ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >ドンサホンダム >流域住民6,400名、政府に直接対話を求める
メコン河開発メールニュース2015年11月20日
第二のメコン河下流本流ダム、ドンサホンダムの建設をラオス政府が強行しようとする中で、タイ・カンボジア・ベトナム三か国の住民が、流域政府に直接対話を求める声明を発表しました。[1]
声明には6,400名以上の流域住民が氏名を連ね、約80の団体・個人が賛同を表明しました。住民代表は、11月11日、ベトナム・アンザン省で約100名を集めて開催された「メコン民衆フォーラム」でこの声明を読み上げ、その様子は、ベトナムやカンボジアの複数のメディアが報道しました。[2]
声明の中で住民は、ドンサホンダムに限らず、メコン河流域全土で進行する数多くの巨大ダム建設に対して懸念を表明しています。そのうえで、住民の声の集約やダム建設をめぐる合意形成に失敗をくりかえすメコン河委員会(MRC)への不信を強め、流域国政府に対して住民との直接対話を求めています。[3]
以下では、この件にかんするカンボジア・クメールタイムスの報道を日本語訳で紹介します。
2015年11月15日
クメールタイムス
Aisha Down・Chea Vannak記者
タイ・ベトナム・カンボジアの住民6,400人が、ドンサホンダム(256メガワット)の建設に抗議する声明に署名・押印し、メコン河の魚類の減少やメコン河委員会(MRC)の不透明性といった、あまたの問題に対して懸念を表明した。住民の代表は、先週(11月11日)、ベトナム・アンザン省で開催された「メコン民主フォーラム」の場で声明を読み上げ、メコン河流域に住む住民はドンサホンダムの影響について十分に知らされておらず、相談を受けたこともないと語った。そして、メコン河流域国政府に対して、住民の懸念を議論する場を早急に設定するよう呼びかけた。カンボジア・ラオス国境の北側に位置するドンサホンダムの建設工事は、11月初旬に始まっている。[5]
この声明は、ドンサホンダムの建設に対する、一連の草の根の抗議行動のひとつで、二か月前にも、カンボジアNGOフォーラムが同様の声明を発表し、ラオス・カンボジア・タイ・ベトナムの市民/住民がドンサホンダムについて協議する場が設けられていない点を指摘した。
ドンサホンダムについては、十分な影響調査が実施されておらず、住民もNGOも最悪の事態を懸念している。「私たちは河とともに育ったので、わずかな変化も見逃しません。この10年間、(メコン河の)水位は下がり、魚の数が減っていることは明らかです。子どもたちの未来が心配です」と、ベトナム・カマウ省から参加した住民代表のHuynh Thi Kim Duyenさんは語った。
「きちんとした影響調査は実施されていません。一方で、私たちが(メコン河から)受けている恩恵が得られなくなるのです」と、カンボジアNGOフォーラムの声明にも名前を連ねたOr Channyさん(カンボジア農村開発チーム)は述べた。「私たちが活動する地域の住民たちの多くは、メコン河流域で暮らしを営んでいます。そうした住民たちの生計手段が奪われるのではないかと心配です。ダムの影響で、農地が水没するかも知れないし、ポンプやトイレといった設備も使えなくなるかも知れません」。
Channyさんは、さらに、影響を受ける住民には、ダム建設の影響の評価をはっきりと知る権利があるはずなのに、メコン河流域全体を対象とした影響調査は実施されていないと述べた。[6]
一方、カンボジア政府は、ドンサホンダムに関する問題を解決するのは、メコン河の開発を監督するために創設された政府間機関、メコン河委員会(MRC)の役割で、その役割を実現するには加盟国による協調の努力が必要である、と主張している。
「ドンサホンダムは、メコン河の水質を悪化させるという点でも看過できない問題です」と、カンボジア・クラチエ県水資源局のHeng Ret Mony Daさんが語った。「どのような影響が現れ、どのように生活が変化するかを住民に伝えるのが地方行政の仕事なんですが、私たちにはMRCの政策を踏襲するしか術がなく、自ら問題を解決することはできないのです」。
Heng Ret Mony Daさんは、さらに、「カンボジアでは、ドンサホンダムに対する抗議の声は、ほとんどの場合、ラオスとの国境付近に住む住民団体からあがっており、下流の住民にも影響があるかも知れませんが、その可能性をきちんと理解していないのです。」と語った。
流域住民の声明に対して、Phoenekeo Daovongラオス政府エネルギー政策局長(博士)は、ラオス政府が1995年のメコン河協約が定めた手続きにしたがってドンサホンダムの建設手続きを進め、工事を始める前に六か月の協議に応じた点を強調した。[7]
「ラオス政府は、MRC加盟国政府から公式な回答を受け取りました。各国がラオスの経済発展を支持してくれています。事前協議の要点は、加盟国の見解を聴収することで、ラオス政府は、加盟国の見解を聴収しました」とDaovong局長は述べた。
住民が声明を通して、メコン民衆フォーラムで発した要求については、「ラオス政府は、有益な協議については、今の段階でも開かれた態度で臨んでいます」と語った。
注
[1] ドンサホンダムについては、以下を参照
http://www.mekongwatch.org/report/tb/Donsahong.html
[2] ベトナムのThanh Nien News(2015年11月13日)は、英文記事に加えて、住民声明を全文紹介している。
http://www.thanhniennews.com/society/thousands-sign-petition-against-mekong-dam-construction-53594.html
なお、署名活動は継続しており、現時点では8,000名以上が氏名を連ねているという。
[3] 住民声明の原文(英語)は、以下で閲覧可能
http://www.terraper.org/web/en/node/1716
[4] 記事の英語原文は、以下で閲覧可能
http://www.khmertimeskh.com/news/17834/mekong-locals-seek-a-voice-on-don-sahong/
[5] 本体工事を開始したかどうかは不明
[6] 2015年1月、タイ・カンボジア・ベトナム政府が、ラオス政府に対して、ドンサホンダムの越境環境影響調査の実施を求めたが、実施されていない。
[7] 6月19日、MRCは、ドンサホンダムをめぐる加盟国間の合意形成が不調に終わったため、協議の場を政府間の交渉に移すと発表した。この交渉は終わっておらず、「協議が終了したので建設工事を始める」とするラオス政府の解釈は強引。メコン河開発メールニュース(2015年6月26日)「ドンサホンダム>メコン河委員会、合意形成に失敗」を参照
http://www.mekongwatch.org/resource/news/20150626_01.html
(文責・翻訳 土井利幸/メコン・ウォッチ)