ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >カンボジア・セサン下流2>移転を迫られる村(3)脅迫を伴う合意形成
メコン河開発メールニュース2015年4月3日
カンボジアで建設が始まっているセサン下流2ダム(LS2)の影響村、クバールロミア村の人びとの声を連続してお伝えしています。3回目は、補償の資産測定が村人に与えた影響についてお知らせします。
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移転のための資産測定調査に直面した村人の気持ちを、Pさんは詳しく説明してくれました。「(移転に反対し)測定させない人には、政府は何の責任も持たない、と言われています。村の中には、一般の住民が政府の偉い人に逆らうものではないと考え、同意した人もいます。でも、移転を容認しなかった住民は、政府が正しいことをすれば同意し、正しくないことをすれば反対する、という気持ちでいます。また、測定に同意した一部の世帯も、決して喜んで同意したわけではありません。水没を恐れたことに加え、たくさんの警察官と一緒に来た測定チームからプレッシャーを受けて、やむなく同意しているのです」。
移転に反対するSさん(女性)は、「教師の夫が、反対運動を続ければ給料を払わないと脅されました。補償の話がでると親戚との関係も壊れます。もらえるかもらえないかわからない補償に、なぜ金を受け取らない、愚か者だ、と批判する人が出る。このような事業はやめるべきです」と言います。また、彼女は、「いろいろな人が来て話を聞き、写真をとっていく。でも何の変化もなくダムはどんどん大きくなっていく。あなたたちもドナーに伝えてほしい。ダムを中止するようにと」と、私たちに伝言しました。
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LS2は、BOT方式(Build(建設)、Transfer(所有権移転)、Operate(管理・運営)。プラント建設に加え、一定期間の操業も投資企業が請負い,その間の収益で投下資本を回収し,その後、プラントを相手国に引き渡す方式)で建設されます。総事業予算は8億1600万ドル。カンボジアのロイヤルグループ、中国の企業ハイドロランチャン・インターナショナル社とベトナム発電公社が資本参加しています。中でも、ハイドロランチャン・インターナショナル社は51%を出資する模様です。資金調達先は中国の銀行とみられていますが、一般に情報は公開されていません。
最近のニュースで、アジア開発銀行(ADB)と競合する中国のアジアインフラ投資銀行の設立が大きな話題になりました。多くの論調が、アジアには更にインフラ開発資金が必要であるとする一方、中国の投資には人権や環境への配慮が欠けるという指摘もなされています。私たちは今まで、ADBのメコン河流域での融資の問題事業について現地と協力し、様々な指摘を行ってきました。例えばカンボジアの国道一号線、また鉄道改修事業などがその一例です。開発の現場で問題を引き起こしているのは、中国の資本だけではありません。
GMSカンボジア鉄道復興事業
http://www.mekongwatch.org/report/cambodia/GMSRailway.html
カンボジア国道1号線改修事業
http://www.mekongwatch.org/report/cambodia/hw1-adb.html
しかし、長年の市民社会の働きかけによって、アジア開発銀行にはアカウンタビリティメカニズムが作られ、影響住民が事業に直接意見を言うことが可能になっています。
http://adb.org/sites/default/files/accountability-mechanism-brochure-jp.pdf
世界銀行、日本の国際協力機構なども同様の制度を持ち、それは実際に影響住民によって使われています。
メコン河流域の川や森の環境は、数多くの開発事業によって、危機的な状況を迎えています。このようなメカニズムを、新興の機関にも早急に求めることが、今最も必要とされているのではないでしょうか?それには、NGOだけでなく、様々なアクターが協力して取り組む必要があると考えます。
(文責 木口由香/メコン・ウォッチ)