(2014年11月の移転地の洪水の状況については、添付1の写真を参照)
・水質について
ティラワ社会開発グループ(TSDG)のメンバーが政府当局によって提供された井戸および水汲みポンプ計7つから水のサンプルを採取し、ヤンゴンにあるミャンマー保健省(MoH)の水質検査研究所で検査したところ、全てのサンプルが「細菌学的に安全でない」ものであった。つまり、水サンプルから検出されたヒト糞便からの細菌の量が、MoHの許容水準を超えており、したがって、人間の消費には適さないということである。
・政府当局による脅迫について
審査役は、「ミャンマー政府が公的に、又は組織的に強制や脅迫を行っていたとは認め難い」と報告しているが、米NGOによる調査では、移転を拒否した場合に何が起こるかについて脅威に感じたことがあると回答した住民が29世帯中93%となっており、審査役はこうした点を軽視すべきではなかった。
→申立人3名による意見書の全文はこちらをご覧下さい(原文はビルマ語)。
(英訳)http://www.mekongwatch.org/PDF/news20141208_Thilawa_Requesters Opinions on JICA Examiners ENG.pdf
(和訳)http://www.mekongwatch.org/PDF/news20141208_Thilawa_Requesters Opinions on JICA Examiners JP.pdf
1.移転と土地に関連した問題について
2.恐怖という広範囲にわたる心理的状態について
3.フェーズ1に関する環境影響評価(EIA)について
4.フェーズ2に関する問題対処の看過について
→アースライツ・インターナショナルによる意見書の全文(英語)はこちらをご覧下さい。
・意見書
http://www.mekongwatch.org/PDF/news20141208_Thilawa_ERI_ResponsetoExaminersReport.pdf
・フェーズ1に関するEIAの分析
http://www.mekongwatch.org/PDF/news20141208_Thilawa_ERI_EIA.pdf
・ミャンマー法、および、JICAガイドラインの下での影響住民の権利と救済措置の分析
(土地収用の違法性に関する分析を含む)
http://www.mekongwatch.org/PDF/news20141208_Thilawa_ERI_LegalAnalysis.pdf
(1)現地調査等による独自の情報収集が不十分
(2)JICA事業担当部が提出した情報に対する不十分な検証
(3)問題の認知と結論(ガイドライン遵守)の矛盾
(4)不遵守を認めなかったことによる異議申立制度への信頼性失墜の可能性(不十分な独立性)
(5)申立人への通知・報告書に関する説明責任が不十分
→メコン・ウォッチによる意見書の全文(日本語)はこちらをご覧下さい。
http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20141203.pdf
※ビルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業
パッケージ型インフラ事業として、日本の官民を挙げて進められている。ヤンゴン中心市街地から南東約23kmに位置するティラワ地区2,400ヘクタールに、製造業用地域、商業用地域等を総合的に開発する事業。フェーズ1(400ヘクタール)にODA海外投融資による出資をJICAが決定。三菱商事、住友商事、丸紅が参画。JICAは残り2,000ヘクタールにおいても協力準備調査を実施中で、環境アセスメントや住民移転計画の策定を支援している。フェーズ1は2013年11月に着工し、68家族(約300人)がすでに移転。残り2,000ヘクタールの開発では、さらに1,000家族以上(約4,000人)が移転を迫られることになる。
→ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業についての詳細はこちら
http://www.mekongwatch.org/report/burma/thilawa.html
(文責 メコン・ウォッチ)