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ビルマ・ティラワ経済特区>2年が経過した移転地の現状・課題と次期移転への教訓

メコン河開発メールニュース2015年11月9日


ビルマ(ミャンマー)の最大都市ラングーン(ヤンゴン)近郊で、日本が官民を挙げて進めている「ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業(※)」は、この9月に開所式典が行なわれた他、次期開発区域に関する覚書も締結されるなど、順風満帆で進んでいるかのように見えます。しかし、昨年6月に国際協力機構(JICA)に対する住民の異議申立てが行なわれ、現地住民の生活悪化が指摘された同事業に伴う移転の問題は、現在も改善の途上にあります。また、次期開発区域の移転において、『JICA環境社会配慮ガイドライン』の規定にあるとおり、確実に「生活水準が事業前よりも改善、少なくとも回復」されるよう、引き続き、注視していく必要もあります。


<開所式典も行なわれ、整備の進むティラワSEZ早期開発区域(2015年10月)>

<ティラワSEZ早期開発区域から移転を強いられた住民の暮らす移転地(2015年7月)>

以下、同事業の早期開発区域(400 ヘクタール)から約2年前に移転した住民の現状と課題、また、次期開発区域(2,000ヘクタール)に暮らす約1,000家族を対象にした移転・補償措置の準備状況と今後の課題について、2015年10月中旬までの情報を基にまとめました。

>2015年5月中旬までの経過はこちらをご覧下さい。
 http://www.mekongwatch.org/resource/news/20150605_01.html

<早期開発区域からの移転住民の現状・課題>

●移転地住民の生計手段の回復・改善措置の現状と課題

早期開発区域(400 ha)から移転を強いられた世帯のなかには、新たな生計手段をすぐに見つけることができぬまま、補償金を使い切ってしまい、以前はする必要のなかった借金を抱えながら生活を続けている世帯が多く見られます。家を借金の担保に近隣の高利貸に頼る世帯もあり、利子を含めた借金の額がどんどん膨れ上がるなか、今年初めには、住むところを失うか否かの深刻な状況に陥っている世帯もありました。

こうした状況の改善策として、今年初めに考えられた@社会福祉支援プログラム(Social Welfare Support Program)、Aコミュニティー開発基金(Community Development Fund)、B職業訓練(Vocational Training)については、それぞれ、以下のような進捗が見られます。

@社会福祉支援プログラム
1世帯当たり300万チャット(約30万円)が3 分割で支払われる予定になっていましたが、今年4月、7月、10月とすでに3回の支払いが完了しています。


<2回目の支給金の支払いに関する移転地でのミーティング(2015年7月)>

 

Aコミュニティー開発基金
マイクロセービングが始められている他、マイクロファイナンス形式の支援について、家畜の飼育、小売業など、各希望世帯の40提案書が時間をかけながら、丁寧につくりあげられたところです。今後、各提案を実施していくために、移転地のコミュニティー全体として幾らのマイクロファイナンス支援(元金)が必要であるか、JICA専門家チーム等との話し合いがなされていくことになります。

B職業訓練
車両運転、電気関連、縫製関連など、住民の希望するトレーニング内容について聞き取りが行なわれました。10月から運転の訓練を6名が受講し始めており、その他のトレーニングについても、順次開始される予定になっています。トレーニング中の交通費や手当ての支給については、トレーニング参加中に収入がなくても、家族を扶養できるよう、十分な手当が必要と住民側が主張するなか、JICA専門家チームなどと支給額について継続的な協議が行なわれています。

実際、@の支給金により、借金を完済できた世帯、また、借金の額が減少した世帯もおり、一時的な問題状況の改善・緩和は見られます。一方、借金の完済をできていない世帯も依然として残っていること、また、@の支給が終わってしまったことから、安定した収入源、かつ、ある程度の賃金水準の雇用をできる限り早く確保できなければ、借金の額がまた増えていってしまう、あるいは、借金生活に逆戻りする世帯が出てくる可能性は否めません。

今後は、Bのトレーニング後に確実に仕事を得られるよう、SEZ内外での雇用機会の斡旋・マッチングが重要となってきます。労働条件(賃金、支払方法、交通費支給等を含む)・環境などについて、事前に住民との十分な協議も必要です。また、移転住民については経験・学歴等の雇用条件を緩和するようSEZ入居企業と協議するなど、SEZ内での仕事を希望する移転住民の優先雇用を徹底する措置もとられるべきです。

また、移転世帯が以前の居住地域で自家消費用の野菜等を家庭菜園から得ることができていたことを踏まえ、移転地周辺での家庭菜園の場の提供も、引き続き、検討されていくべきです。

 

●移転地のインフラ・住環境の現状と課題

移転地での洪水・排水対策については、移転地周辺の水路の一部掘削や、各世帯の居住ロットの高さを土を入れることで上げるなど、各対策がとられた結果、以前より状況はよくなったようです。しかし、今年の雨季も依然としてトイレから汚水が流出した世帯も見られ、家屋下に雨水や汚水が溜まってしまうケースも見られました。こうした状況を改善するため、住民側からは移転地の裏手に大きい排水路をつくるなど、排水機能をより十分なものにしていくための提案がなされています。


<トイレから汚水が流出しないよう、トイレ自体の高さを上げている世帯(2015年7月)>

飲料水については、手動式水汲み上げポンプ1台に浄化装置が付けられました。ただ、同ポンプから離れた場所に住む世帯は、近所の地下汲み上げ水を使ったり、雨季の間は雨水を利用していた世帯もあります。住民から提案が出されていた飲料水の提供を視野に入れた各世帯への水配給システムについては、まだ導入されていませんが、今後も住民のニーズを踏まえた水供給の改善策が進められていくことが期待されます。


<浄化装置の設置された手動式汲み上げ水ポンプ(2015年10月)>

 

●多者間協議、苦情処理メカニズムの構築

マルチステークホルダー助言グループ(Multi-Stakeholder Advisory Group:MSAG)の第2回会合は9月2日にヤンゴンで開催されました。今回の会合では、移転地の生計回復プログラム、次期開発区域の移転・補償措置の準備状況について議論がなされた他、住民側から苦情処理メカニズムの暫定案について説明がなされました。

今回の暫定案のなかでは、苦情処理メカニズムにおける住民代表の機能、ティラワSEZマネージメント委員会、および、MJTD(日緬合弁企業)がそれぞれ設けたコミュニティー担当者(Community Relations Officer :CRO)の役割と行動規範などが具体的に提案されています。

この住民側の提案における重要な要素の一つは、事業者が講じる解決策の決定にあたり、いかに住民側の意見が反映されるようにするかという点です。これまで、住民側が指摘した移転に伴う問題に対し、事業者側が住民のニーズや意見を踏まえずに解決策を決め、講じた結果、十分な問題の解決に至らず、更なる措置が必要になるといったケースが多く見られます。今後、より効果的な解決策を講じていくためにも、どのような解決策が必要か話し合う場を設け、そこに住民側の意味ある参加を確保していくことが求められています。

 

<次期開発区域における移転・補償措置〜準備の現状と課題>

10月10日、および、11日、次期開発区域(2,000 ha)全体の移転・補償措置に関する住民協議会が現地で開催されました。約1,000家族が対象となることもあり、協議会は同じセッションをタンリン郡の住民向けに4回、チャウタン郡の住民向けに3回と計7回行なわれ、各回でティラワSEZマネージメント委員会がパワーポイントを用いながら、住民移転計画に係る「フレームワーク」について説明をし、質疑応答の時間が設けられました。


<次期開発区域の移転・補償措置に関する住民協議会(2015年10月)>

協議会の質疑応答で複数の住民が懸念を口にしたのは、土地補償と移転地の選定についてです。土地補償については、「1990年代の土地収用時に補償が支払われた世帯には、土地補償はないが、当時、補償が支払われていない土地には、市場価格での支払いがある。現在、JICA専門家チームが市場価格を基に補償額を算出中。」との説明がなされたのに対し、住民からは「90年代の補償の支払いの有無にかかわらず、土地補償がなされるべき。」との主張がなされました。移転地については、「(早期開発区域の移転の際に用意した)現在の移転地の近くに準備する。」との説明に対し、「現在の自分たちの村の近くに移転したい。」との意見が住民から出されました。

実際、今回の住民協議会で説明された移転・補償措置の内容は、住民の関心が高い土地補償や移転地の選定に関する点のみならず、全体として「早期開発区域のものと何ら変わらない」というのが、住民の率直な意見として聞かれます。

しかし、上述のとおり、早期開発区域からの移転住民は約2年経った現在も安定した収入源を確立できておらず、また、居住環境も依然として改善の途上にあります。次期開発区域の移転がこのまま進められれば、こうした同様の問題状況により多くの住民が直面することになります。

住民協議会の翌週には、住民移転計画に係る「フレームワーク」の文書(ビルマ語。付属文書を含む299ページ)が公開され、現在、同文書に対するパブリック・コメントが受け付けられています(締切は11月18日)が、今後寄せられる住民のコメントや懸念の声をしっかりと反映するのはもちろんのこと、早期開発区域の移転により起きた問題が繰り返されぬよう、その経験から得られる教訓を十分に活かしながら、次期開発区域の移転・補償措置が大幅に修正されていく必要があります。

 

※ビルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業
パッケージ型インフラ事業として、日本の官民を挙げて進められている。ヤンゴン中心市街地から南東約23kmに位置するティラワ地区2,400ヘクタールに、製造業用地域、商業用地域等を総合的に開発する事業。フェーズ1(400ヘクタール)に海外投融資による出資をJICAが決定(ODAによる民間支援)。三菱商事、住友商事、丸紅が参画。JICAは残り2,000ヘクタールにおいても協力準備調査を実施中で、環境アセスメントや住民移転計画の策定を支援している。フェーズ1は2013年11月に着工し、68家族(約300人)がすでに移転。残り2,000ヘクタールの開発では、さらに約1,000家族(約4,000人)が移転を迫られることになる。

 

→ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業についての詳細はこちら
http://www.mekongwatch.org/report/burma/thilawa.html

(文責 メコン・ウォッチ)

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