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ミャンマー・ティラワ経済特区>次期開発事業の概要・現状と課題(2)

メコン河開発メールニュース2016年7月13日



移転区域2-1に関する住民協議(2016年2月)

前回に続き、ティラワ経済特区(SEZ)次期開発事業(700ヘクタール)について報告します。

次期開発事業の移転計画の策定手続きについては、チャウタン郡パラン村(エイミャティダ村区域)に位置する移転区域2-1(100ヘクタール)について2016年2月から、移転区域2-2(162ヘクタール)について2016年4月から住民協議がそれぞれ開始され、各々の移転計画ドラフト版も公開されています(http://www.myanmarthilawa.gov.mm/resettlement-plan )。

どちらも次期開発事業・工業区域(262ヘクタール)に含まれ、うち移転区域2-1が100ヘクタールの先行開発区域にあたります。移転計画ドラフト版によれば、移転区域2-1では5世帯が移転、13世帯が農地への影響を受け、同様に移転区画2-2では、136世帯が移転(移転区画2-1で農地のみ影響を受ける3世帯を含む)、18世帯が農地への影響を受けるとされています。今後、住民協議が継続されるなかで、これらの数字も確定されていくことになります。

次期開発事業の物流・住宅・商業区域(計438ヘクタール)については、まだ移転に関する住民協議等は開始されていません。

>次期開発事業の概要は、こちらをご覧下さい。
http://www.mekongwatch.org/resource/news/20160707_01.html

 

●土地収用の問題

影響住民の最大の関心事は、土地の補償がなされるか、また、移転地はどこになるのかです。土地の補償については、移転区域2-1、および、2-2の場合、ティラワSEZの他区域と異なり、1997年の軍事政権下での土地収用時に1エーカー当たり20,000チャットの補償金が支払われていない約308ヘクタールに相当するとミャンマー政府側が認めており、土地に対する補償金も支払われるとの説明がなされています。したがって、今後、国際協力機構(JICA)環境社会配慮ガイドライン(以下、ガイドライン)に則った「再取得価格」に基づく補償の算定が、どのように透明性が保たれた形でなされていくか、注視が必要です。

その他の移転区域については、初期開発区域(400ヘクタール)と同様、1997年に1エーカー当たり20,000チャットの補償金を支払った上で土地収用済みであるとミャンマー政府側が主張しており、土地に対する補償金は支払わない方針を示しています。これに対し、住民側は1997年の収用が1894年土地収用法に則った手続きを踏んでいないことや、6ヶ月利用されていない土地の返還が2012年農地法で規定されていること、また、1997年以降も実質的に農地として利用し、納税を行なってきた時期があることなどから、同地域の土地に対しても補償金が支払われるべきと主張してきました。

こうした土地問題は、軍事政権時代からの負の遺産としてミャンマー各地で残っていますが、今年3月末にできた新政権は、「軍事政権下での土地強制収用」問題の解決を優先課題の一つとしており、この5月には、「強制収用農地およびその他の土地に関する中央レビュー委員会」を設立。土地問題のモニタリングと政府機関等から農民への土地返還を行なっていくとし、これらの土地問題が法に則った形で解決されるまでは土地収用を延期するよう促しています。

現地住民組織ティラワ社会開発グループ(TSDG)は、こうした新政権の動きに対し、5月16日付で同中央レビュー委員会の各委員に対し、書簡を提出。ティラワSEZ開発をこれ以上進める前に、まずは、ティラワ地域での軍事政権下における強制収用について、同委員会がレビュー対象に含め、土地問題を解決することが必要であると警鐘を鳴らしています。今後、同委員会で、このティラワにおける土地問題が精査されるよう、住民側は働きかけを続けていく予定ですが、同事業に関わるJICAや日本企業は、この負の遺産である土地問題が適切に解決されるまで、次期開発区域の開発を一方的に進めることがないよう真摯な対応が求められています。


●移転地の場所と軽視できない生活環境の広さ


初期開発時に用意された移転地(2016年2月)

移転区域2-1に居住する農家の家屋と家庭菜園(2016年3月)

移転区域2-2に居住する農家の家屋(2016年3月)

移転区域2-2に居住する農家の家屋(上写真)の周りに家庭菜園や家畜の飼育小屋などが広がっている(2016年3月)

移転区域2-1(工業区域100ヘクタール)内の放牧地の様子1(2016年3月)

移転区域2-1(工業区域100ヘクタール)内の放牧地の様子2(2016年3月)

移転地については、ミャンマー政府側が現在提示しているのは、初期開発区域(400ヘクタール)の住民が移転した先に隣接する場所で、現在の居住場所からは4.5〜8キロメートル離れているところです。ティラワ地域に長く暮らしてきた主に農家の世帯と、比較的近年になって移り住んできた世帯との間で意見の相違は見られるものの、前者は総じて、近隣への移転、具体的には現在の村区域内においてSEZ対象区域から外されている区画を移転地として希望しています。ミャンマー政府側は、最終的には住民と協議の上で場所を決定するとしていますが、初期開発区域からの移転で見られた諸々の課題・教訓も十分に踏まえつつ、住民の希望に沿った移転地の確保により積極的に努めることが求められています。

また、従来の生活環境・様式を十分に理解した上で、移転地の広さや立地条件にも十分な配慮がなされるべきです。初期開発区域(400ヘクタール)の開発時に用意された移転地は、家屋が密集しており、家の周囲での家畜の飼育や家庭菜園には限度がありました。しかし、ティラワ地域での暮らしは、一般的な農村地域で見られるように、家屋の周りにさまざまな野菜を植えることができ、牛、ヤギ、ブタ、ニワトリ、アヒルなどの家畜も飼うことができるものです。

放牧地のように地域住民が共同で利用している場所も軽視できません。少なからぬ住民が家畜の放牧や作物の栽培をしたり、あるいは、魚やキノコ、薪をとったりと、生活の糧の一部として利用してきました。

このように、広いスペースや自然資源に依存した生活を送っている住民が、移転地のような空間の広がりが限定的で、自然資源へのアクセスも限られてしまう場所での慣れない暮らしを強いられる状況を念頭に、可能な限り、生活環境・様式の変化が軽減されるような立地条件と広さを確保する配慮が求められます。それと同時に、生活環境・様式の変化に適応する時間が住民に必要であることを理解した上で、適応期間中に必要な支援策についても考慮されるべきです。

さらに、移転区域2-1(100ヘクタール)では、移転、および、農地収用対象者の人数は計18世帯であるものの、放牧地が広がっているため、その利用住民にも少なからぬ影響が及ぶことが考えられます。そうした住民の意見・懸念が適切に反映されるよう協議がなされ、彼らへの影響にも十分に配慮した対応をとることが求められています。

(参考:放牧地の利用に関する配慮等について、メコン・ウォッチからJICAに提出した質問書(2016年3月14日) PDF)

 

●移転前からの生計回復措置
初期開発区域(400ヘクタール)における移転問題から得られた教訓のなかで、もう一つ重要な点は、住民の同意の下で、代替の持続的生計手段への移行を実際の移転前から始めることです。この点は、現在公開されている移転計画ドラフト版(移転区域2-1)で示されている暫定スケジュール表でも、生計回復計画のトレーニング、雇用斡旋、小規模ビジネス立ち上げ支援等のプログラムを住民協議の下、移転前から提供する予定とされています。

今後は、これらプログラム自体の具体的な内容に加え、この移転前の支援に対し、どれ程十分な期間がとられるのかが課題となってきます。次期開発区域・工業区域(262ヘクタール)の環境アセスメント(EIA)報告書(2016年5月)によれば、移転区域2-1に当たる先行開発区域100ヘクタールの工事は雨季明けの2016年10月頃に開始見込みとされています。しかし、移転準備がまったく整っていないなか着工に踏み切り、多くの移転住民の深刻な生活悪化を招いた初期開発区域の轍を踏まぬよう、着工の時期を遅らせることも検討しつつ、移転住民の生活・生計移行期間に十分配慮した対応をとることが事業者側に求められています。

 

 

※ミャンマー(ビルマ)・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業
パッケージ型インフラ事業として、日本が官民を挙げて進めている。ヤンゴン中心市街地から南東約23kmに位置するティラワ地区2,400ヘクタールに、製造業用地域、商業用地域等を総合的に開発する事業。初期開発区域(A区域。400ヘクタール)に海外投融資による出資をJICAが決定(ODAによる民間支援)。三菱商事、住友商事、丸紅が参画。A区域は2015年9月に一部開業している。JICAは残り2,000ヘクタールにおいても協力準備調査を実施していたが、次期開発区域(B区域。700ヘクタール)の了解覚書(MOU)の締結後、上記の日本3商社が出資を決めた262ヘクタール(B区域内)の工業区域の開発に出資を検討中。2016年7月現在、同工業区域の環境アセスメントや住民移転計画の審査を行なっている。A区域は2013年11月に着工し、68世帯(約300人)がすでに移転。残り2,000ヘクタールの開発では、さらに995世帯(3,829人)が移転を迫られることになる。

 

→ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業についての詳細はこちら
http://www.mekongwatch.org/report/burma/thilawa.html

(文責 メコン・ウォッチ)

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