ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >メコン本流ダム>ベトナム政府の新調査「ダムで魚類が半減」
メコン河開発メールニュース2015年12月3日
メコン河本流でのダム建設に対しては、一貫して慎重な立場を取り続けてきたベトナム政府が、「デルタ調査」と通称するあらたな調査を実施し、その概要が明らかになりました。報道によると、メコン河の魚類の経済的価値は年間で70億米ドルに達し、その一方で、11か所に計画中のダムが建設されたとしたら、カンボジア・ベトナム国内で魚類が半減、また、カンボジアではコメの生産量も激減するといった結果が出ています。
今回の調査で、巨大ダムの建設が、メコン河流域に住む人びとの生活、とりわけ食糧確保・供給を脅かすことがあらためて浮き彫りになりつつあります。
ラオス政府をはじめとする流域国政府、および流域に経済援助や投資をつぎ込む支援国/開発機関は、メコン河本流でのダム建設をいったん中止させ、「デルタ調査」をはじめ、さまざまな調査の結果を精査したうえで、流域の水資源の賢明な活用方法を協議すべきです。
以下、「デルタ調査」の概要を、クメールタイムスの記事の日本語訳を通してお伝えします。
なお、メコン河下流本流ダムについては、以下をご覧ください。
メコン・ウォッチ「メコン河本流ダム(下流部)」
http://www.mekongwatch.org/report/tb/lower.html
2015年10月21日
Khmer Times
James Reddick記者
仮に、11か所で計画中のメコン河本流ダムをすべて建設すれば、カンボジア国内およびベトナムデルタ一帯で魚類が半減する恐れがあると、ベトナム政府が自己資金で実施している広域調査の暫定結果が示した。
これは、昨日、メコン河流域の水資源・食糧・エネルギーに関する地域会議で発表された内容だが、「メコン河に多数のダムを建設することは、世界で屈指の河川の生態系に劇的な変化をもたらすことを意味する」という、環境団体や魚類学者などが長年にわたって発してきた警告をさらに詳細に検証したものである。
環境影響評価や魚類調査はこれまでにも複数実施されてきたが、ベトナム政府が主導することで、今回の結果は、一方的なダム建設にまい進するラオス政府へのけん制として効果を発揮するのではないかと専門家は見ている。
「メコン河流域で、大規模な国際調査に対して、政府がこれだけの資金を提供し、周辺各国にも参加を呼びかけたのは初めてのことだ」と、Jeremy Carew-Reid国際環境管理センター(International Center for Environmental Management)課長は語った。
昨日の発表で、調査チームの一員、Ian Cowx国際魚類研究所(International Fisheries Institute)課長は、(ダムの)影響について明確な警告を発した。
「11か所ともなれば、下流に着くころにゃ、ほとんどなんも残りませんよ」と、Ian Cowx課長は語った。
11か所のダムうち、9か所はラオス国内に計画中、あるいは建設中で、その中の2か所はタイとの国境に位置する。残りの2か所の予定地はカンボジア国内にある。
メコン河は、水力による発電源として大きな可能性を秘めると同時に、驚くほど生産性の高い生態系に恵まれている。今回の調査の試算では、メコン河の魚類の(経済的)価値は年間70億米ドルに達し、カンボジア・ベトナム両国で、下流域の全漁獲高の半分に達する。
■食糧の安全保障
「流域での魚類の消費量の高さを考えると、食糧の安全保障上の重要な問題だ」とCowx課長は述べた。「場所によっては、消費量がほぼ世界一に達するところもある」。
今回の調査によると、河川の生態系にとって最大の脅威は、魚類の産卵と生存の鍵を握る堆砂中の栄養分をダムがせき止めて、劇的に低下させてしまうことである。河川の下流から上流まで回遊するホワイトフィッシュは別として[2]、栄養分の半減が主な原因で、魚が年間6万トン以上も減少する可能性があることを、調査の試算は示している。
加えて、調査は、魚類、とりわけホワイトフィッシュの回遊への甚大な影響も警告している。この影響は、ダムの発電所部分ばかりではなく、貯水池ができることにも起因する。貯水池の中には、(ラオス北部の)サイヤブリダムのように、100キロ近くも上流に延びる場合がある。
「卵も稚魚も下流に移動できなくなる」とCowx課長は述べた。「貯水池が水だめの役割を果たして、卵や稚魚が捕まってしまう。手の施しようがない」。調査では、回遊への影響によるホワイトフィッシュの減少は、カンボジア国内で18万トンと試算している。
■農業への影響
影響の範囲は魚類に限らなかった。調査チームのメンバーでHDRコンサルタント社のAnwar Khan事業担当は、11か所のダム建設でカンボジアのコメの生産が3.7%減少(2007年比)し、とうもろこしの収穫は5分の1以上も減少するとしている。これは、下流への堆砂の自然な流れが減少するためである。また、流域全般での洪水の変化は最小にとどまるものの、ダムの下流100キロ圏内の住民には大きな影響が及ぶとのことである。
Anwar Khan事業担当は、(カンボジア)クラチエ県(に計画中)のサンボーダムに触れて、「水位が大幅に上昇し、その後、非常に短期間のうちに大幅に下降することになるだろう」と語った。「河川交通への影響が顕在化するのは、その時点だ。水流がプノンペンに到達するころには、影響はかなり分散しているだろう」。
カンボジア政府は調査に資金提供をしていないが、同国のTe Navuth国内メコン委員会委員長は、「調査の結果には注目している」と述べた。一方、ベトナムのLe Duc Trung国内メコン委員会委員長は、カンボジア・ベトナム両国が来月(11月)にも作業部会を立ち上げ、調査結果を検討したうえで、以降の段取りを話し合うと語った。
カンボジア・ベトナム両国政府は、ラオス政府がカンボジアとの国境近くに建設予定のドンサホンダムに反対している点では立場が一致している。メコン河委員会(MRC)を通した六か月におよぶ協議の結果、ラオス政府は、建設推進は自国の権利であり、ほどなく建設を開始すると主張して交渉から離脱した。
注
[1] 記事の原文(英語)は、以下で閲覧可能
http://www.khmertimeskh.com/news/17027/mekong-dams-could-halve-fish-stocks--study/
[2] コイ科の淡水魚
(文責・翻訳 土井利幸/メコン・ウォッチ)