ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ビルマ>石炭火力発電>住民の猛反対続くモン州アンディン石炭火発事業、一時中断か
メコン河開発メールニュース2016年1月18日
ビルマ(ミャンマー)では、日系企業による石炭火力発電所の建設計画が複数持ち上がっています。そのうち3案件(※)については、反対を訴えている住民グループの方々をお招きし、昨年11月に東京でセミナーを開催させていただきました。(報告はこちら http://sekitan.jp/jbic/2015/12/08/1463 記者会見の動画、政府機関ならびに関連企業に提出した反対の要請書もご覧いただけます。)
3案件の計画地はいずれも豊かな自然に恵まれた漁村や農村で、住民は石炭火力発電所の建設による環境破壊や生活・生計・健康への影響を懸念しています。予定地で暮らす人びとは、まだ全国的に送電網が未整備の同国で、政府の進めようとする中央集約型ではなく、環境負荷のより少ない再生可能エネルギーを活用しながら、地方分散型のエネルギー計画を選択するのが適当ではないか、また、同国内の豊富な天然ガスを隣国に輸出する一方で、海外の石炭を輸入して発電をしようとする国のエネルギー計画が妥当なのか、と疑問を呈しています。さらに、3案件は住民不在のまま計画が推し進められてきた経緯があり、事業プロセスにも問題があります。
この3案件のうち、モン州アンディン村の計画について、昨年末、電力省の副大臣が公の場で一時中断を明言しました。その発言を伝える現地新聞イラワディの記事を、和訳でご紹介します。このアンディン村では、民族衣装に身を包んだ住民6千名が集まり、2015年5月に地元で反対集会が開かれました。その模様についてはメコン・ウォッチのブログでもお伝えした通りです。
http://mekongwatch.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/6000no-9feb.html
昨年の来日では、住民代表が事業関連企業の親会社である東洋エンジニアリング株式会社に面会を申し入れましたが、同社は子会社の進める事業への決定権はないと面会を拒否しています。それでも住民代表は、千葉県にある同社本社を訪れ反対を表明する住民からの書簡を届けましたが、受付に届けるに留まっています。
今回の当局高官の発言は中止を表明したものではなく、あくまで住民の理解を得るための一時中断ということですが、住民の強い反対の声を同国政府も無視できぬ状況になっていることを示しています。
世界的に温暖化対策を進める合意が成立した今、最新技術であっても他の発電源より大量の二酸化炭素を排出する石炭火力発電所を日本企業がビルマに積極的に導入していく、という筋書き、何よりもビルマのエネルギーの将来を決めるマスタープランに国際協力機構が石炭火力を基幹電源の一つとして組み込んだ提案をしていることは、世界的にも認められないものでしょう。
※計画地:モン州アンディン村区域【関連企業:TTCL(通称トーヨー・タイ。タイのプラント建設会社で、東洋エンジニアリング株式会社の関連会社)】、エーヤワディー管区ガヨーカウン区域【三菱商事、J-POWER】、タニンダーリ管区タラブィン村区域【丸紅】
2016年1月5日
THE IRRAWADDY
Yen Snaing記者
ヤンゴン― 電力省のAung Than Oo副大臣は、先週、議会に対し、モン州アンディン村に計画されている石炭火力発電所に関連するすべての業務を、住民の合意が得られるまで一時中断すると発言した。
トーヨー・タイ社は、イェ郡のこの村に、費用が28億米ドルを超えるとされる、1,280メガワットの石炭火力発電所を建設しようとしてきた。2015年4月には、30年間の建設および運用に関する合意が、トーヨー・タイと電力省の間で結ばれていた。
副大臣の発言は12月30日の国会にて、モン民族のMi Myint Than議員から問われた「地元の反対が長引く状況で、この発電所は続行するのか」という質問に対してであった。
議員は副大臣に対し、国の電力網のイェ郡への拡張計画についても質問した。イェ郡では現在、私有の発電機からの電力にアクセスせざるをえず、メーターあたり500から1,000チャット(0.38から0.76米ドル)を支払わされている状況だ。
世界銀行の支援を受けて作られた、政府の野心的な国家電化計画のもとで、政府は2030年までに全国で電力アクセスを確保するという目標を立てた。今、電力網にアクセス可能なのは人口のおよそ30%程度である。
ビルマの2014年国勢調査では、照明の主要なエネルギー源に電力を挙げたのは回答者の32.4%に過ぎなかった。約70%の回答者は、炊事の第一のエネルギー源に薪を挙げ、電力を挙げた16.4%を大幅に上回った。
Aung Than Oo副大臣は、省は、モン州のモーラミャイン、イェ、タニンダーリ管区のダウェイ間に電力を供給する開発の入札手続きを開始したと述べた。環境社会影響評価は、2016-2017年度に予定されているという。
アンディンで計画されている発電所に関し、副大臣は、地元で反対が続いており、影響評価も含めたすべての準備作業を中断させると述べた。彼は、これまでに行われた同事業のコンサルテーションに触れ、トーヨー・タイにより実施されたタイと日本の石炭火力発電所への視察ツアーについても言及した。
視察ツアーについては地元住民から透明性を欠いたと批判され、多くの住民は、このツアーは参加者から事業への支持を得ることを目的に行われたと見ている。
国際協力機構(JICA)および日本のコンサルタントにより草稿された国家電力マスタープランによると、2030-2031年にビルマで必要になると見込まれる発電量23,594メガワットの電源につき、提案されているのは、水力38%、石炭33%、天然ガス20%、再生可能エネルギー9%である。
副大臣は水曜、石炭の有用性について語り、石炭火力発電による電力のコストは、メーターあたり100チャット前後だとした。
「水力発電は建設のためにより多くの時間を要し、費用も掛かり、環境を害さないよう注意が必要になる」と副大臣は述べた。「小規模および中規模の水力発電に国内投資を呼び込みたいが、増加する電力需要を賄うことはできないだろう」と言う。
記事の原文(英語)はこちら。
http://www.irrawaddy.com/burma/official-vows-to-suspend-plans-for-controversial-power-plant-in-mon-state.html
(翻訳/文責 メコン・ウォッチ)